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太陽にほえろ! 1973・第36話「危険な約束」

この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。

第36話「危険な約束」(1973.3.23 脚本・市川森一、山田正弘 監督・山本迪夫)

 今回は「ウルトラマンA」山中隊員・沖田駿一さんが、スナックに立て篭もる密室劇。脚本は「ウルトラQ」の山田正弘さんと「ウルトラセブン」の市川森一さん! 演出は「血を吸う」シリーズの山本迪夫監督。ちなみに「太陽〜」では唯一の山田正弘脚本である。

 夜19時過ぎの七曲署へ、盛り場で張り込み中のマカロニから電話。ゴリさんはネグレクトされた子供の面倒をみていての約束の時間に遅れている。ボスが「その辺に喫茶店かスナックはないのか」。マカロニは近くにあるスナック「旅路」でゴリさんを待つことに。山さんは城北署のピストル強盗の話をボスにする。

 犯人が奪った金が630万円。「ホシはそれで何が欲しかったのかね」と山さん。「スナック旅路」にはアベック、やくざ新村健(山岡徹也)とチンピラ金子次郎(高橋征郎)、老人・中山治作(宮坂将嘉)、女房に嘘をついて外泊しようとするサラリーマン戸倉一郎(波多野憲)とさまざまな客がいる。

 不倫サラリーマンを演じた波多野憲さんは、劇団民芸の俳優で、裕次郎さんとは『俺は待ってるぜ』(1957年)で敵役として共演している。裕次郎映画には『雲に向かって立つ』(1962年)にも出演している。宮坂将嘉さんは、ムーランルージュ新宿座から劇団民藝で活躍したベテランで、日活の「事件記者」シリーズの山本刑事部長役でお馴染み。

 それぞれの事情が、会話から明らかになる。パニック映画の始まりのようである。ハンチング姿の中山老人(宮坂将嘉)が「男が女を待つ、女が男を待つ、今日は明日を待っている。待つ、待つ、待つ、待っているうちが人生さ」。ゴリさんを待つマカロニ。詩人・山田正弘さんらしい人生の本質をついたセリフ。

 そこへ、城北署の瀬木宏造刑事(中井啓輔)が入ってくる。酔った老人がマカロニのポケットの拳銃に気づいて「兄ちゃん堅気じゃねえな」。揉み合う揉み合う二人に、瀬木刑事が「坂口だな!」とマカロニを犯人と勘違い。騒動となる、そこへ本物の坂口(沖田駿一)が現れ、マカロニの拳銃を瀬木刑事へ向ける。

 ここで坂口が、スナックの客を人質にとって立て篭もることになる。瀬木刑事は坂口の命令で手錠をカウンターにつないで身動きが取れない。こうなるとヤクザの客もかたなし。何も知らない戸倉の不倫相手が入ってくる。
東宝の『死ぬにはまだ早い』のような展開。「あんたヤクザか?」坂口はマカロニをヤクザと勘違い。マカロニのコルト38を手にご満悦の坂口。犯行に作ったのはモデルガンの改造銃。坂口はガンマニアだったのだ。坂口の銃を瀬木刑事に向けて、坂口の信用を得るマカロニ。

「ションベンしたいんだけど」
マカロニはトイレに警察手帳と手錠を隠す。坂口は「9時までに人質を開放する」。一方、七曲署にゴリさんが戻ってくる。新宿歌舞伎町の「旅路」へ急ぐゴリさん。9時を過ぎ、スナックでは、坂口が焦りまくっている。中山老人が「あんた誰かを待ってるのか?」。

 ヤクザが「酒飲みたい」と言い出し、中山老人も飲む。坂口の焦りが緊張の糸を緩ませる。ゴリさんが店の前に来るが、看板が消えているので帰ってしまう。坂口の母は水商売で「俺を捨てて出て行ってしまった。サラリーマンの若い客とよ」と戸倉(波多野憲)と愛人のホステスに語る。「いつまでこんなことを」「俺の待ってる奴がくるまでよ」

 坂口は誰を待っているのか? 前半での老人のセリフとリンクする。不条理芝居「ゴドーを待ちながら」の世界に!戸倉は「自分たちだけでも釈放してくれ。何も離さないから」と提案。浮気がバレると困るから何もいうはずない、と老人。そこで坂口「あんた、奥さんを愛しているか?」「当然だろ」

 そこでホステスに「この人の電話番号知ってるんだろ?あんた代わりに電話してやれ」。ホステス妙子は戸倉の家に電話。不倫相手に電話させる。こういう心理戦、面白いねぇ。人間の本質が垣間見える。不倫相手とその妻が結果電話で対決することになる。

 怒りに任した戸倉が妙子を殴る、ウィスキーに火がついて店内が火事に。しかし消化器がない。アベックの女の子が、もしもの時に持ち出していたのだ。マカロニの機転でボヤは治るが、女の子を庇うために、マカロニはアベックの男を殴る。すると男は「俺じゃない、あの女が持ち出した」と自分の彼女のせいにする。

 ここでまた男の身勝手さが浮き彫りにされる。極限状態の密室のドラマは、演劇的である。マカロニを信用している坂口は「あんた頼まれてくれるか?」とマカロニに、自分の女・江崎啓子(真屋順子)の様子をみてきて欲しいと頼む。

