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『暗黒街の巨頭』(1949年・パラマウント・エリオット・ニュージェント)

アラン・ラッド出演のフィルムノワール連続視聴。今回は、スコット・フィッツジェラルド原作「グレート・ギャツビー」の二度目の映画化『暗黒街の巨頭』(1949年・パラマウント・エリオット・ニュージェント)をスクリーン投影。

ロビーカード

 1920年代の「ロスト・ジェネレーション」の作家であるフランシス・スコット・キー・フィツジェラルドの「グレート・ギャツビー The Great Gatsby 」が発表されたのは1925年のこと。まさに「ジャズ・エイジ」の時代である。最初の映画化は『或る男の一生』(1926年・パラマウント・ハーバート・ブレノン)だった。この時のキャスティングは次の通り。

ジェイ・ギャツビー(ワーナー・バクスター)
デイジー・ブキャナン(ロイス・ウィルソン)
ニック・キャラウェイ(ニール・ハミルトン)
マートン・ウィルソン(ジョージア・ヘイル)
ジョージ・ウィルソン(ウィリアム・パウエル)

 のちにワーナーで『42番街』(1933年)でミュージカルの演出家を演じるワーナー・バクスターが、MGMの『巨星ジーグフェルド』(1936年)でブロードウェイの大立者を演じるウイリアム・パウエルに殺されるんだ!と思うが、残念ながら予告篇のフィルムしか現存せず観ることはできない。

 さて、二度目の映画化である『暗黒街の巨頭』(すごいタイトル!)のキャストは次の通り。

ジェイ・ギャツビー(アラン・ラッド)
デイジー・ブキャナン(ベティ・フィールド)
ニック・キャラウェイ(マクドナルド・ケリー)
マートン・ウィルソン(シェリー・ウィンタース)
ジョージ・ウィルソン(ハワード・ダ・シルヴァ)

アラン・ラッドとベティ・フィールド

 なかなかのベストキャスティングである。1940年代後半、第二次大戦後のパラマウントの充実ぶりがわかる。僕らの世代で「グレート・ギャツビー」というと、やはりロバート・レッドフォードとミア・ファーローの『華麗なるギャツビー』(1974年・パラマウント・ジャック・クレイトン)である。フランシス・フォード・コッポラが脚色した大作で上映時間は144分。十代前半で出会ったこともあり、のちのレオナルド・デカプリオとキャリー・マリガンの『華麗なるギャツビー』(2013年・ワーナー・バズ・ラーマン)を観た時も、1974年版を基準にしていた(原作も映画版の後に読んだので、ロバート・レッドフォードのイメージだった)。

 この『暗黒街の巨頭』の脚色と製作は、のちに007シリーズを手がけるリチャード・メイボーム。トップシーンからラストまで、ほぼ原作や1974年版、2013年版の描写が凝縮されていて、しかも91分の尺に収まっているのに驚いた。連日、アマプラで観ている1940年代のパラマウントのフィルムノワールのテイストで、手際良い作り方で、気持ち良いほど快調なテンポで展開。原作のエッセンスを散りばめながら、アラン・ラッドのジェイ・ギャツビーが、貧しい漁師の少年から、謎の大富豪にのし上がっていくプロセスが、回想シーンで的確に描かれる。

 またギャツビーが第一次大戦に向かう直前、出征パーティで出会ったデイジー(ベティ・フィールド)との燃え上がる恋。彼女との結婚を夢見て帰還するも、デイジーはトム・ブキャナン(バリー・サリバン)と結婚していた。絶望のなか「金こそはすべて」と、若い頃に出会った大立者の遺産を元手にその帝王学を実践。禁酒法時代に暗黒街ビジネスで成功して、ロングアイランドに宮殿のような豪邸を建てた。すべてはデイジーを取り戻すため。
と、お馴染みの物語が展開していく。

 ギャツビー邸での土曜日のパーティ。室内を馬が闊歩し、パーティの主催者の顔も知らないスノッブなセレブたちが集まっている。女性歌手がバンドをバックに歌うのは、アル・ジョルソンのヒットで知られる”There's a Rainbow Round My Shoulder”(1928年)。ジャズ・エイジの気分を盛り上げてくれる。ちなみにアル・ジョルソンの歌唱はこちら。

 さて、アラン・ラッドは、ハリウッド・スターのなかで小柄で、それゆえ「小者」のイメージがあるが、本作でのジェイ・ギャツビーは、まさに「小さな巨人」という感じで、本当にベストキャスティング。デイジーの夫・トムは、ロングアイランドからニューヨークに向かう途中のガソリンスタンドの女房・マートン・ウィルソン(シェリー・ウィンタース)と情事を重ねている。上流社会のトムの趣味の悪さと、成り上がり者のギャツビーの趣味の良さ。このアイロニーもフィッツジェラルドの狙い。のちの映画化にも登場する、ジョージ・ウイルソン(ハワード・ダ・シルヴァ)のガソリンスタンドにある大きな「眼鏡屋の看板」がここでも登場。「すべてはお見通し」というアイコンなのだけど。そうしたディティールも原作に準じている。

 デイジーを演じたベティ・フィールドは、1940年代のパラマウントのスター。ジョン・ウェイン初のテクニカラー作品『丘の羊飼い』(1941年未公開・ヘンリー・ハサウェイ)のヒロインに抜擢され、その後、ユニバーサルのオムニバス映画『肉体と幻想』(1943年・ジュリアン・デュヴィヴィエ)の第1話のヒロインを務めた。ベティが演じるデイジーは、前半、可憐で美しく、ギャツビーとの再会で燃え上がり、クライマックスの”例の交通事故”を起こしてからは態度が豹変。その変わり様を巧みに演じている。

 ちなみにこの映画化は、1946年から企画されていて、アラン・ラッドとリチャード・メイボームがプロジェクトを進めていた。しかし当時の検閲の問題でなかなか実現できなかった。当初は、アラン・ラッドとコンビを組んでいたジョン・ファローが監督する予定だったが、キャステイングでメイボームと揉めて降板した。1974年版でデイジーを演じたのは、ジョン・ファローの娘ミア・ファローだったというのも奇縁である。

 


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