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『姉妹と水兵』(1944年・MGM・リチャード・ソープ)

MGMミュージカルといえば『ザッツ・エンターテインメント』(1974年)で主にフィーチャーされていたアーサー・フリード製作による「フリード・ユニット作品」がメインストリームだが、同時期にクラシック音楽を華やかに散りばめたバラエティ映画を得意としたジョー・パスタナック製作の音楽映画も味わい深い。

敗戦後、昭和23(1948)年に公開されて、多くの映画ファン、音楽ファンを魅了、少年たちの胸をときめかした”特別な作品”がある。それが、ジューン・アリスンとグロリア・デ・ヘイブンが美しき芸人姉妹を演じた”慰問映画(キャンティーン・ムービー)”の代表作『姉妹と水兵』(1944年・MGM・リチャード・ソープ)である。

第二次大戦下のハリウッドで、国策映画として連作された”慰問映画(キャンティーン・ムービー)”は、戦地の兵隊たち、戦地に赴く兵士たちのための「エンタテインメント」として企画された。兵隊のために、食事や飲み物、そしてエンタテインメントを提供するキャンティーンが各地に設けられていた。

ハリウッドでも、兵士たちが集まるナイトクラブや酒場に、ハリウッド・スターやダンサー、パフォーマーたちが、ノーギャラでボランティアとして出演。飲み物や食べ物のサービスをしていた。ユナイトの『ステージドア・キャンティーン』(1943年)、ワーナーの『ハリウッド玉手箱』(1944年)など、次々とスクリーンでもキャンティーン映画が作られた。しかも上映館では「米国債」が販売され、庶民への戦時協力をスクリーンから呼びかけていた。

その呼びかけに協力したのが、ボブ・ホープ、ビング・クロスビー、フランク・シナトラをはじめとするスターたち。彼らが歌いたい、スクリーンから「戦時国債を買いましょう!」と呼びかける短編映画が数多く作られていた。

この『姉妹と水兵』もそうした国策映画としてMGMが企画。FOXがセクシーなベティ・グレイブルを売り出していたが、かつてユニバーサルでディアナ・タービンを清純派スターに育てたジョー・パスタナックは、ジューン・アリスンとグロリア・デ・ヘイブンのコンビ売り出しを目論み、大成功。

しかも、ハリー・ジェイムズ楽団、ザビア・クガード楽団、クラシック界からは大御所指揮者・アルバート・コーツ、ピアニストのホセ・イタルビ、コメディエンヌのグレイシー・アレン、黒人の美人シンガーのリナ・ホーンといった豪華ゲストが次々と登場。パフォーマンスを展開。まさに「ザッツ・エンターテインメント!」の精神である。

さて、ヒロインを演じたジューン・アリスンは、ブロードウェイ・ミュージカル「パナマハッティー」(1941年)に、ベティ・ハットンの代役として出演。これが評判となって「ベスト・フット・フォワード」(1943年)で注目を集め、MGMがその映画化をすることになり、ハリウッドへ。ジュディ・ガーランドとミッキー・ルーニーの『ガールクレイジー』(1943年)でMGMミュージカル・デビューを果たした。

グロリア・デ・ヘイブンは、映画監督で俳優のカーター・デ・ヘイブンと女優のフローラ・パーカー・デ・ヘイブンの娘。幼い頃からステージに立ち、チャップリンの『モダン・タイムス』(1936年)やグレタ・ガルボ引退作『奥様は顔が二つ』(1941年)に出演していた。1943年、『ベスト・フット・フォワード』で、ジューン・アリスンと共演。コンビを組むことになった。

パッツィ(ジューン・アリスン)とジーン(グロリア・デ・ヘイブン)のナイトクラブ芸人・デーヨ姉妹が、毎夜、自宅に海軍、陸軍、海兵隊の兵士たちを集めて、ボランティアでパーティを開催。しかしお金がかかってしょうがない。そんなことを漏らすと、翌朝、近所の倉庫の権利が”誰か”からプレゼントされ、豪華なキャンティーンを開くことができてしまう!