 「彼女の気が変わったらどうする」「冗談じゃない。俺はあいつが逃げたいというからやったんだ」マカロニは11時までに戻ってくると約束して「旅路」を出ていく。客たちはマカロニが戻ってこない、いや戻ってくると反応。

 坂口は「頼む約束してくれ」「ああ、約束する。俺はな、あんたが命懸けで待っているものを、この目で観たくなったんだ」とマカロニ。ここで視聴者は坂口の純情に、少し同情してしまう。しかし「旅路」にボスから電話で「七曲署の早見はきてないか」と電話。坂口は瀬木刑事を早見と勘違いするが、結局マカロニが刑事であることがバレる。

 一方、マカロニは啓子のマンションへ。「パパ、帰ってきたの?」と子供の声。啓子は坂口と不倫をしていたのだ。「どうして捕まえないんですか?」「あんたまさか城北署に密告したんじゃいですか?」。坂口の思いを「あたしには関係はないわ」と言い放つ啓子に、「愛し合ってたんじゃないですか?」

 「ピストル強盗をするような男ですよ。常識的に考えればわかること」と冷たい態度の啓子。マカロニは坂口が「旅路」で人質をとっていること、啓子を待っていることを話す。「私には関係ないことでしょ」自分を巻き込まないで欲しい。「あの人とのことが夫に知られたら」と泣き崩れる。

 「九人の命がかかっている。俺がご主人にバレないように、奥さんを守ると、保証するから」と懇願するマカロ二。「あんたには帰れるところがあるからいいよ。あんた、何も失っちゃいないよ。俺はあんたみたいな女が一番嫌いなんだ」マカロニは完全に坂口の立場になっている。

 啓子はマカロニと旅路に行くことを決意。しかしエレベーターのドアがあくと、帰宅してきた夫が立っている。マカロニを置いて、自分の部屋に夫と戻る啓子。マンションの1Fフロアの時計は10時26分を指している。マカロニはひとりマンションを出て、立ちションベン「かわいそうな野郎だ」。

 タバコ屋の赤電話から署に電話をしようとするマカロニ。一回は躊躇して、かけ直すが、ボスが出たとたん切る。坂口との約束を守るためだ。空振りのまま「旅路」に戻るマカロニ。「ありがとう、疲れたろう、いっぱいやらないか早見さん」と坂口に言われて「ああ」と答えるマカロニ。

 それで全てバレてしまう。坂口は「おめえが刑事だったとわな。表にはどれくらいの警官がいるのか」「約束は守ったよ、少しは信用しろよ。俺は誰も連れてきちゃいないぞ」緊迫感が高まる。そこへボスからの電話。しかし誰も出ない。

 アベックの男がトイレで警察手帳を見つけてきたタイミングでマカロニが坂口をおそう。発砲する坂口。チンピラが拳銃を奪い、坂口に向けるが弾はない。チンピラを撃つ坂f口。「アニキ助けてくれ!」とチンピラはヤクザに懇願するが「近づくんじゃねえ」ここでも極限状況の人間性が露呈してしまう。相次ぐ裏切り。

 それぞれの信頼関係がガタガタになる。マカロニが意を決して坂口に襲いかかり乱闘。見て見ぬふりをする客たち。今回のテーマはここにある。坂口がマカロニを殴り続ける。耐えられない女たちは、それぞれの彼氏に「あなた、助けて」と絶叫!何とかしろよみんな!

 「おめえが刑事だから憎いんじゃない。刑事のくせして、俺の、俺たちの気持ちをわかったふりをした、てめえが許せないんだ!」とマカロニ向けて発砲する坂口。しかし、坂口は撃たれて血を流す。スナックの入り口からボス、ゴリさん、山さんたちが入ってくる。

 「江崎啓子という女性からうちの署にも通報がありましてね。」とボス。啓子の裏切りを知り、マカロニが約束を守ったことを知る坂口。「あんた、啓子には会ったんだな」「忘れちまいなよ。あんな女のことは」「早見さん、あんた、なんで刑事のくせに」「男の約束だろ」泣き崩れる坂口。

 全てが終わり、チンピラはヤクザの兄貴を見限り、アベックの女は男に愛想をつかす。ホステスは戸倉にビンタをくらわす。老人にマスターが「(酒代のことで)逃がしはしないよ」。ボス「どうしたマカロニ」「俺は、あの、怖かったんです」。パーフェクトなシナリオ、緻密な演出、映画一本分の濃密さに酔いしれた!

 極限状況で人間の信頼関係はどうなる?というテーマで、事件のさなかさまざまな「信頼の破綻」が描かれる。若い恋人たち。チンピラ・次郎とヤクザ新村健。不倫カップル。坂口と啓子・・・

 しかし、マカロニだけは坂口の信頼を裏切らなかった。この脚本は素晴らしい! このホンをそのまま舞台で上演できそうなほど、セリフで成り立っている。監禁中に高い洋酒を飲みまくった中山老人に、スナックのマスターが「(お勘定は)忘れていないよ」と言うラストもいい。客と店の信頼関係である(笑)

 ちなみに、この「危険な約束」は、1991年2月8日放映「刑事貴族」第31話「刑事たちの忙しい夜」(演出・村田忍)としてリメイクされている。ちなみに「刑事貴族」第26話「宮本課長の災難」(1990.12.21 演出・長谷部安春)は、鎌田敏夫脚本の「太陽にほえろ!」第32話「ボスを殺しに来た女」をリメイクしたもの。



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