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『花咲く乙女たち』(1965年・日活・柳瀬観)

 舟木一夫の日活での四作目となる『花咲く乙女たち』の主題歌「花咲く乙女たち」(作詞:西條八十、作曲:遠藤実)がリリースされたのは映画公開の四ヶ月前の1964(昭和39)年9月。明るくアップテンポな曲に、西條八十らしい華やかな歌詞は、舟木一夫の歌声にピッタリで、テレビやラジオから流れていた。

 このヒット曲をモチーフにした『花咲く乙女たち』は、織物の街で女子工員として懸命にはたらく娘たちと、定時制高校に通いながら工場に食事を供給する給食センターで働く舟木一夫の青年たちの青春を描くドラマ。それだけだと、いつもの明朗青春ものになるのだが、本作がユニークなのがドラマの主人公・山内賢がやくざの手先の、いわゆるスケコマ師で、工場勤めの女の子たちを片っ端からナンパして、夜の世界に送り込もうと、街にやってくる。

 監督は『仲間たち』(64年)、『北国の街』(65年)、『東京は恋する』(65年)、『高原のお嬢さん』(65年)など、舟木一夫映画を数多く手がけている柳瀬観。

 ロケが行われたのは、愛知県尾西市。夜学に通いながら、明日への希望を持って、生きて行く若い仲間たちと、やくざの構成員として一人前になろうとする山内賢と堺正章のチンピラたち。反社会的な存在であるチンピラと、十代ながら社会人としてひたむきに生きて行く仲間たちを、対立の構図にするのではなく、同じ若者として共存させている。こうした構成は、日活青春映画ならではであり、家庭的に恵まれなかった過去を持つ山内賢扮する昌次が、舟木一夫扮する一本気でさわやかな青年・太一と意気投合していくプロセスは、実に心地よい。

 女の子たちをキャバレーで働かせようと目をギラギラして輝かせている昌次に、太一が紡績工場で働く女の子を紹介するシークエンス。懸命にはたらく彼女たちの姿に、インサートされる昌次の過去のフラッシュバック。彼が何故チンピラになったか? が、一瞬にして観客に伝わる巧みな演出。

 そしてヒロイン、サツキに扮した西尾三枝子の可憐さ。1963年、女子高生のまま日活第7期ニューフェースとして入社し、この頃日活映画で活躍していた青春スター。確かな演技力で、高橋英樹の『男の紋章 喧嘩状』(64年)、小林旭の『黒いダイスが俺を呼ぶ』(64年)、そして三田明の『美しい十代』(64年)などに出演していた。定時制高校に通いながら、紡績工場ではたらく芯の強いヒロインを好演している。

 昌次は次第にサツキに惹かれてゆくが、組の兄貴分・田村(天坊準)の執拗な追い込みが迫って来る、そんななか、太一の提案でコーラスサークルの仲間たちと一緒に、昌次とサブは、犬山へのハイキングへと出掛ける。このハイキングスポットは、この後「博物館 明治村」として、日本中から明治時代の建築物が移築されることになる。

 ここで「娘さん」を皆で歌うシーンがあるが、それに反発する昌次が、サツキに春歌である「ツーレロ節」を強要する場面は、この映画が予定調和の青春ものではないことを示している。チンピラと勤労青年の対比。恥ずかしさをこらえつつ「ツーレロ節」を歌うサツキ。昌次のやり場のない怒りのエネルギーと緊張感。リリカルな描写とやくざの背負う宿命。「俺はお前らを堕落させるために来たんじゃい!」とサツキに言い放つ昌次の孤独感と焦燥。そうした緊張は、サツキの父(中村是好)を昌次が観光案内していくことで、解き放たれて行く。昌次にとってサツキの父との交流はかけがえのないものとなっていく。

 主題歌「花咲く乙女たち」、コーラスの練習曲「村野鍛冶屋」、酒盛り席の「おみこし野郎」、学校で流れる「定時制高校生」、バスで歌う「はるかなる山」、ハイキングでの「ともしび」、「若き旅情」など、舟木一夫の魅惑の歌声もタップリ。

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