おとぎ話のような展開、すべては「兵隊さんのために」フォー・ザ・ボーイズである。冒頭、デーヨ姉妹の幼き日々、楽屋や舞台の袖での日常が描かれる。おしゃまな姉のパッツィ、まだ赤ちゃんのジーン。夫婦芸人だった両親、母が早逝、父はソロとなって活躍。姉妹の寂しさを埋めてくれたのは、人気ボードヴィリアン・ビリー・キップ(ジミー・デュランティ)だった。

トップ・シークエンスで、ジミー・デュランティの”Did You Ever Have the Feeling That You Wanted to Go? "が愉しめる。1920年代、ラジオでブレイクし、1930年代、MGMで『キートンの歌劇王』などに出演、一世を風靡したジミー・デュランティの復活も、本作の仕掛けである。さらに”Who Will Be with You When I'm Far Away'.”でビリーがタップリ笑わせてくれて、いよいよ、大人になったデーヨ姉妹のデュエットとなる。

時は流れて1940年、Sweet and Lovelyを歌うパッツィは男装のタキシード、ジーンは可愛いドレス。歌声は吹き替えだが(アリスンはヴァージニア・リース、デ・ヘイブンはドロシー・ジャクソン)、とにかくチャーミング! ジーンは恋多き女の子で、男性から声をかけられると断れないタイプ。母親がわりのパッツィは、そのことが悩みのタネ。

それから3年後、ナイトクラブで”A-Tisket, A-Tasket ”を歌う二人。この曲はエラ・フィッツジェラルドが作曲した童謡で、コーラス・ガールを従えて歌うデーヨ姉妹は、本当に魅力的。ナイトクラブのメイン・バンドは、トランペッター、ハリー・ジェイムズ率いるミュージック・メイカーズ。”Charmaine”を演奏するハリー・ジェイムズのカッコ良さ。この映画は、とにかくナンバーが多い。音楽シーンの合間に物語が進行していく。それがまた楽しい。

このクラブでは毎晩、ジーンに「謎の男性」から蘭の花が贈られてくる。その相手が誰なのか? ハリー・ジェイムズとミュージック・メイカーズの演奏で”A Love Like Ours”を歌うパッツィ&ジーンの目は、客席の「謎の男性」を探している。その挙動を不審に思うハリー・ジェイムズ。こうしてゆっくりと物語が展開していく。ナイトクラブでは、スペイン出身のザビア・クガート率いる楽団にバンドチェンジ。ラテンの歌姫リナ・ロメイがご機嫌な”Rumba Rumba”を軽快に歌う。さらに、南米コロンビア出身の歌手カルロス・ラミレスが”Granada”を朗々と歌い上げる。演奏はもちろんザビア・クガート楽団。

こうしてナイトクラブの仕事を終えたパッツィ&ジーンは、帰る道すがら、水兵や陸軍兵士、海兵隊の若者に次々と声をかけて自宅へ誘う。これから兵士たちのためのプライベート・パーティを開くのだ。こんな可愛い娘に声をかけられら、誰でもホイホイついて行ってしまうよなぁ(笑)

さて、そのパーティに参加したのは水兵のジョン・ディックマン・ブラウン(ヴァン・ジョンソン)、陸軍軍曹フランク・ミラー(トム・ドレイク)たち。ジョンはジーンがお目当てで、フランクもまたジーンに恋をしてしまう。このパーティで、ジーンが歌う”My Mother Told Me”がとても可愛いナンバーで、アフター・パーティの後片付けを買って出た、ジョン、フランク、そして色気より食い気の海兵隊員(フランク・サリー)の三人が、掃除をしながらリプライズで歌うのが、なかなか楽しい。

