見出し画像

『アスファルト・ジャングル』(1950年・MGM・ジョン・ヒューストン)

 ジョン・ヒューストン監督の傑作『アスファルト・ジャングル』(1950年・MGM)を正規品DVDをスクリーン投影。PDばかり観ているとやはりデジタルリマスター版は美しい。

 1940年代後半から50年代前半にかけて、ロケーションを効果的に取り入れたリアルな犯罪映画が連作されていたが、ジュールス・ダッシンの『裸の町』(1948年)と並ぶ、この時代のノワールを象徴するのがジョン・ヒューストンの『アスファルト・ジャングル』である。W・R・バーネットの原作をジョン・ヒューストンとベン・マドゥが脚色。宝石店強奪犯たちの完璧なはずの計画が綻んでいく様を、リアルなタッチで描いている。

ロビーカード

 出所したばかりの知能犯・ドク(サム・ジャフェ)は、刑務所で練り上げていた宝石泥棒計画を実行すべく、小悪党の手配師・コビー(マーク・ローレンス)に、スポンサー探しを依頼。手広くやっている悪徳弁護士・エマリック(ルイス・カルハーン)に持ちかける。盗んだ宝石を故買屋に売っても50万ドルにはなる。実は破産していて文無しのエマリックは、資金を出すフリをして、横取りを計画する。

 実行犯は、ドク、そしてアメリカ西部では最高の金庫破り・ルイ(アンソニー・カルーソ)、運転手にはガス(ジェームズ・ホイットモア)、そして用心棒にタフガイのディックス(スターリング・ヘイドン)雇って、いよいよ犯行を実行する。

 サム・ジャフェが演じるドクは、冷静沈着、ドイツ出身の知的犯罪者で、何をするにも余裕しゃくしゃくで、このキャラクターが実にいい。主人公のディックスは、幼い頃に、父親が牧場経営に失敗して以来、ツキに恵まれず暗黒街で生きることになったが、大金を手にしたら故郷の牧場を買い戻すという夢を抱いている。

 MGM映画ではお馴染みのジェームズ・ホイットモアは、ダイナーの経営者で、チンピラたちの情報網となっている。マーク・ローレンスは、ナイトクラブや賭場を経営し、警察に鼻薬を利かせている小悪党のコビーを好演。アンソニー・カルーソ演じる金庫破りのルイは、赤ん坊が生まれたばかりのマイホームパパ。

 それぞれ、脛に傷を持つワルたちのキャラクター設定がいい「犯罪に大小はない」とドクの名言もいい。

 なんといっても、ルイス・カルーハン演じる悪徳弁護士・エマリックの狡猾さ。破産していて文無しなのに、若い愛人・アンジェラ(マリリン・モンロー)に鼻の下を伸ばして、豪勢な暮らしをさせている。妻は病気で何かと金がかかる。ならばと、チームが盗んできた宝石を奪取して、国外逃亡を目論んでいる。

 荒っぽいけど、根は優しいディックス(スターリング・ヘイドン)を愛しているドール(ジーン・ヘイゲン)のキャラクターもいい。本作の直後『雨に唄えば』(1952年)の敵役リナ・ラモント役を演じてさらに注目を集めることとなる。

ジーン・ヘイゲン

 宝石店に侵入するシーンは、なかなか緻密で、プロフェッショナル映画の楽しさに溢れている。マンホールから地下道を通って、宝石店の地下室の壁を破って侵入。裏口から仲間たちを引き入れて、ニトログリセリンで金庫の扉を爆破する。

 このシークエンスは、小学生の時にテレビで観て「なんて面白いんだ」と大興奮した。しかし、警備員がルイを撃ってしまったことから綻び始めて、全てが破綻に向かって転回していく。

 112分の時間配分も見事で、前半、犯行、破綻の後半と、心理ドラマもたっぷり楽しめる。ハリウッド映画なので「犯罪者必罰」のセオリー通り、警察チームの捜査もヒロイックに描かれる。特にジョン・マクリンタイア演じる警察のコミッショナーが冷徹で「鬼の捜査」という感じで、全員を追い詰めていく。もちろん他の犯罪映画同様「警察広報」「タイアップ」の意味があってのこと。

 ラスト近く、逃亡中のドクがダイナーで、小銭がなくて困っていた若い女の子(ヘレン・スタンレー、ノンクレジット)に5セント硬貨をあげる。彼女がジュークボックスの音楽に合わせて踊る彼女を眺めるシーン。サム・ジャフェの演技が見事で、この後の展開が観客に読めるだけに悠然とした態度が印象的。こうした俳優の演技力によって、さらに映画が豊かになっている。

 マリリン・モンローは可愛く、チャーミングで、ルイス・カルーハンがメロメロになってしまうのもよくわかる。叔父さんキラーとして、100点満点(笑)


よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。