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『海を渡る波止場の風』(1960年・山崎徳次郎)

             
 「流れ者シリーズ」第二作!

 昭和35(1960)年2月28日に公開された『海から来た流れ者』は、新たなヒーロー「流れ者=氷室浩次」を生み出しただけではなく、主題歌「ダンチョネ節」によって「アキラ節」というジャンルを作った重要な作品。『南国土佐を後にして』に始まる地方ロケは、「渡り鳥」シリーズで定着。ローカリズム溢れる風光明美な風景と、狛林正一作曲「ギターを持った渡り鳥」「口笛が流れる港町」の叙情的なメロディ、小林旭の抜群の歌唱力で、和製西部劇と呼ばれるジャンルが確立された。

 さらにマンボアレンジの民謡という一聴突飛な「ダンチョネ節」を、活劇の主題歌にするという大胆な行為は、作品のローカリズムと無国籍性を高め、それがマイトガイのカッコ良さとして認識されることなった。

 続く『渡り鳥いつまた帰る』(4月23日)でもロケ地佐渡にあやかって、こまどり姉妹との「おけさ数え唄」がラストに流れる。この時点では、全国からロケ誘致が殺到していたとか。この『海を渡る波止場の風』(5月28日)では、鹿児島の桜島をバックに流れ者=野村浩次が暴れ回るというコンセプトで、撮影前から大きく喧伝されていた。

 主題歌に選ばれたのは、ご当地民謡の「鹿児島おはら節」。遠藤実のモダンな補作曲、狛林正一の抜群のアレンジ、歌謡史や俗謡の研究家でもある西沢爽による詩、そしてアキラの伸びやかな歌声。もはや、アクション映画の中の民謡は、この時点で違和感がなかったと思われる。

 齋藤武市監督の「渡り鳥」の滝伸次と、山崎徳次郎監督の「流れ者」の野村浩次。一見、似ているようでいて、テイストはかなり違う。「渡り鳥」は寡黙な旅人でストイシズムをたたえているが、「流れ者」はどこか兄ちゃん風。流れ者は、第一作ではスーツやジャンパー姿だったが、第二作では真っ赤な袖が印象的な皮ジャンにサングラス姿。基本的には滝伸次は真面目そうだが、野村浩次は適度に柔らかい。前作で明かされていたのは元麻薬捜査官、第二作ではルリ子に「刑事さん?」と聞かれる。以降、なんとなく刑事ということが匂わされている。

 流れ者は、いきなりキャバレーに入って来て「ズンドコ節」を歌う。中のチンピラたちは呆然としながらも、歌が終わるまで待っている。終わったところで、高品格が「誰だお前!」と挑んでかかる。この「ズンドコ節」は、「鹿児島おはら節」とカップリングで、この年の6月1日にシングル発売されている。レコードでは「ズンズンズンドコ」のリズミカルな歌い出しが印象的だが、映画では「街のみんながふり返る」が歌い出しとなり、「ズンズン〜」から歌うのは昭和39(1964)年の『さすらいの賭博師』になってから。

 シリーズのお楽しみの一つは宍戸錠の好敵手。今回は金庫破りの名手・ロックの五郎。好色漢の五郎が、ルリ子のボートに乗って、洋上で彼女に襲い掛かろうとする。いつものことながら錠は、こうしたキャラを喜々として演じている。そこでボートの後ろに隠れていた野村浩次が突如として立ち上がる。まさか! コミックストリップすれすれの喜劇的状況が、作品世界を豊かなものにしてくれている。

 その後、陸に上がった五郎と流れ者は、一騎打ちの殴り合い。アキラとジョーの殴り合いは実にカッコイイ。そこで「相棒!」と声をかけ、自己紹介する流れ者。仲良く濡れた衣服を乾かしながら、身の上話をする五郎。「俺はフェミニストだからな」と涼しい顔の流れ者。本作のマイトガイはキザな台詞が多い。

 こうした相棒感覚の親近感は、「渡り鳥」「流れ者」が連続して作られていたからこそのお楽しみでもある。今回の流れ者は、飛行機事故で行方不明になっているパイロットの弟・野村光彦(青山恭二)を探しに鹿児島にやってくる。一方のルリ子はその恋人。運命の糸が、二人に事件の真相を探らせることになる。その中で芽生えるほのかな慕情がラストの情感となっていく。

 ルリ子とアキラが浜辺で会話をするシーンのBGMは、挿入歌として用意されていた「南の空の渡り鳥」。タイトルにもクレジットされているが、劇中BGMのみ。さすがに「流れ者」に曲名が「渡り鳥」はまずいとの判断だろう。この曲は、後の「渡り鳥」便宜上の最終作『渡り鳥故郷へ帰る』(62年8月12日)で、主人公・滝浩によって歌われることになる。本作ではルリ子とのツーショットのシーンに効果的に使われている。

 シリーズのフォーマットは本作で完成され、第三作『南海の狼火』(9月3日)、第四作『大暴れ風来坊』(11月16日)、最終作『風に逆らう流れ者』(61年4月9日)と連作され、マイトガイ映画の中核をなしていく。

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