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『西の王将 東の大将』(1964年8月28日・東宝・古澤憲吾)

深夜の娯楽映画研究所シアターは、東宝クレージー映画全30作(プラスα)視聴。プラスα作品として、5月16日(月)は、クレイジーキャッツ”第三の男”谷啓さんと、藤田まことさんのライバル喜劇『西の王将 東の大将』(1964年8月28日・東宝・古澤憲吾)を、久しぶりにスクリーン投影。久しくCSでも放映がなく、ソフト化もされていないので20数年前にチャンネルNECOでのオンエア録画VHSから。

半裁ポスター

この年一月、植木等さんが過労によるビールス性肝炎で入院。前半は、植木さん抜きのクレイジーキャッツのなかで、大いに頑張ったのが谷啓さん。「シャボン玉ホリデー」をはじめとするテレビのレギュラーや、梅田コマスタジアムでの舞台「クレージー作戦 出たとこ勝負」など、植木さん休養の穴を、谷啓さんの笑いがフォローしていた。また渡辺プロダクションの戦略で、この年、谷啓さん主演作品が連作されていた。1月15日封切りの『図々しい奴』(東映・瀬川昌治)、『続・若い季節』(3月20日・東宝・古澤憲吾)、『蟻地獄作戦』(4月29日・宝塚映画・坪島孝)、『続・図々しい奴』(6月3日・東映・瀬川昌治)と、ほぼ毎月スクリーンに登場。

これに、植木等さん復帰作『日本一のホラ吹き男』(6月11日・古澤憲吾)、製作が延期されていた『無責任遊侠伝』(7月11日・杉江敏男)に続いて製作されたのが『西の王将 東の大将』(8月28日)である。共演の藤田まことさんはテレビコメディ「てなもんや三度笠」(朝日放送)でブレイク、渡辺プロダクション所属となり、活躍の場を関西から全国区へと拡げていた。当時の感覚では「てなもんや三度笠」の藤田まことさん、「シャボン玉ホリデー」の谷啓さんのダブル主演は強力だった。

そこで企画されたのが「谷啓=東の大将」VS「藤田まこと=西の王将」のライバル喜劇。脚本は笠原良三さんと池田一朗さん。戦前の『エノケンの頑張り戦術』(1939年・東宝・中川信夫)の昔から、ライバル喜劇は繰り返し作られてきた。東西のコメディアンをスクリーンで対決させよう、という企画。しかもフォーマット的には、東宝名物サラリーマン喜劇のスタイルで。

これは植木等さんの「日本一の男」シリーズが好調だったこと、メインストリームの「社長シリーズ」がドル箱だったこともある。またクレージー映画の「勢い」を作り上げた古澤憲吾演出と、サラリーマン喜劇の「良識」を支えていた笠原良三脚本のバランスを、製作側が求めていたこともある。

というわけで、大学対抗サッカーの東西主将、大阪学院大学の”西のウマ野郎”天満誠(藤田まこと)と、関東大学の”東のアンパン野郎”神田敬次郎(谷啓)の大学生活最後の試合から始まる。古澤憲吾らしく豪快な演出で、スポーツとはおよそ縁遠そうな谷啓さんと、藤田まことさんが、それぞれゴールキーパーで颯爽と試合に臨む。お互い反則で退場を命ぜられて、結果は散々に。

神田たちが打ち上げをビヤホールで盛大に行なっていると、天満が現れて、お互いの遺恨をなくして、共に頑張ろう!と握手をする。で、二人が就職したのがなんと、同じ会社、大手商社「住丸商事」。そこから二人のらいばつのサラリーマン生活がコミカルに展開していく。

という設定は、笠原良三さんが得意としてきた「東宝サラリーマン喜劇」の完全なバリエーション。云うなれば『三等重役』(1952年・春原政久)の小林桂樹さんと伊豆肇さん、「サラリーマン出世太閤記」シリーズ(1957〜1960年)の小林桂樹さんと宝田明さんの「ライバル関係」のパターンである。なので『エノケンの頑張り戦術』「榎本健一VS如月寛多」や、そのリブート『クレージーだよ天下無敵』(1967年・坪島孝)「植木等VS谷啓」のような「対立がエスカレート」していくコメディではない。

特に『西の王将 東の大将』では、お互いの出し抜き合いのベクトルが「女の子をモノにする」ことに終始している。まずは、新入社員として大阪本社で研修することになった神田(谷啓)と、大阪本社勤務となった天満(藤田)が、アルバイトサロン「淀君」のナンバーワン・悦子(浜美枝)を「どっちがモノにするか」で張り合う。この場合の「モノにする」のはズバリ、ホテルに誘うこと、と云う直裁的なもの。

ちなみに谷啓さんと同期の新入社員役で古谷敏さん(ノンクレジット)が出演。谷啓さんとの身長差を強調するために、二人のツーショットシーンが多い。なお、東京本社の営業部には、中島春雄さんと二瓶正也さんがいるので、(のちの)ウルトラマン、ゴジラ、(のちの)イデ隊員、ミステイクセブン(谷啓)が揃い踏みと云うことになる。

