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『白と黒』(1963年4月10日・東京映画・堀川弘通)

昨夜は、これも初ソフトパッケージ化、橋本忍脚本、堀川弘通監督、小林桂樹主演『白と黒』(1963年4月10日・東京映画・堀川弘通)をスクリーン投影。松本清張原作の傑作『黒い画集 あるサラリーマンの証言』のトリオによるミステリーだが、これは橋本忍先生のオリジナル脚本。これが抜群に面白い。しかも同時上映が川島雄三監督『喜劇・とんかつ一代』(東京映画)だった。素晴らしい二本立てだったのだなぁと。

青年弁護士・浜野(仲代達矢)は、数年前から恩師・宗方弁護士(千田是也)の若い妻・靖江(淡島千景)と不倫関係にあったが、ある事情で靖江を絞殺してしまう。しかし、すぐに犯人が逮捕されてしまう。宗方邸に侵入した前科四犯の脇田(井川比佐志)が、靖江の宝石を所持していたためだった。

やがて東京地検の敏腕検事・落合克己(小林桂樹)が脇田に尋問するが、窃盗は認めたものの殺人は否認。しかし落合検事が粘りに粘って、ついに脇田は自供。

裁判が始まるが、なんと脇田の弁護には被害者の夫・宗方弁護士と、助手として浜野が担当することに。良心の呵責に苛まれる浜野弁護士が、バーで囁いた一言に、疑念を抱いた落合検事は、捜査一課の平尾刑事(西村晃)とともに再捜査に乗りだすが・・・

もう、これはシナリオの勝利。真犯人は自分だと自覚しながら、被告の弁護に立つ浜野弁護士と、出世コースに進路をとっているにもかかわらず「真実」に近づこうと、検察もピンチに陥れる覚悟で執念の捜査をする落合検事。

仲代達矢さんと小林桂樹さん、そして井川比佐志さん。それぞれの「本音」と「良心」が揺れ動いていく。その心理描写がお見事、見事。

かつて橋本忍先生のお宅にお邪魔した時に、この映画と「泣いてたまるか・その一言が言えない」が対になる作品と、話してくださった。事件が起きて、検察が尋問をして裁判が始まり、弁護人が弁護し、裁判官が判決を下す。それが「事実」となるが「真実」とは言えないんじゃないのか? もっと人間は複雑だし、都合が良ければ平気で「嘘」をついてしまう。しかし、その人物が育った環境や、職業意識で芽生えた「良心」というものがある。

その「良心」は、決して裁判所では全面に出てくることはない。「思惑」「立場」「保身」が先に立ってしまうから・・・と。

この時はインタビューではなく、コーヒーを飲みながらの雑談というか、若き娯楽映画研究家の思うままの質問に、先生が答えてくださるという場だったので、録音を残していない。けど、この話が鮮烈にアタマに残っている。

この『白と黒』は、次々と真相が明らかになって、二転三転して、最後の最後にあっと驚く展開となる。しかも『警視庁物語 謎の赤電話』のような、当時のシステムで、「あ!」っとなる。「刑事コロンボ」のようにトップシーンが犯行シーンでありながらも「あ!」っとなるのである。

そこは何度見ても面白い。松本清張原作ではないが、松本清張先生が自身の役で出演。テレビで、落合検事にインタビューするホスト役である!(その前に、大宅壮一さんも登場する)。

この「執念」のキャラクターが、のちの『首』(1968年・森谷司郎)の正木ひろし弁護士役となっていく。小林桂樹さんのお宅でお茶を飲んでいる時に、そうご本人から伺った。これも雑談でありました。

盛場のシーンで植木等さんの「ハイ、それまでョ」が流れる。空前のクレイジーキャッツ・ブームの空気も体感できる。

俳優座のユニット出演なので、千田是也さん、東野英治郎さん、東野英心さん、小沢栄太郎さん、岩崎加根子さん、などなどが次々と登場。新劇の巨人たちの芝居もたっぷり。

女優陣は、東京映画の制作なので、淡島千景さん、大空真弓さん、乙羽信子さん、つまり「駅前シリーズ」女優陣でもある。他に野村昭子さんが大衆居酒屋のお姉さんとして登場。いい味出している。

これは面白い。未見の方が羨ましい!

(C)1963TOHO CO.,LTD.


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