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太陽にほえろ! 1973・第33話「刑事の指に小鳥が....」

この原稿は、事件の核心、物語の展開について詳述しております。ネタバレ部分もありますのでご注意ください。

第33話「刑事の指に小鳥が....」(1973.3.2 脚本・市川森一 監督・金谷稔)


 今回は市川森一脚本による殿下の主演回。吉行和子さん、柳生博さんの夫婦にまつわるエピソード。

 殿下が妹・島京子(三谷文乃)と久しぶりにデート。京子の恋人は作曲家志望と聞いて、妹の将来を気にする殿下。「愛し合っていればどんな苦労だって平気よ」と京子。今回はこの「夫婦の絆と男と女のすれ違い」がテーマとなっている。夢を追い求めても、現実の壁が立ち塞がる。夫を支えて水商売をしている妻は、果たして「夫への愛」だけで生きていけるのだろうか? 

 深夜、辻健二(練木二郎)が穴を掘っている。傍には憔悴しきった谷口澄江(吉行和子)が立ち尽くしている。澄江は男の遺体の靴を脱がし、健二がその遺体を埋める。「待って、これも」と澄江が凶器のパイプを渡す。遺体は澄江の夫・浩三(柳生博)。

 澄江は健二に、浩三の靴を渡して「言った場所に置いてくるのよ」と命じる。その後「あなた」と涙を流す澄江。吉行和子さんの「女の変わり身の怖さ」の演技! やがて大久保駅を降り立つ澄江。時計は深夜12時26分を指す。澄江は西北マンションの自宅に帰宅。金谷稔監督の演出は、ミステリアスなムードたっぷりに、澄江の行動を重ねていく。

 部屋には浩三と澄江の睦まじい写真。なぜ、彼女は夫を殺したのか? 澄江はコートのボタンがちぎれていることにこづく。夫婦には子供がいなく、番(つがい)の文鳥を飼っている。やがて早朝4時マンションに健二がやってくる。「靴は?」「置いてきた」。次のカットで健二が絶叫しながら転落死する。ここで犯人は澄江と確定。今回は「刑事コロンボ」でお馴染みの倒叙スタイルで展開される。

 落下した健二の捜査を始める捜査一係。殿下は澄江とは馴染みのようである。以前、澄江はストーカー被害にあっていて、その加害者が健二だったのだ。浩三の不在をいぶかる殿下。番の文鳥がいないことに気づく。澄江は「逃げました・・・」。細かいショットで殿下が澄江に抱いている感情を匂わせる。

 健二は大久保駅前の寿司屋の店員。谷口浩三は売れない漫画家。ひと月前「痴漢におそわれた」との通報で殿下は澄江のマンションへ。そこで殿下は、部屋を見上げる健二の姿を目撃。ストーカー犯罪という言葉がまだない時代。「あれは一種の精神異常者だ」って、おいおい。

 ナンセンス漫画家として一世を風靡した谷口浩三は落ちぶれて、澄江がバー勤めをして家計を支えていた。ここから、殿下の回想シーン。ストーカー被害を受けているという澄江を完全否定する浩三。「その女は常に誰かに注目を集めていないと気が済まないんですよ」。酒に溺れている浩三は、殿下の目の前でDV行為に及ぶ。

 健二が谷口家へ投石ガラスが割れる。「殺してやる」浩三が血相を変える。殿下の回想から、澄江の事情聴取シーンとなる。澄江は妊娠4ヶ月となる。誰もが澄江に同情する。特に殿下は、心の底から澄江を心配している。「優しいというのは刑事としては失格ですよ」。殿下と澄江のやりとりはまるで恋愛をしているかのよう。

 殿下がなぜ刑事になったのか? 澄江に語る殿下。男子校で上級生からラブレターをもらったこと。悔しくて泣いたこと。検事の父からは「男らしくなれ」と言われて、刑事になったのかもしれない。澄江の思惑通りに、殿下は彼女を信頼している。ストーカーの健二も死んだことだし・・・

