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『続・新悪名』(1962年11月3日・大映京都・田中徳三)

 今東光原作、勝新太郎&田宮二郎主演のシリーズ第四作『続・新悪名』(1962年11月3日・大映京都・田中徳三)を久しぶりに娯楽映画研究所のスクリーンで投影。タイトルがややこしいが、前作『新・悪名』の続篇という意味である。脚本は、ベテランの依田義賢。第二作で原作のエピソードを描いてしまったので、完全オリジナル。このシリーズを立ち上げた田中徳三が監督に復帰している。

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 今回は、再婚してしまった元女房・お絹(中村玉緒)は登場せず、お絹の友達で、第二作で殺されたモートルの貞(田宮二郎)の女房・お照(藤原礼子)は続投。第一作で、因島に売り飛ばされた琴糸(水谷良重、現・二代目・水谷八重子)を救出するときに協力してくれた、因島の宿屋「海渡屋」の仲居・おしげ(阿井美千子)が久々に登場する。第二作で、因島の子持ちの男に嫁いだ琴糸の「その後」も描かれる。「悪名」シリーズの初期は、こうした前作、前々作で描かれた「人間関係」が濃密に絡んでくる。後半、因島が舞台なので、もちろんシルクハットの親分(永田靖)も登場する。

 回を追うごとに、朝吉(勝新太郎)の浪花節的かつ庶民的ヒーローとしてのキャラが濃密となり、すぐに時流に迎合する軽薄な清次(田宮二郎)とのコンビネーションの喜劇映画となってきた。やくざ映画ではなく喜劇。これが「悪名」シリーズの魅力である。今回は、前作にも増して「エピソード集」という感じの構成。

 大阪の闇市を追い出されて「雑炊屋」を辞めた朝吉は、故郷・河内に戻ったものの、闇屋をして糊口をしのいでいるが、居場所がなくなり、再び大阪へ。復興が進む闇市で、元締めにいじめられている靴磨きの少女・ひろみ(赤城まり)が気の毒になり、宿屋へ連れていく朝吉。ひろみは自称・天涯孤独の浮浪児(実は、アル中寸前の母親・ミヤコ蝶々がいる)で、朝吉は宿屋で再会したおかまのお銀(茶川一郎)の頼みで、女剣劇一座の御難を救うことに。

 演芸館の親父・玉島(遠藤辰雄)の横槍で、目前にした興行が中止寸前となったのだ。玉島の事務所で、なんと用心棒に雇われた清次(田宮二郎)と再会。結局、朝吉が興行主となり、ひろみも子役に抜擢される。この辺りは、ほとんど喜劇映画のノリで、舞台では座長・五月洋子(近藤美恵子)が「沓掛時次郎」を熱演、大盛況、大成功を収めるが、なんとブローカー・大磯文次(杉田康)が座員のギャラを前借したままドロン。玉島に借金ができた朝吉は、義理ある因島の麻生親分(浪花千栄子)用立てて貰おうと、玉島を伴って因島へ。

 一方、ひろみの歌のうまさに「これはいける」と清次は、神戸の「クラウンレコードのど自慢大会」にひろみを出場させるべく猛レッスン。ドリス・デイの「センチメンタル・ジャーニー」を仕込む。ひろみを演じた赤城まりはクラウンの少女歌手で、昭和44(1969)年、テイチクに移籍して「流れ川ブルース/父ちゃんが欲しい」をリリースすることとなる。

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 ちょうど「のど自慢狂時代」の昭和20年代前半、観客はひろみに「天才少女歌手・美空ひばり」のあの頃を、重ねてしまう、そんな作りになっている。となると、もちろんステージママが登場する。のどじまんに、なんとひろみの母・お政(ミヤコ蝶々)も出場していたのだ。なんと、この「のど自慢大会」の司会は、若き日の浜村淳先生! 浜村さんとの共著もある友人の戸田学さんによれば、撮影現場で田中徳三監督から「出てみないか?」と声をかけられて、急遽出演することになったという。司会役の俳優も現場にいたのにも関わらず、である。この「ヤング・浜村淳」の司会ぶりの貴重な記録映像でもある。

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 というわけで、この「のど自慢大会」シークエンスは、この映画のアトラクションとして最高に楽しめる。清次とは一面識もない、お政がステージママとして名乗りをあげてからの展開も楽しい。その「のど自慢」の楽屋に、例の持ち逃げ野郎・大磯がいて、近く「クラウンレコード」一行とともに、因島で興行をすることが判明。優勝したひろみも出演することになり、ステージママ・お政とともに因島へ。一刻も早く朝吉にそのことを伝えようとするが・・・

 後半は完全に喜劇映画。今回の朝吉は生命を取られる心配もなく、夫に先立たれて飲み屋の女将となった琴糸(水谷良重)との焼け木杭に火がついて・・・と、シリーズものならではの楽しさに溢れている。で、観客の予想通り大磯は、朝吉にどつかれる。大阪に戻った朝吉は清次とともに、その黒幕の玉島を懲らしめる。

 この四作目で「悪名」シリーズの喜劇映画としてのフォーマットが完成。朝吉と清次が毎回、さまざまな騒動に巻き込まれたり、騒動を起こしたりの戦後史が展開されていく。



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