さて、このパーティには、ナイトクラブから駆けつけてきたハリー・ジェイムズも参加。海兵隊員のリクエストで”Estrellita”をトランペット演奏する。兵士たちが故郷を想う、しみじみとした演奏。さて、このパーティでパッツィが「お金がかかって大変」と愚痴をこぼし、ジーンが「もっと広い場所、例えばあの倉庫がパーティ会場として借りれたらいいのに」と漏らす。彼女たちはボランティアで兵隊慰問をしているのだ。

その翌朝、姉妹の家に、ミスター・ニズビー(ドナルド・ミーク)が現れて、なんと倉庫の鍵と権利譲渡書を持ってくる。半信半疑のパッツィとジーンが倉庫に入ると、そこにはやはり芸人だった祖父母の舞台衣装や小道具があった。かつて劇場だったこの倉庫を誰がプレゼントしてくれたのか? さらに倉庫の事務所には、今は世捨て人となった往年の人気芸人ビリー・キップが、数年前から隠遁生活をしていた。

ここで役者が揃い、パッツィ&ジーン、そしてビリーが協力して「兵隊たちのためのキャンティーン」を開くことに。ここからは、姉妹と水兵をめぐる恋のさやあてと、「謎の男性さがし」が緩やかに展開。ほとんどの時間を、キャンティーンでのショー、またはナイトクラブでのショーに、さまざまなスターや芸人たちが登場。パフォーマンスを展開していくこととなる。本当に眺めているだけでも楽しい。

『姉妹と水兵』ミュージカル・ナンバー

タイトルバックOverture

【回想シーン】
Did You Ever Have the Feeling That You Wanted to Go?
 
 作詞・作曲・演奏・唄 ジミー・デュランティ

Who Will Be with You When I'm Far Away 
作詞・作曲・演奏・唄 ジミー・デュランティ

スイート・アンド・ラブリー Sweet and Lovely 
 作詞・作曲 ガス・アーンヘイム、ハリー・トビアス、ジュールス・レマール
唄・ジューン・アリスン(ヴァージニア・リース)、グロリア・デ・ヘイヴン(ドロシー・ジャクソン)

【ナイトクラブ】
ア・ティスケット・ア・タスケット A-Tisket, A-Tasket
作詞・アル・フリードマン、作曲・エラ・フィツジェラルド
唄・ジューン・アリスン、グロリア・デ・ヘイブン

シャルメーン Charmaine
作曲・エーノ・ラピー、ルー・ポラック

演奏・ハリー・ジェイムズ&ミュージック・メイカーズ

ラブ・ライク・アワーズ A Love Like Ours 
作詞・マン・ホリナー 作曲・アルベルタ・ニコルス
唄・ジューン・アリスン(ヴァージニア・リース)、グロリア・デ・ヘイヴン(ドロシー・ジャクソン) 演奏・ハリー・ジェイムズ&ミュージック・メイカーズ

ルンバ・ルンバ Rumba Rumba
作詞・サミー・ギャロップ 作曲・ホセ・パフミー

唄・リナ・ロメイ 演奏・ザビア・クガード楽団

グラナダ Granada 
作詞・作曲 アウグスティン・ララ
 唄・カルロス・ラミレス 演奏・ザビア・クガード楽団

ビン・バン・バム Bim, Bam, Bum 
 演奏・ザビア・クガード楽団

【デーヨ姉妹宅でのプライベート・パーティ】
マイ・マザー・トールド・ミーMy Mother Told Me 
 唄・グロリア・デ・ヘイブン
リプライズ・ヴァン・ジョンソン、トム・ドレイク、フランク・スリー

エストレータ Estrellita 
 作曲・M.M.ポンス
演奏・ハリー・ジェイムス&ミュージック・メイカーズ

【デーヨ姉妹のキャンティーン】
テイク・イット・イージー Take It Easy
 
作詞・作曲・アル・デブルー、アーヴィング・テイラー、ヴィク・ミッジー
 唄・ヴァージニア・オブライエン、リン・ワイルド、リンダ・ワイルド
演奏・ザビア・クガード楽団

