見出し画像

『地球最后の日』(1951年・パラマウント・ルドルフ・マテ)

Amazonプライムビデオでルドルフ・マテ監督『地球最后の日』(1951年・パラマウント)を数十年ぶりに。小学生の頃、図書室にSF名作シリーズ16「地球爆発」(偕成社)と題してエドウィン・パーマーとフィリップ・ワイリーの原作小説があり、ワクワクしながら読んだ。

地球爆発

その後、(多分)ゴールデン洋画劇場(違うか?)で、ジョージ・パル製作の映画版を観た。監督は、ハンガリー出身のルドルフ・マテ。キャメラマンとしてカール・ドライヤーの『裁かるるジャンヌ』(1928年)、『吸血鬼』(1932年)などを手がけている。渡米後は『ステラ・ダラス』(1937年)やヒッチコックの『海外特派員』(1940年)、エルンスト・ルビッチの『生きるべきか死ぬべきか』(1942年)などの名作のキャメラマン出身である。

南アフリカの天文台で、ベラスとザイラと名付けられた惑星が、地球と衝突することが判明。その天体のコースの検証を、ニューヨークのヘンドロン博士(ラリー・キーティング)に依頼、天体を撮影した感光板を、パイロットのデヴィッド・ランドール(リチャード・ディア)に託す。

博士は、あと8ヶ月で「地球最後の日」が来ることを国際会議で発表するが物笑いのタネにしかならない。ロケットを急造して、地球を脱出、ザイラ移住計画をぶち上げる。その計画に出資するのが、独善的な億万長者・シドニー・スタントン(ジョン・ホイト)で、誰がこのロケットに乗るのか?で、博士と対立する。

デヴィッドは冒険野郎の色男で、ヘンドロン博士の娘で研究者・ジョイス(バーバラ・ラッシュ)と恋に落ちる。で、ジョイスには、医師・トニー・ドレイク(ピーター・ハンセン)がいて、三角関係に・・・

わずか82分で地球滅亡と、ハリウッド式のラブロマンスを絡めて描くので、当然のことながら、映画のスケールは広がらない。最初ギャラだけが目的だったデヴィッドが、ヘンドロン博士の計画に参加していくくだりは、わが「日本沈没」とよく似ている。また大映の『宇宙人東京に現わる』(1956年)の発想の原点は、この映画だろう。

なんといってもヴィジュアルやプロットで最も影響を受けているのが『妖星ゴラス』(1962年)。脱出ロケットのコックピットのセットは、同作の隼号とよく似ている。またロケットのシャープなデザインは、わが「マグマ大使」の匂いを感じる。

地球最後の日・ロビーカード

『月世界征服』(1950年)のジョージ・パル製作なので、ソリッドな特撮が楽しい。本作に続いて『宇宙戦争』(1953年)を手がけることとなる。ロケット建造のヴィジュアルや、二つの天体が地球に急接近してからのディザスター描写。火山が噴火して、大都会が洪水に見舞われる。炎上する街。水没した住宅街の屋根に取り残された少年をヘリコプターで救出するシーンは、実際にリチャード・ディアが、ヘリから屋根に飛び降り、ホバリングするヘリに少年を乗せるシーンをロングでワンカットで撮影。これには子供の頃、驚いた。

ロケットも垂直に発進させるよりも燃料が節約できるからと、レールを作って自走させてから、その勢いで上昇。大気圏外からは管制飛行で、ザイラに向かう。東宝の『妖星ゴラス』を繰り返し観てきたので、ロケット内部が隼号に見えて仕方がない。地球にたくさんの人々を残してきたまま発進したことへの後悔や慚愧の念は一切感じられない。ただただ、デヴィッドに恋人を譲ったトニーの男気がイイ感じで描かれるだけ。

でもって、結局助かるのは44名の乗組員と、ノアの方舟よろしく選ばれた動物たちだけ。1951年の映画なので、黒人はゼロ。多様化なんて考えは微塵もない頃、みんな白人だけ、というのは、2021年の視点では猛烈に違和感が残る。でも、そういう時代だったと知るためにも、この映画の価値はあると思う。

ちなみにジョージ・パルは1955年に同じ原作コンビによる続編「After Worlds Collide 地球最後の日〜その後」の映画化を企画するも予算面で頓挫。ミミ・レダーの『ディープ・インパクト』(1998年・パラマウント)は、本作のリメイク企画。スピルバーグが計画していたアーサー・C・クラークの「神の鉄槌」が、似たプロットだったので、この二つの企画を合体させたのが『ディープ・インパクト』だった。と、当時、どこかに原稿を書いたなぁ。

ラスト、燃料を節約しながらギリギリの状態で、ロケットはザイラに到着する。マット合成による、美しいザイラのヴィジュアルに「空想科学映画」を観ている気がしてくる。ご都合主義なんだけどエンドマークで納得してしまう。これがハリウッドの娯楽映画の楽しさでもある。



よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。