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『ブルースの誕生』(1941年11月7日米公開・パラマウント・ヴィクター・シャーツィンガー)

ハリウッドのシネ・ミュージカル史縦断研究。5月24日(火)は、ビング・クロスビー&メアリー・マーティン主演『ブルースの誕生』(1941年11月7日米公開・パラマウント・ヴィクター・シャーツィンガー)をアマプラで字幕版(ジュネス企画版)をスクリーン投影。パラマウントをホームグラウンドにしていたビング・クロスビーのミュージカル・コメディのフォーマットで、ニューオリンズのディキシーランド・ジャズの誕生を描いた音楽映画。

ジャズ映画ではあるが、あくまでもビング・クロスビー映画。なのでいつものパラマウント映画の味わい。ビングと、ブロードウェイで大活躍していたメアリー・マーティンの歌をふんだんにステレオタイプの黒人たちの哀感が描かれる。とはいえ、オリジナルのディキシーランド・ジャズ・バンドがいかにして誕生したかを映画で体感することができるし、伝説のトロンボーン・プレイヤー、ジャック・ティーガーデン・オーケストラの演奏や、数々のスタンダードナンバー、芸達者・エディ・ロチェスター・アンダーソンのコミカルな味などが楽しめる。

オリジナル・ポスター

ビング・クロスビーとバンドが演奏する”Tiger Rag””St. James Infirmary”、ジャック・ティーガーデンの演奏、ルビー・エイジーのヴォーカルによる”St. Louis Blues”などジャズの定番曲。ビングが歌う主題歌”The Birth of the Blues””Memphis Blues””By The Light of the Silvery Moon”などのスタンダード。そして、ビングとメアリー・マーティンのデュエット”Wait Till the Sun Shines, Nellie”は本作のショー・ストッパー! 10代の頃からレコードで繰り返し聞いてきた耳馴染みの歌声を映像で楽しめるのは嬉しい。

ロビーカード

また、アカデミー主題歌賞にノミネートされた、ジョニー・マーサー作詞・作曲”The Waiter, and the Porter and the Upstairs Maid”をビング、メアリー、ジャック・ティーガーデンが歌うシーンの楽しさ。音楽映画としてのナンバーもふんだんで1940年代パラマウント音楽映画の味が楽しめる。

ビング・クロスビーが演じる主人公・ジェフ・ランバートは、父親が厳格なクラシックの教師で、クラリネット奏者。幼い頃から父に隠れて、黒人たちとジャムセッションを楽しんでいる。12歳のジェフを演じているのが、ビングと女優・ディキシー・リーとの息子ロニー・クロスビー。1927年にカリフォルニア、アラバマ生まれ。1930年代、”Boulder Dam” (1936), ”Little Men” (1934) 、”Telephone Operator” (1937)などに子役として出演していた。

白人のディキシーランド・バンドとして成功を夢見ていたジェフが、監獄に収監されていたコルネット・プレイヤーを保釈させるところから物語が始まるが、このコルネット・プレイヤー”メンフィス”を演じているのが、ブライアン・ドンレヴィ。元々舞台俳優だったが、『バーバリー・コースト』(1935年・ユナイト・ハワード・ホークス)のナックレス役で注目を集め、『大平原』(1939年・パラマウント・セシル・B・デミル)、『ボー・ジェスト』(1939年・パラマウント・ウィリアム・A・ウェルマン)のマーコフ軍曹などが印象深い。いわゆる伊達男キャラクターとしてパラマウントで活躍していた。

20世紀初頭、ニューオリンズのベイスン・ストリートでは、アフリカ系黒人たちが新しい音楽”ジャズ”を演奏していた。12歳の少年・ジェフ・ランバート(ロニー・クロスビー)は、ジャズに夢中になり、厳格な父の目を盗んでは、ベイスン・ストリートのジャムセッションに参加。クラリネット吹いていた。それから10年、ジェフ(ビング・クロスビー)は、白人初のブルースバンドを結成。しかし、コルネット奏者が見当たらなく、たまたま下男のルイ(エディ・ロチェスター・アンダーソン)が、投獄されているメンフィス(ブライアン・ドンレヴィ)がコルネット奏者だと教えてくれる。

