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『シンドバッド七回目の航海 The 7th Voyage of Sinbad』(1958年・コロムビア・ネイサン・ジュラン)

 先日『地球へ二千万マイル』(1957年・ネイサン・ジュラン)カラー版で、レイ・ハリーハウゼンのストップモーション・アニメを久々に堪能したので、続いての『シンドバッド七回目の航海』(1958年・コロムビア・ネイサン・ジュラン)を、娯楽映画研究所のスクリーンに投影。次々と登場する怪獣たちに、しばし忘我の時を過ごした。100インチに拡大すると、とにかく楽しい。怪物たちの跋扈、小さくなったお姫様を助けるために、シンドバッドが剣を振りかざし、悪い魔術師と秘境で闘う。

 小学2年生のとき、東京12チャンネル「火曜ロードショー」で初めて観た時の驚き。記録によれば1971年5月4日、ゴールデンウィークの放送なので、夜更かしOKだったのだろう。一つ目の巨人・サイクロプスが出てくるだけで「お!」っとなった。例えていうなら、大映特撮『妖怪百物語』(1968年)を観た時のような、嬉しさと「もっと観たい!」の感激があった。10年ぶりぐらいに観て、見せ場、見せ場の連続、惜しげもなく登場するクリーチャたちに、本当にワクワクした。

公開はアメリカが1958年12月23日、日本が12月29日。ほぼ同時公開。日本では石原裕次郎の『紅の翼』(日活・中平康)が、この年の年末のビッグヒット。当初は「シンドバッド」ではなく「シンバット」。リバイバル時には「七回目の航海」から「7回目の冒険」に改題されていた。

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 主人公は、バクダッドの王子・シンドバッド。演じるはコロムビア撮影所の二枚目・カーウィン・マシューズ。ウィリアム・キャンベル主演“Cell 2455, Death Row”(1955年)でスクリーン・デビュー。第二次大戦のガダルカナル島の戦いを描いた『タラワ肉弾特攻隊』(1958年)に主演後、本作に抜擢された。その後も、ハリーハウゼンの『ガリバーの大冒険』(1960年)、『ジャックと魔法の国』(1962年)などのファンタジー映画に出演。僕らの世代では、空前のスパイ映画ブームのなか作られたフランスの『O.S.S.117』(1963年)、『バンコ・バンコ作戦』(1964年)での、スーパー・スパイ“O.S.S.117”を演じていて、いずれもテレビの洋画劇場でお馴染みのBクラスのスター。

 そしてシンドバッドが平和条約締結に訪れたチャンドラ王国のお姫様・パリサ姫には、キャスリン・グラント。コロムビアのスターで、オーディ・マーフィの西部劇『赤い連発銃』(1956年)やウイリアム・レスリーのS F『世界崩壊の夜』(1957年)などのBクラスの映画のヒロインを演じていた。この映画の直前1957年に、歌手で俳優、トップスターのビング・クロスビーに見染められて結婚。ビングの晩年まで、ファミリー・クリスマス・テレビスペシャルに出演。僕は、ビング・クロスビーの若妻として、これらのテレビショーで彼女を知った。

 『シンドバッド七回目の航海』は、シンドバッドとパリサ姫が婚約をして、バクダッドに戻るところから物語が始まる。ハリウッド映画では不可欠の要素である「王子とお姫様の出会い」「ボーイ・ミーツ・ガール」のエピソードは描かずに、すでに2人は相思相愛、というところから始まる。なので、話は早い。年少観客にとっては、ロマンスよりも特撮!なのである(笑)

 パリサ姫を乗せたシンドバッドの船は、食料と水が尽きて、船員たちの気持ちも荒れ気味。姫の侍女・サディ(ナナ・デ・ヘラ)も、シンドバッドに懐疑的。いきなり極限状況から始まる。それでも「なんとかなる」と楽天的なシンドバッド。すると海図にない島を発見し、上陸する。果物など食べ物も豊富で、一行は安堵する。シンドバッドたちが島を探検すると古代遺跡の洞穴から、黒魔術師・ソクラ(トリン・サッチャー)が、何かに追われて出てくる。追いかけてきたのは、一つ目の一角獣・サイクロプス! 脚は獣、上半身はヒューマノイド、一つ目の巨人というのは、子供心にはたまらなかった。

 ソクラは手にした魔法のランプを擦りながら、呪文を唱える。すると出てくるランプの精・ジニー(リチャード・アイアー)は、大男ではなくて、子供! 彼はバラニという少年でランプの中に囚われの身になっていることが、次第に明らかになる。物語のキーマンに少年が出てくるのも、子供にとってはポイント高い。で、ジニーの魔法でサイクロプスとシンドバッドたちの間に、見えない壁が建てられて、その間に船に無事戻ることができた。

 しかし、その時にサイクロプスに、ランプを奪われてしまい、黒魔術師・ソクラは、なんとかそれを取り戻したいと、シンドバッドに頼むが、シンドバッドは取り合わない。これが後々の禍根となるが、姫との結婚優先でシンドバッドはバグダッドへ。2人は祝福され、バグダッドの王・サルタン(ハロルド・カスケット)は、ソクラに「何か魔術を」と命ずる。