 一方、山さんは、健二の爪が汚れているのを気にして鑑識で調べる。爪の間の土は、7〜8メートル地下のものだと破名する。健二の靴とバイクからも同じ土が検出され、都内では大田区方面と淀橋台のものと判明する。「新宿周辺か?」とボス。該当するのは三箇所のビル工事現場だった。

 ボスは浩三が健二を殺したと疑っている。谷口夫婦の破綻を目の当たりにして、妹・京子に恋人とのこと「考え直してくれないか」と殿下。浩三と澄江のようになって欲しいのだ。一方、海で浩三の靴が発見され、自殺と思われたが、浩三の靴の土が、健二のものと同じだった。殿下からそのことを告げられた澄江は狼狽える。

 「健二をやったのは(谷口)先生だな」とゴリさん。殿下は澄江のマンションで、具合が悪くなった彼女に寄り添っている。「あの人には子供を生むな」と言われました。「生むべきですよ」と殿下。おいおい、夫婦の間に立ち入りすぎだよ!子供が生まれた後のアパート探しまで買って出る殿下。ああ、犯人に肩入れしすぎの殿下。恋をしているようだ。

 ここまでのプロセスが丁寧に描かれる、見事な市川脚本!マカロニは澄江が怪しいと推理。それを聞いて激怒する殿下。しかし、やはりビル現場から同じ土が出てきた。残土は町田の宅地造成地に運んでいるという。その分譲地は、なんと谷口夫婦が購入していたのだ。

 やがて分譲地から凶器のパイプと浩三の遺体が発見される。さらに遺体が女性ものコートのボタンを握っていた。浩三の志望推定時刻から浩三がシロと断定される。山さんが調べると分譲地のローンが滞っていたが、名義人が亡くなれ自然に相続人のものになるシステムであることがわかる。

 澄江を重要参考人として呼ぶことに。まだ逮捕に至らないのは、健二を突き落とすだけの力があったのか?ということ。ボスは「殿下、彼女を迎えに行って貰えるかね」と命じる。このあたり、ボスは殿下を成長させようと考えているのがわかる。

 荷造りをしていた澄江はコートをゴミ箱に捨てる。それを見ている殿下。今回は「刑事コロンボ」だね。「参考人として署まで御同行ください」。殿下はまだ澄江が犯人だとは思いたくない。「私は何も知りません」の言葉に安堵する殿下。甘いねぇ。惚れた弱みとはいえ・・・ベランダに逃げたはずの文鳥が戻ってくる。殿下に「捕まえてくださらない」と澄江。ベランダの欄干に立ち文鳥に手を差し伸べる殿下。

 滑り落ちそうになる。ようやく捕まえた瞬間。澄江の形相が変わる。まるでホラー映画のようなライティング。吉行和子さんの顔が怖い。間一髪、ゴリさん、マカロニが駆けつけ九死一生を得る殿下。「わかった?あの男にも同じ手を使ったのよ」なんて怖い女なんだ! 殿下、ショック!先程の文鳥は殿下の指先に止まったままである。この描写がいい。殿下の優しさを「肯定する」市川森一脚本の優しさ! 

 ラスト、現場検証で殿下とゴリさんが澄江に犯行の状況を再現させる。澄江は犯行の際に何を思ったのか?「4つの時、満州から引き揚げてきて、一度も自分の土地で住んだことがなかったから、今、この土地を手放したら、もう死ぬまで自分の土地を持つことはできないわね、そう言いました」わずか四十坪ほどの土地だが澄江は「子供を産んで、この土の上で育てたかったんです」と心情を吐露する。

 「この土地は私のものにならないんですか? 教えてください」と澄江。「殿下、身体が冷えるとお腹の赤ちゃんにさわるぞ」とボス。「もし奥さんのものにならなくても、この土地は赤ちゃんのものになるはずです」と殿下。グッとくるラストだね。マカロニは「あのまま真相がわからなければよかったね」。

 マカロニも優しいね。殿下「刑事のくせに、ボスに聞こえたら怒られるぞ」。それを見つめて微笑むボス。脚本、演出、役者、どれをとっても素晴らしいエピソード!








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