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『死の街を脱れて』(1952年5月22日・大映・小石栄一)

若尾文子のスクリーン・デビュー作。小石栄一監督『死の街を脱れて』(1952年5月22日)。未見の時は、データベースや映画本であるように「長崎の歌は忘れじ」の久我美子が出演と思っていたのだけど、この役を若尾文子が演じているのです。


敗戦の混乱で中国大陸に残された庶民の妻や子供たち。軍人とその家族はいち早く脱出してしまい、満蒙開拓団などで大陸に渡った彼女たちは、国民軍に襲われ、何もかも失ってしまう。この女性たちを、水戸光子、細川ちか子、千石規子、岡村文子たちが熱演。なんとか日本へ帰りたい。そのためには新京へ出ないと。ということで決死の脱出行となる、サバイバル・ドラマ。

男性陣は、三橋達也、根上淳、菅原謙次が登場するのだけど、救出にやってきた軍人・三橋達也はあっさり戦死、若尾文子の思い人・根上淳は回想シーンのみ。

彼女たちは新京行きの汽車に乗るべく、必死に歩いて、歩いて駅に向かうが、軍用列車のために乗車はできず、逆に銃撃を受けてしまったり。飢えと強行軍で疲れ果てた子供達に満足な食事も与えることができない。絶望の日々が、かなりヘビーに描かれていく。

一部を除いてほとんどがセットで撮影されているが、小石栄一監督の演出、ベテラン陣の芝居が見事なので、緊張の連続。ようやく、救いの主が現れる。それが菅原謙次の善良な機関士。貨車に紛れ込んだ女たちがホッとするのも束の間。蒋介石の国民革命軍の検閲で、彼女たちは全員「銃殺刑」の命が下る。

その指令を出すのが、滝沢修演じる公安隊長。終始、中国語の芝居で、不気味で冷徹。こういう役は滝沢修うまいねぇ。しかし菅原謙次の取りなしで、彼女たちは銃殺を免れ解放されるも、汽車には乗れない。

狼のように人を食べる野犬たちがいる危険地帯を歩いていかねばならない。案の定、野犬の群れが襲いかかる。若尾文子のおばあちゃんの亡骸を埋めた墓を掘り返す野犬たち。怒った若尾文子は棒を振り回して、野犬に挑む。デビュー作にしてこのアクション! 犬たちは狼風で怖いのだけど、よく見ると若尾文子の尻尾を振っている。可愛いからね。

この野犬とのバトルはまだまだ続く。川を渡らねばならなくなり、幼い子供を抱き抱えた水戸光子は、長男を「すぐに迎えにくるから」と河岸で待たせる。しかし川を渡っている間に、野犬が男の子に襲いかかる。水戸光子、慌てて戻って、息子を野犬たちから取り戻そうと挑む。水戸光子に襲いかかる犬たち。大女優の捨て身のアクション、これもみもの。

色々あって、ようやく線路に辿り着いた女たち。そこへ、菅原謙次の汽車が再びやってきて、今度は石炭車に乗せてくれて、一気に新京へ。しかし、日本軍の襲撃、銃弾が貨車に執拗に浴びせられて、女たちは次々と被弾・・・

ハードな展開でホッとするシーンがある。命からがら汽車に乗り込んだ彼女たちは、三日も何も食べていない。そこで菅原謙次が機関車の釜で蒸したとうもろこしを「当座のしのぎに」とドーンと出してくれる。湯気の立つトウモロコシ。本当に美味しそう。

千石規子と赤ちゃんをめぐる悲しいエピソードや、悲惨な描写も相次ぐけど、それは「戦争」が終わってまだ7年しか経っていないから、でもある。色々と考えさせられるシーンがたくさんある。

ともあれ、やー、すごいスペクタクル。すごいアクション。オールセット(多摩川で撮影された鉄橋のシーン以外は)でここまでの緊張のサバイバルドラマを展開するとは。

特撮ファン的には、汽車のシーンでふんだんに大映特撮が味わえる。キャメラは姫田真佐久。音楽は伊福部昭先生! これ、なかなかの傑作です!


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