 そこでソクラは、姫の侍女・サディを大壺に入れて、その中に毒蛇を投げ入れて呪文をとなる。すると、上半身はサディ、下半身は蛇の「ヘビ女」が現れて、ダンスを踊る。これぞダイナメーション! 巧みな合成で、祝宴の人たちとヘビ女の踊りが展開される。

 しかし、船と船員を仕立てもう一度、魔の島へ戻りたい、というソクラの願いは受け入れられず、怒ったサルタンによりソクラは追放を命じられる。恨みを抱いたソクラは姫に魔術をかけて小さくしてしまう。小美人化!である。4Kデジタル版上映が待ち遠しい『モスラ』(1961年・東宝・本多猪四郎)の小美人演出は、この“小さくなったパリサ姫”から、影響を受けているような気がした。姫のスケール感を出すために、大きなクッションや机のセットを作って撮影。

 姫を元に戻すためには島に棲んでいる「双頭の巨大な鳥・ロック鳥の卵の殻」が必要とソクラ。そこでシンドバッドは、死刑囚たちを船員に募り、危険な航海へと出るが、途中、船員たちが叛乱を起こす。ようやく島に着いたシンドバッドを待ち受けていたのは、サイクロプス、双頭の巨鳥・ロック鳥、火を吹くドラゴン、骸骨戦士などの怪物たちだった・・・

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 ここからの展開は、まさに「ファンハウス=お化け屋敷」的な楽しさ。サイクロプスに捕まった一行は檻に入れられて、餌となってしまう。船員の1人を丸太棒に縛って、丸焼きにして食べようとするサイクロプス。檻の鍵を外すために、小さくなった姫が懸命になってかんぬきを押し出す。この辺りも楽しい。

 双頭の巨鳥・ロック鳥は、猛禽類と怖さを全面にしていて、ああ、鳥の先祖は恐竜だったんだなぁと。しかし、この頃はまだそういう学説もなく、ハリーハウゼンのイマジネーションが、結果的に現実に近づいていた、ということでもある。そして、黒魔術師・ソクラの研究室には、番犬のように鎖に繋がれた火を吐くドラゴンがいる。このドラゴン、これぞハリーハウゼン!という格好良さ。『原子怪獣現わる』(1953年)のリドサウルスが、このドラゴンに流用されたという。その前を恐る恐る通って、姫を奪ったソクラのところへシンドバッドが向かうサスペンス。

 色々あって、シンドバッドがサイクロプスから取り返した魔法のランプと引き換えに、ソクラは姫を元の姿に戻す。しかし、シンドバッドはランプを渡すはずもなく、怒ったソクラは呪文で骸骨戦士を呼び覚ます。この後の『アルゴ探検隊の冒険』(1963年)など、ハリーハウゼンのダイナメーションには欠かせない骸骨戦士がここで登場。モデル・アニメの骸骨とシンドバッドのチャンバラ。これも巧みな合成と、殺陣のうまさで、本作の最大の見せ場の一つ。ストップ・モーションのカクカクした動きが、骸骨の怖さを表現していて、とにかく子供のころ「もっと見たい、もっと見たい」という気持ちになった。

 そして、シンドバッドと姫は洞窟の橋を渡って逃げようとするが、ソクラの魔術で橋は崩落。下は溶岩が流れていて、絶体絶命。そこでジニーを呼び出して、ロープを使って、向こう岸へ。このシーンは『スターウォーズ 新たなる希望』(1977年)のデススターでの、ルークとレイアのハンギング・エスケイプのシーンの遙かなるルーツとなる。そして、サイクロプスが再登場。シンドバッドと姫に襲いかかるが、シンドバッドはドラゴンの鎖を外して、ドラゴンがサイクロプスに襲いかかる!

 二足歩行のサイクロプスと四脚のドラゴンの戦いは、ハリーハウゼン的には『キング・コング』(1933年)の再現でもあるが、僕らにとっては、ウルトラマンV Sネロンガ的なヴィジュアルでもあるので(ゴジラ対アンギラスでもある)、思わずサイクロプスを応援したくなる。このバトルが、小学2年生のゴールデンウィークのぼくを夢中にさせた。ちょうど「帰ってきたウルトラマン」第4話「必殺!流星キック」(4月23日)放映で、キングザウルス三世対ウルトラマンの戦いを見ていたばかりなので、そのイメージと重なる。で、この時のゴールデンウィークは、「帰ってきたウルトラマン」の傑作、第5話「二大怪獣東京を襲撃」(4月30日)グドンとツィンテールの戦いの前編と後編「決戦!怪獣対マット」(5月7日)の間になる。なので、それは興奮するわけですなぁ(笑)

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佐藤利明(娯楽映画研究家・オトナの歌謡曲プロデューサー)の娯楽映画研究所
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