見出し画像

『悪名太鼓』(1964年8月8日・大映京都・森一生)

 シリーズ第九作は、九州篇。今回のシナリオは、第八作まで手がけてきた依田義賢に変わって、若手の藤本義一にバトンタッチ。藤本は大阪府立大学経済学部在学中から、ラジオドラマや戯曲を執筆、昭和32(1957)年、ラジオドラマ「つばくろの歌」で芸術祭文部大臣賞・戯曲賞を受賞。卒業後は、東宝傍系の宝塚映画撮影所に入社、川島雄三監督に師事して『貸間あり』(1959年・宝塚)『丼池』(1963年・宝塚・久松静児)などのシナリオを執筆。今東光原作『河内風土記 おいろけ繁盛記』(1963年・宝塚・佐伯幸三)を手がけたのちに、大映へ移籍。勝新太郎の「現代インチキ物語」シリーズ(1964年)、田宮二郎のシリーズ第1作『宿無し犬』(1964年・田中徳三)を執筆。関西弁ネイティブのコメディの手腕を買われて『悪名太鼓』に参加した。

画像2

 ヒロインには、ジャズシンガーで女優、テレビタレントとして人気だった朝丘雪路。勝新太郎とは、この年『ど根性物語 図太い奴』(1964年1月19日・森一生)に続いての共演。第二ヒロイン(お色気担当)は、大映女優・浜田ゆう子。第三作『新・悪名』(1962年・森一生)で、朝吉の幼馴染で米兵にレイプされ夜の女となった月枝を演じていた。今回は、香港シンジケートと、北九州の組織をつなぐ謎めいた女を演じている。

 第八作までレギュラーだったお照(藤原礼子)は本作には登場しない。そのかわりに、清次(田宮二郎)と言い交わした河内の女・お徳(若松和子)が登場して、お照のパートを演じている。

 河内の夏祭り直前、清次が、朝吉が大事にしていた河内太鼓を、九州の狼王会に勝手に貸し出してしまう。激怒した朝吉は、清次のトラックを追いかけるが、清次は「夏祭り」資金を作るからと、朝吉を振り切って九州へ。このトップシーン、躍動感があって楽しい。ここで「悪名」のいつものパターンで、「清次のフライングによる裏切り」から始まる。

 しばらくすると。清次のといい仲のお徳(若松和子)が、徳島の清次の母親からの電報を受け取る。なんと、清次は九州で急死。葬儀の知らせだった。劇中で語られる清次の本籍は次のとおりである。

徳島県阿波市山本町73 北村清次
昭和8年2月15日 生まれ

 事情がさっぱり飲み込めない朝吉、関門トンネルを越えて北九州へ。盛大な花輪が並ぶ告別式には、なんとニセ朝吉とニセ清次の一郎(芦屋雁之助)と二郎(芦屋小雁)がいた! しかも祭壇の写真は清次とは全く別人だった。一郎たちに事情を聞こうとするも、2人は朝吉の顔を見て逃げてしまう。葬式には真珠のネックレスをした謎めいた女(浜田ゆう子)がいたが、朝吉の名を聞いた途端に逃げ出す。

画像3

 では死んだ清次は、一体何者なのか? 朝吉はその女房・宏子(朝丘雪路)から、亡き夫は密入国者で、狼王会のボス・菊沢(見明凡太朗)から清次の戸籍を買ったと聞いた。しかも菊沢から香港ルートの麻薬密売グループへの誘いを断ったために殺されたという。幼い男の子と2人になってしまった宏子の窮状を、助けようとまたまた朝吉がひとはだ脱ぐことになるが・・・

 今回のワルは、大映のベテラン・見明凡太朗。清次が持ってきた河内太鼓に、香港ルートの麻薬を詰めて、関西へ運び出そうという魂胆。香港のシンジケートとつながっているのが、杏子(浜田ゆう子)で、その手下として雇われたのが一郎と二郎のコンビだったことが次第にわかってくる。間抜けなのが清次、口車に乗せられて戸籍を売ってしまったために「存在しない男」になってしまい、今は狼王会の菊沢の言いなりになっている。宏子に横恋慕している菊沢は、宏子の息子・タカシの誘惑を目論むが、朝吉のために失敗。事情を知りすぎた朝吉を消そうと考えた菊沢は、その殺しを清次に命じる。

 と、いつものように、最悪な状況下での「朝吉と清次の再会」と相成る。朝吉も、清次も観客の中にキャラクターが確立しているので、それぞれが出てくるだけで、笑いが起きるようになっているが、今回は喜劇というよりは、日活アクションや大映東京のアクション映画のようなテイスト。テンポよく展開してくので、眺めているだけでも楽しいが、初期「悪名」シリーズが持っていた「土着的な人間喜劇」の味わいは薄くなって、ドライなアクション・コメディにシフトしている。藤本義一は、この後も、田宮二郎の「犬」シリーズのメインライターとなるが、主人公・鴨井大介の「軽さ」は本作の清次のバリエーションでもある。

画像1

 昭和39(1964)年という時代を感じるのは、宏子の息子・タカシが遊んでいるオモチャがブリキの「鉄人28号」であること! テレビアニメ版がスタートしたのが昭和38(1963)年10月で、ちょうどこの頃ブームとなっていた。なので『悪名太鼓』の時代は「現代」ということに。第三作『新・悪名』からしばらくは敗戦後の物語だったが、前作『悪名一番』ではいつの間にか「東京オリンピック前の東京」が舞台となっていた。その辺りは作り手も観客も意識しなくなっていたのだろう。朝吉と清次のコンビが巻き起こす騒動こそが「悪名」シリーズとなっていた。

 朝吉が仲良くなる流しのギター弾き・圭介に、バタヤンこと田端義夫。マドロス・スタイルで、ギターを片手に「オース!」と挨拶をするがトレードマーク。今回は、朝吉と船に乗って、ヒット曲「かえり船」(作詞・清水みのる 作曲・倉若晴生)を歌う。人気歌手のゲスト出演と思いきや、ラストに意外な正体が明らかになる。また大映のバイプレイヤー・寺嶋雄作が、酔いどれの老やくざを演じているが、これまた味わい深い。狼王会の幹部・高城に伊達三郎、香港シンジケードのボス・李徳忠に嵐三右衛門と、いつもの面々が、ワルで次々と登場する。

で、いつものように朝吉と清次が、海上で麻薬取引をしようとしているワルたちを一網打尽。漂着した5億円の取引金を清次が着服しようとするも、朝吉のモラルがそれを許さない。でも少しぐらいはいいか、となってからの展開が喜劇的で面白い。大団円は、無事に河内の夏祭りで「河内太鼓」の乱れ打ちをする朝吉と清次。そして朝吉ご自慢の「河内音頭」で賑やかにフィナーレとなる。

画像4




 

よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。