スリル・オブ・ニュー・ロマンス Thrill of a New Romance
ダンス・ベン・ブルー&リナ・ロメイ
演奏・ザビア・クガード楽団

人差し指のためのコンチェルト Concerto for Index Finger
ピアノ・グレイシー・アレン
指揮・アルバート・コーツ
・1930年代か40年代にかけてラジオ、映画で人気だったコメディ・チーム「バーンズ&アレン」のグレイシー・アレンが、ピアノコンチェルトに挑戦。和音はいらないと宣言して「人差し指」でピアノを弾く爆笑シーン。指揮はロンドン交響楽団のアルバート・コーツ。

イン・ア・モーメント・オブ・マッドネス In A Moment of Madness 
作詞・ラルフ・フリード 作曲・ジミー・マクヒュー
 唄・ヘレン・フォレスト
演奏・ハリー・ジェイムズ&ミュージック・メイカーズ

フラッシュ Flash 
 演奏・ハリー・ジェイムズ

トランペットを持つ男 The Young Man with a Horn
作詞・ラルフ・フリード 作曲・ジョージ・ストール
唄・ジューン・アリスン
演奏・ハリー・ジェイムズ&ミュージック・メイカーズ
・ハリー・ジェイムズのテーマ曲。のちにハリーがカーク・ダグラスのトラペットの吹き替えをした、ドリス・デイ主演『情熱の狂想曲』(1950年・ワーナー)のタイトルとなった。ジューン・アリスンとハリー・ジェイムズはMGM映画『オポジット・セックス』でもこの曲を唄い、演奏している。

【ドリーム・シークエンス】
錨を上げて Anchors Aweigh
演奏・マーチングバンド
・ジミーに恋をしてしまったパッツィが夢で、妹ジーンとジミーを取り合いになるドリーム・シークエンス。このシーンにノンクレジットでエヴァ・ガードナーが出演している。

【ナイトクラブ】
ユー・ディアーYou, Dear
作詞・ラルフ・フィード 作曲・サミー・フェイン
演奏・ハリー・ジェームズ&ミュージック・メイカーズ

ババルー Babalú 
作詞・マルガリータ・レクノア
唄・リナ・ロメイ
演奏・ザビア・クガード楽団

インカ・ディンカ・ドゥ Inka Dinka Doo 
作詞・作曲・ジミー・デュランティ、ベン・ライアン、ハリー・ドネリー
 唄・ジミー・デュランティ
・ジミー・デュランティの代表曲。映画『頓馬パルーカ』の主題歌として日本でも親しまれた。

【デーヨ姉妹のキャンティーン】

火祭りの踊り Ritual Fire Dance
 
作曲・マヌエル・デ・ファリア
ピアノ・ホセ・イタルビ、アンパロ・イタルビ

ペーパー・ドール Paper Doll 
作詞・作曲・ジョニー・S・ブラック
 唄・リナ・ホーン

メドレー Medley (A Love Like Ours, The Young Man with a Horn, Sweet and Lovely) 
唄・ジューン・アリスン、グロリア・デ・ヘイヴン
演奏・ハリー・ジェイムズ&ミュージック・メイカー
The Young Man with a Hornのリプライズでは、内気な兵隊(アーサー・ウォルシュ)がパッツィに恋のアドバイスを受けて勇気百倍、ステージでパッツィと超絶ダンスを披露する。アーサー・"King Cat"・ウォルシュはダンサーとしてブロードウェイで活躍後、ハリウッドへ。コミカルでアクロバティックなダンスを得意として「アイ・ラブ・ルーシー」にゲスト出演もしている。


よろしければ、娯楽映画研究への支援、是非ともよろしくお願いします。これからも娯楽映画の素晴らしさを、皆さんにお伝えしていきたいと思います。