『フィラデルフィア物語』(1940年・MGM・ジョージ・キューカー)
連夜のハリウッド・コメディ研究。ジョージ・キューカーが『素晴らしき休日』(1938年)、『The Women』(1939年)に続いて撮った傑作中のナンバーワン!キャサリン・ヘップバーン、ケイリー・グラント、ジェームズ・スチュワート主演の『フィラデルフィア物語』(1940年・MGM)をスクリーン投影。ジェームズ・スチュワートが1940(第13回)アカデミー主演男優賞を獲得した「滅法面白い」ハリウッド・クラシックス。
僕らの世代、1940年代の映画はテレビでもスクリーンでもなかなか観ることができなかった。まだビデオ時代の前夜、1980年代前半、これが観たくて観たくて。グレイス・ケリー、フランク・シナトラ、ビング・クロスビーによるミュージカル・リメイク『上流社会』(1956年・MGM・チャールズ・ウォルターズ)を先にスクリーンで観ることができ、オリジナルは後付けとなってしまった。
それゆえ、リメイクと見比べてしまう。ああ、ここは「トゥルー・ラブ」のシーンだなとか、シナトラがセレステ・ホルムと”Who Wants to Be a Millionaire?”を歌うのは、このシークエンスだったのか!とか(笑)
原作”The Philadelphia Story” は、フィリップ・バリーが、キャサリン・ヘップバーンのために、1939年に手がけたブロードウェイの戯曲。フィラデルフィアの社交界を舞台に、自己中心的なお嬢さん育ちのヒロインが、前夫と喧嘩別れをして2年。全くタイプの違う叩き上げの男と再婚することになる。その結婚前夜に、なんと前夫がゴシップ雑誌の記者とともに、乗り込んできての大騒動。シチュエーションコメディとしては、この上ない設定である。
舞台版では、ヒロイン、トレイシーをキャサリン・ヘップバーン、元夫・デクスターはジョセフ・コットン、記者・コナーはヴァン・へフリン、女性キャメラマン・エリザベスはシャーリー・ブースが演じて大評判となる。
映画化権を持つハワード・ヒューズは、ヘップバーンの元愛人だったこともあって、ヘップバーンが映画化権を譲渡されて、MGMでの映画化が決定。監督はヘップバーンの指名でジョージ・キューカーとなり、ヘップバーンは、デクスター役にはクラーク・ゲイブル、コナー役にはスペンサー・トレイシーを希望するもスケジュールの都合で断念。ケイリー・グラントとジェームズ・スチュワーとが演じることになった。
ヒロインのトレイシーは、原作者フィリップ・バリーの友人と結婚したフィラデルフィアの令嬢・ヘレン・ホープ・モンゴメリー・スコットがモデル。1930年代のハリウッドのロマンチック・コメディは上流社会を舞台にした”現実逃避型”のものが多かったが、本作では、庶民の代弁者であるジェームス・スチュワートとルース・ハッセイの記者を登場させて「金持ちと庶民の感覚の差」を笑いにしている。この「大衆化」こそが、第二次大戦直前のハリウッド映画の”変化”でもある。
フィラデルフィアの上流社会の令嬢・トレイシー・サマンサ・ロード(キャサリン・ヘップバーン)は、石炭会社の重役・ジョージ・キットリッジ(ジョン・ハワード)と再婚することになった。ゴシップ誌「スパイマガジン」のオーナー、シドニー・キッド(ヘンリー・ダニエル)は、格好のネタとばかりに、トレイシーの全夫・C・K・デクスター・ヘイヴン(ケーリー・グラント)を口説いて、トレイジーの結婚式をスクープしようと目論む。トレイシーの兄の友人と偽って、マーコレイ・マイク・コナー(ジェームズ・スチュワート)とエリザベス・イムブリー(ルース・ハッセイ)をロード家に送り込む。
しかし、トレイシーも、ティーンの妹・ダイアナ・ダイナ・ロード(マリー・ナッシュ)もさるもので、コナーたちの目論見を先読みして迎撃をする。さらに、踊り子とのスキャンダルを抱えている父の身代わりに、これまた策士のウイリー叔父さん(ローランド・ヤング)を父親に仕立てて…
たくさんの登場人物が出たり入ったり、色々人間関係がややこしくなっていくのがおかしい。デクスターの狙いは、最初はトレイシーへの復讐だったが、それが次第に元妻への愛へとシフトしていく。ところが結婚式の前夜のパーティで、しこたまシャンパンを飲んだトレイシーとマイク”良い仲”となって、なんと真夜中、二人はキスをしてプールへ飛び込む…
クライマックスの”あれよあれよ”はハリウッドコメディの楽しさであり、拗れた人間関係の果てのトレイシーにとっての「真実の愛」の行方やいかに? キャサリン・ヘップバーンのコメディエンヌとしての演技には、ますます磨きがかかり、ジェームズ・スチュワートにとっても、ケイリー・グラントにとっても、生涯の代表作となった。
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