では、メンバーにということで、ジェフは、トロンボーン奏者のペッパー(ジャック・ティーガーデン)たちを引き連れ、牢屋の前でジャムセッション。メンフィスも牢の中から参加して、盛り上がる。ならばと、メンフィスを仮出所させようと、仲間から金を集めるも、どうしても十ドル足りない。そこで、ジェフは、馬車の車輪が外れて難儀をしていたところを助けたベティ・ルー・コップ(メアリー・マーティン)からその十ドルを借りる。

やがてベティもバンドに加わり、白人初のブルースバンドを大々的に売り込もうとするが、白人がジャズ?と周囲の目が冷たい。ベティが歌手として契約したギャングのブラッキー(J・キャロル・ナッシュ)の経営する店に、彼女の専属バンドとして潜り込む。ステージは大受けで、人気は急上昇。となるとブラッキーの態度が豹変、ジャズ・ブームが到来したシカゴからの引き抜き話を知って、バンドに対して圧力をかけてくる。

パラマウントお得意の、ビング・クロスビーのミュージカル・コメディのスタイルの中に、ベイスン・ストリートのジャズ、白人のジャズ差別、暗黒街とミュージシャンの関係、シカゴジャズの興隆などの音楽史がうまく按配されてドラマが展開。ビング・クロスビーとメアリー・マーティンのナンバーも踏んだんで、ソング・ミュージカルとしても充実している。

1947年に作られた、ルイ・アームストロング、ビリー・ホリディが出演した音楽映画『ニューオリンズ』(ユナイト・アーサー・ルービン)と合わせて観ると紙芝居的な展開であるが、なんとなく「ジャズのアーリー・デイズ」を味わうことができる。

【ミュージカル・ナンバー】

♪ブルースの誕生 The Birth of the Blues

作曲:レイ・ヘンダーソン 作詞:バディ・G・デシルヴァ、ルー・ブラウン
唄:ビング・クロスビー

♪メンフィス・ブルース Memphis Blues

作曲:WC・ハンディ 作詞:ジョージ・A・ノートン
唄:ビング・クロスビー、バンド

♪月明かりの下で By The Light of the Silvery Moon

作曲:ガス・エドワーズ 作詞:エドワード・マッデン
唄:ビング・クロスビー

♪タイガー・ラグ Tiger Rag

作詞・作曲:エドゥイン・B・エドワーズ、ニック・ラロッカ、トニー・サバーバロ、ヘンリー・ラガス、ラリー・シールズ
唄:ビング・クロスビー、バンド

♪教会で待っている Waiting at the Church

作曲:ヘンリー・E・ぺザー 作詞:フレッド・W・リー
唄:メアリー・マーティン

♪近づいて抱きしめて Cuddle Up a Little Closer

作曲:カール・ホスチナ 作詞:オットー・A・ハーバック
唄:メアリー・マーティン

♪サンシャイン・ネリーを待って Wait Till the Sun Shines, Nellie

作曲:ハリー・フォン・ティルザー 作詞:アンドリュー・B・ステアリング
唄:ビング・クロスビー、メアリー・マーティン

♪メランコリー・ベビー My Melancholy Baby

作曲:アーニー・バーネット 作詞:ジョージ・A・ノートン
唄:ビング・クロスビー

♪ウエイターとポーターと二階のメイドThe Waiter, and the Porter and the Upstairs Maid

作詞・作曲:ジョニー・マーサー
唄:ビング・クロスビー、メアリー・マーティン、ジャック・ティーガーデン、バンド

♪セントルイス・ブルース St. Louis Blues

作詞・作曲:WC・ハンディ
唄:ルビー・エルジー

♪アフター・ザ・ボール After the Ball

作詞・作曲:チャールズ・ハリス
パフォーマンス:ブラック・タイ・カフェでのオーケストラ演奏

♪カーニヴァル・オブ・ベニス Carnival of Venice

作曲:ニコロ・パガニーニ 作詞:バークレイ・グレイ

♪セント・ジェームズ病院 St. James Infirmary

作詞・作曲:アーヴィング・ミルズ
唄:ビング・クロスビー

♪シャイン Shine

作曲:フォード・ダブニー 作詞:セシル・マック

♪メヌエット Minuet in G

6つの演奏会用ユモレスクより
from "6 Humoresques de Concert"
作曲:イグナツィ・パデレフスキ
演奏:ロニー・コスビー

♪ジョージア・キャンプ・ミーティング At a Georgia Camp Meeting

作曲:ケリー・ミルズ
パフォーマンス:バンド演奏


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