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『拳銃貸します』(1941年・パラマウント・フランク・タトル)

 Amazonプライム・ビデオは、ハリウッド・クラシックスがどんどん充実してきて嬉しい。昨夜はグレアム・グリーン原作『拳銃貸します』(1941年・パラマウント・フランク・タトル)をスクリーン投影。太平洋戦争開戦前夜、アメリカの液化ガスの計算式を日本に流そうとする組織の陰謀をめぐる、殺し屋、女性スパイ、ロサンゼルス市警の刑事たちの暗闘を描く、傑作フィルムノワール。日本ではずっと未公開だったが、テレビで何度か放映され、2013年にシネマヴェーラで初上映された。

 主演は妖艶なヴェロニカ・レイク。その恋人の刑事にロバート・プレストン。そして本作で大々的にイントロデュースされたのが、孤独な陰を持つ殺し屋役のアラン・ラッド。パラマウント映画に限らず、この頃のハリウッドは自局に迎合し、ナチや日本に機密情報を横流しする「売国奴」や政治的シンパの陰謀を打ち砕く、というパターンのノワールや活劇が作られていた。

 ヒロインのヴェロニカ・レイクは、表向きはナイトクラブのショー芸人で、歌を歌いながら華麗なマジックを披露してくれる。本当に美しく、この時代を象徴するハリウッド・ビューティーのひとりである。彼女には、もう一つの顔があって、サンフランシスコ知事からの密命を帯びて、陰謀団を探る女性スパイでもある。

米版ポスター

 サンフランシスコ。フィリップ・レイヴン(アラン・ラッド)は、クライアントからの指令で、ロスの液化ガス工場の計算式をネタに強請ってきた男と、その秘書を拳銃で射殺。計算式を奪ったレイヴンは、クライアントであるウィラード・ゲイツ(レアード・クリーガー)からギャラを受け取る。このウィラードは、ハリウッドでナイトクラブを経営しているが、ロスの化学会社の重役でもある。ゲイツがレイヴンに渡した紙幣は、強盗事件で奪われたもので、レイヴンは強盗殺人犯として指名手配される。

 トップシーンから、アラン・ランド演じるレイヴンが、無表情、ほとんど無言で殺しの仕事を淡々とこなしていく。これぞノワールの味。孤独なレイヴンは、すぐに切れる激しい性格だが、猫が大好きという意外な面がある。冒頭で、そうしたレイヴンのキャラクターを手際よく印象付ける。アラン・ラッドがクールでかっこいい。

 レイヴンが手配中の紙幣を使ったことで、たまたまサンフランシスコに出張中のロス市警の敏腕刑事・マイケル・クレイン(ロバート・プレストン)が捜査に乗り出す。その恋人・エレン・グラハム(ヴェロニカ・レイク)はナイトクラブのショー芸人で、ゲイツの店のオーディションに合格。ハリウッドの店に出演することに。エレンは、政府から密命を帯びたスパイで、ナチスのスパイの正体を暴くという目的があった。自分がゲイツに嵌められたと悟ったレイヴンは、自ら復讐するためにロスへ向かう。

ロビーカード

 というわけで主人公の三人が、それぞれの立場、目的でロスへ向かい、共通の敵と対峙していくことになる。こうした「偶然」にリアリティがあるのは、ヴェロニカ・レイク、ロバート・プレストン、アラン・ラッドのスターとしての圧倒的な存在感なればこそ。わずか80分に、緊迫のドラマ、ラブストーリーが凝縮されて、お見事!である。後半、レイヴンがエレンを人質に、ゲイツたちの陰謀を暴くため化学工場に潜入。しかしマイケルたち捜査陣に追い詰められ絶体絶命となる。ここでレイヴンは、エレンの本当の目的を知り愛国者として、自分の復讐を果たすことと、エレンの目的を果たそうと決意する。悪人だけど善人。「犯罪者必罰」のハリウッド映画において「売国奴」を倒すためなら、悪役もヒーローとなる、のである。

 幼い頃、養母である叔母に虐待され、それゆえに残虐な性格となったレイヴンの過去。それに同情するエレン。満身創痍のなか、別れ際、エレンがレイヴンの頬にキスするのがいい。こうしたショットを入れることで、新人・アラン・ラッドが際立つ。お見事である。

 ミュージカル・ファンとしては、ヴェロニカ・レイクがマジックを駆使しながら歌うナンバーが二曲もあるのが嬉しい。”Now You See It, Now You Don't” ”I've Got You”いずれも、作詞はフランク・ロッサー、作曲はジャック・プレス。ちなみにヴェロニカの声の吹き替えは、マーサー・ミアーズが担当している。



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