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『雷鳴の湾』(1953年・ユニバーサル・アンソニー・マン)

6月13日(月)。娯楽映画研究所シアターで、アンソニー・マン監督&ジェームズ・スチュワートコンビによるダイナミックなドラマ『雷鳴の湾』(1953年・ユニバーサル)をアマプラからスクリーン投影。

連日、アンソニー・マンとジェームズ・スチュワートのコンビ作を連続視聴しているが、西部劇にしろ、本作のような活劇要素のドラマにしろ、アクションを中心にした見せ場に向けて構築していく描写が丁寧。豪快というよりきめが細かい。ジェームズ・スチュワートの資質と、アンソニー・マンがぴったりだったことがよくわかる。

『雷鳴の湾』は、1946年の南部ルイジアナ州の港町・ポートフェリシティを舞台に、海底油田採掘に命をかけるジェームズ・スチュワートとその相棒・ダン・デュリエと、シュリンプ漁で生活してきた漁師たちとの対立、そしてハリケーンとの闘いを描いている。

ヒロインは、漁師の娘で、かつて流れ者と激しい恋をしたものの裏切られたことが心の傷になっているジョアン・ドルー。ハワード・ホークスの『赤い河』(1948年)、ジョン・フォードの『黄色いリボン』(1949年)、ロバート・ロッセンの『オール・ザ・キングスメン』(1949年)などに出演して、トップスターの仲間入り。典型的なハリウッド・ビューティなのだが、気高さと真の強さをふとした表情で表現。とにかく美しい。

ジョアン・ドルー ジェームズ・スチュワート

山師として世界各地で鉱山や、油田採掘プロジェクトを立ち上げてきたが、失敗続き、出資者にも愛想をつかされているが、それでも諦めないスティーブ・マーチン(ジェームズ・スチュワート)。これまでジェームズ・スチュワートが演じ続けてきた「夢見る少年の情熱」を持った青年である。その相棒、ジョニー・キャムビ(ダン・デュリエ)との名コンビぶりも、ハリウッド映画の典型。

海底油田採掘は、産業のない小さな港町にとっては明るい未来をもたらし、国家のためにもなる。という「大義名分」は、西部劇から連綿と描かれてきたアメリカン・ドリームであり、この時代の「理想の具現化」でもあった。漁場に次々とダイナマイトを投下してソナー調査をするシーンなどは、明らかに「環境破壊」で、今の感覚ではヒーローのすることではないし、問題行動なのだけど、当時の感覚で言うと「大義名分」を理解しない、古い考えの漁民の方が悪いとなる。その違和感はあるが、スクラップ・アンド・ビルドの時代の感覚を知るには格好でもある。

まあ、わが石原裕次郎&三船敏郎の『黒部の太陽』(1968年・熊井啓)のようなジャンルである。こうした映画の場合、夢想家で情熱家のヒーローを支える資本家が必ず登場して「経済の問題」を支えてくれるが、本作では、かつてスティーブ・マーチンのような夢を抱いて、挫折も味わい、成功も得た、石油会社社長・マクドナルド(ジェイ・C・フリッぺン)がその役回り。

ロビーカード

無一文のスティーブ・マーチンの話に、3ヶ月の期限で100万ドルを出資。人夫たちも供給、油田採掘設備のリースもしてくれる。なので、3ヶ月で石油を掘り出さなければならない。というタイムトライアルが生まれてくる。

エビ漁で暮らしている漁師・ドミニク・リゴウ(アントニオ・モレノ)は、気の良い男として登場するが、長女・ステラ(ジョアン・ドルー)と次女・フランチェスカ(マーシャ・ヘンダーソン)が、他所者のスティーブとジョニーに奪い去られてしまうのではないかと戦々恐々。さらにフランチェスカの許婚者・フィリップ(ロバート・モネット)が嫉妬して、油田施設にダイナマイトを仕掛けに行って破壊しようとしたりと、さまざまな対立が生まれる。

クライマックスは、ハリケーンの夜。それまでスティーブに反対していたステラが、彼への愛を告白。嵐の夜のキスシーンと相なる。そこへフィリップがダイナマイトを仕掛けにやってきて、スティーブと嵐の中の殴り合い。西部劇のようなダイナミックな展開となる。

一番の儲け役は、シュリンプ漁を生きがいにしている海の荒くれ男で優男のテッシュ・ボシア(ギルバート・ローランド)。ステラに横恋慕しているテッシュは、最初はスティーブと対立しているが、次第に「男と男」として、最大の理解者となっていく。これも西部劇に登場するタイプのサイドキャラクター。

ロケーションは、ルイジアナ州、モーガン・シティで行われ、メキシコ湾での採掘船のシーンは、ニューオリンズで大々的に行われた。ワールド・プレミアは1953年5月19日(木)ニューヨークのロウズ・ステート・シアターで行われた。ワイドスクリーン・フォーマット、3チャンネル立体音響の大作として鳴り物入りで公開された。


ワールドプレミアのチケット

アンソニー・マン監督とジェームズ・スチュワートのコンビは、この映画の完成後すぐに、次回作にして代表作となる『グレン・ミラー物語』(1953年・ユニバーサル)を手がけることとなる。


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