古谷敏さん、谷啓さん

ちなみに、住丸商事東京支店は丸の内の東京銀行集会所(銀行倶楽部)で外景を撮影。大阪本社は、中之島公会堂でロケーションしている。

アルサロが最新風俗として登場するあたりは、サラリーマン映画らしい。で、天満がナンバーワンの悦子を指名、神田が指名したナンバー2は、なんと浦山珠実さん! ここですでに谷啓さんとのツーショットが笑い場になっている。『喜劇 負けてたまるか!』(1970年)でも、腕もお腹も身体もボインのホステスとして浦山珠実さんが出演しているので、6年間に渡ってクレージー映画のヴィジュアル・ギャグを支えていたコメディエンヌであることを改めて実感。

で、肝心の悦子を口説き落とすことに成功した神田は、なんと悦子を籠絡して神戸のホテルで「本懐」を遂げる。しかし、ちゃっかり屋の現代娘に嫌気がさして「ワンナイト・ラブ」で終わる。せっかく浜美枝さんが出演しているにもったいない! なお、悦子は翌年の『続・西の王将 東の大将』で、意外な変身を遂げて改めて登場する。

やがて天満も東京本社勤務となり、大阪でご馳走になったお礼に、神田が天満を連れて行ったのは、銀座のバー。昼は喫茶店、夜はバーを経営しているママ・志津子(新珠三千代)にぞっこんの神田が通い詰めている店である。志津子も神田を「坊や」と可愛がっているのをみて、天満は発奮して、関西流のモーレツ口説き作戦を展開。モーレツという言葉はまだないけど。藤田まことさんの押し出しの強さ、行動力みたいなことを、のちに「モーレツ」と呼称したのかと。

で、天満の強引な口説きに、旦那と別れて「空き巣」だった志津子も陥落。見事にママのマンションで楽しい一夜を過ごす。朝食のサービス、ハイヤーの手配など、いたれりつくせりのサービスに感激する天満。しかし、ここでもちゃっかり屋のママは、天満宛ての請求書に、マンションで飲んだ「ブランデー代」「朝食代・ハイヤー代」をしっかり明記して、さしもの天満も呆れ返る。

というわけで、この映画、ことほど作用にエピソードはあるがお話がない。だけど、古澤憲吾監督のパワフルで勢いのある演出と、谷啓さん、藤田まことさんのキャラクターの魅力で、楽しめてしまう。演出のテイスト的には『日本一のホラ吹き男』のような猪突猛進型の喜劇になっているので。

さて第一ラウンド「大阪」での浜美枝さん、第二ラウンド「東京」での新珠三千代さんと一勝一敗の二人。今度は名古屋へ転勤と相成る。新設のコンビナートでの仕事受注のために、課長(玉川良一)さんとともに転勤。名古屋への「特急こだま」ビュッフェで、二人に声をかけてきた及川ユリ子(司葉子)にメロメロになる。例によって、二人の出し抜き合いが始まるが、ユリ子はそれぞれをデートに誘う。

神田には犬山の遊園地と、日本ラインの川下り。天満には、鳥料理屋での食事。すわ第三ラウンドか? と思わせておいて、ここからようやく、終盤になって「東宝サラリーマン喜劇」らしい展開となる。

それぞれユリ子から、父親が経営する商事会社の取引先のペイント会社を売り込んで欲しいというもの。しかも、第三塗料、平和ペイントと、全く別会社である。そうとは知らずに、二社をコンビナートの大会社部長・大原(由利徹)に売り込んだことで、ユリ子の二股が発覚! 彼女に詰め寄ると意外な事実がわかって…

と、最後の10分でようやく、笠原良三さんのサラリーマン映画的展開となる。で、東京支社に戻り、それぞれが係長心得にスピード出世を果たしたところで、第4ラウンドを匂わせる重役秘書・宮内桃子(園まり)が登場したところで大団円‼️

園まりさんは、第二作『続・西の王将  東の大将』(1965年6月20日・杉江敏男)のトップシーンから登場。いわばブリッジ役として、渡辺プロの秘蔵っ子、スパーク3人娘の園まりさんを起用している。

音楽は宮川泰さん、萩原哲晶さん。オリジナルソングはないが、天満と神田の歓迎会の宴会シーンが、古澤憲吾監督お得意の「突然ミュージカル!」シーン。谷啓さんがタキシード姿で「ソーラン節」を歌いながらタップダンスを踊る。藤田まことさんは、股旅やくざスタイルで「侍ニッポン」を唄って殺陣をみせる。「てなもんや三度笠」のあんかけの時次郎にあやかってのパフォーマンスだろう。

劇伴奏で、宮川泰作曲、ザ・ピーナッツの「東京たそがれ」をリューアルした「ウナセラディ東京」がインストで流れる。また、劇伴奏でジャック・タチ映画のサントラを意識したインストがところどころに流れ、なかなかオシャレな感じである。


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