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『風に逆らう流れ者』(1961年・山崎徳次郎)


 「流れ者シリーズ」第五作!

 1961(昭和36)年4月は、なんと「流れ者」「渡り鳥」両シリーズの新作が同月封切りされている。空前の小林旭=マイトガイブームを受けてでもあるが、裕次郎の骨折降板、赤木圭一郎の死など、日活ダイヤモンドラインのローテーションの激変という背景もある。

 前年11月の『大暴れ風来坊』以来、五ヶ月ぶりとなった「流れ者」シリーズ第五作『風に逆らう流れ者』は、小林旭、浅丘ルリ子といったメインキャストに変化はないものの、宍戸錠のダイヤモンドライン参加により、キャスティングに微妙な変化が出ている。キザな好敵手役に神山繁。もちろん藤村有弘のユニークな怪人物も登場する。アキラとジョーのコミカルな関係が前作でピークを迎えた後だけに、作り手も様々な趣向を凝らしている。

 「流れ者」の特徴である、主人公・野村浩次に縁の人物が巻き込まれた事件は、今回は火薬工場の爆破とともに失踪した友人・瀬沼(木浦佑三)にまつわる謎。豪快な爆破シーンの後に、馬車に乗った野村浩次があらわれ、主題歌「さすらい」が流れる。「さすらいは爆破のあとで」という展開は、余談だが、昭和50年代に東映が製作した「渡り鳥」「流れ者」リスペクト度の高い特撮シリーズ「快傑ズバット」(77年)の第一話「さすらいは爆破のあとで」でリフレインされている。親友(日活出身の岡崎二朗)の死の真相をさぐるべくギター片手に全国をさすらう早川健(宮内洋)=快傑ズバットのキャラクターは、マイトガイの遺伝子を受け継ぐヒーローだろう。

 さて流れ者が馬車に乗っていると、ルリ子のヒロインと島津雅彦少年が悪漢たちに襲われている。そこで「さすらい」がひとまず中断し、アクションシーンとなる。第三作『南海の狼火』の主題歌「さすらいの唄」として登場した哀愁のメロディー「さすらい」は、今回の主題歌のために新録音されている。

 今回の舞台は、中部地方の豊橋と蒲郡。風光明媚な観光地ロケが多かったシリーズだが、長崎を舞台にした『大海原を行く渡り鳥』の撮影スケジュールを見ると、本作のクランクアップが3月31日で、『大海原〜』のクランクインが4月3日と、まさに超過密スケジュールである。脚本も同じ山崎巌が担当しており、これまでの「流れ者」に比べると、顕著だった「渡り鳥」との差別化があまり見られなくなっている。

 そうした状況のなかでも、観客を楽しませることを身上にしている小林旭のサービス精神は、唄にアクションに、そして天下無敵のヒーローぶりに反映されている。白木マリのダンスシーンはリハーサルを含め、シリーズ中最も多いし、アキラ節がふんだんにある。

 温泉につかいながら第一作『海から来た流れ者』(1960年)の主題歌「ダンチョネ節」を歌うのは、「暴れん坊」シリーズのようでもある。一緒に歌う天草四郎の台詞を聞いていると、この映画の世界でもすでに流行している曲であることがわかる。リバイバルヒットという感覚なのか? そしてキャバレー「ブルースカイ」に突然あらわれた流れ者が歌う「アキラのおいとこ節」はこの映画のための新曲。作詞:西沢爽、作曲:遠藤実、編曲:狛林正一のゴールデントリオが、昭和初期の「新民謡」運動のなか流行した民謡をリバイバルさせたもの。

 そして、再び「ブルースカイ」で歌う「アキラのズンドコ節」は、第二作『海を渡る波止場の風』(1960年)で初登場。今回も歌い出しは「ズンズンズンドコ〜」ではない。きちんと歌われるのは『さすらいの賭博師』(1964年)になってから。

 「渡り鳥」の齋藤武市監督は、荒唐無稽な世界をリアリズムという視点で作り上げてきたため、アキラ節を歌うシーンが「渡り鳥」には意外と少ない。一方、脚本の世界を忠実に映像化していた山崎徳次郎監督の「流れ者」シリーズは、無国籍映画度が高い。アキラが歌うシーンもしかり。

 また、この頃、ロケ先でのタイアップが盛んに行われており、天草四郎の「やまさ」は老舗のちくわ屋で実際にロケ。そこに野村浩次が下宿し、なんと駄洒落を云うシーンがある!

 第一作『海から来た流れ者』から五作続いた「流れ者」も本作でひとまず終了。小林旭のアクション映画は様々なバリエーションが作られることになる。本作から3年後「渡り鳥」「流れ者」のプロデューサー児井英生が、再び小林旭主演で手掛ける「賭博師」シリーズでは、山崎監督が第三作『ギター抱えたひとり旅』(1964年)を演出。当初「流れ者」第六作として企画されていたものだけに、『ギター抱えたひとり旅』で「宇宙旅行の渡り鳥」を歌う氷室浩次は、どこか野村浩次再びという雰囲気だった。山崎監督自身からも「賭博師」を「流れ者」を意識して撮っていたと伺ったことがある。

 ともあれ、昭和30年代半ば、日活のスクリーンに颯爽とあらわれた「流れ者=野村浩次」は、「渡り鳥=滝伸次」とともに、マイトガイ・アキラのイメージ作りに貢献。小林旭を象徴するシリーズとなった。

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