読書メモ:「欲しい!」はこうして作られる-マット・ジョンソン/プリンス・ギューマン

所感

これまで色々な行動経済学や心理学などの本を読んできたが、その全てをまとめた一冊だといえる。今まで読んできた本の中の内容を思い出しながらも、より具体的な実験や例を元に解説されており、知識がより深まった感覚がある。
かなりボリューミーで、実務に是非とも活かしていきたいナレッジが多かったので、一つ一つの法則を試していきたい。

第1章 あなたが食べているのはメニュー

私たちは普段、体験していることが実は脳内の推測であるということ。これまでの体験をもとにモデル化され、少ない情報で自動的に体験自体を予測してしまう。実際の刺激から受ける知覚は少なく、脳のイメージによって体験は支配されている。

私たちは、食べたものを直接感じはしない。下に届く食べ物の客観的な感覚と、脳が最終的に経験することの間には大きな隔たりがある。偉大な哲学者の故アラン・ワッツの言葉にあるように、「我々が食べているのはメニューであって食べ物ではない」のだ。

脳が現実を直接的に体験することはない。その代わり、現実のモデルとなるものを構築する。そのモデルを、神経科学の世界では「メンタルモデル」と呼ぶ。脳は絶えずモデルを作り続けている。何かをひと口食べても、私たちが体験するのは食べ物そのものではない。それを食べた時の体験はこうあるべきだという脳の推測を体験している。

ブランドや企業が私たち消費者のメンタルモデルに影響を与えれば、それは私たちの現実に直接影響を及ぼしたことになる。

マガーク効果
「ファ」の口の形をした男性の映像とともに、「バ」という音声が入っている状況では、視覚情報の「ファ」が優先され、「バ」という音だとしても「ファ」に聞こえる。

ARを使って白ワインの色を赤に変えたのだ。見た目が変わるのはデジタル上だけのことで、ARレンズを装着した人にしか変わって見えないが、それでも結果は同じだった。

強い感覚が弱い感覚の認識に影響を及ぼせることから、メンタルモデルがいかに不完全んで影響を受けやすいかがよくわかる。ただし、これは氷山の一角に過ぎない。自分の思いは、強い感覚以上にメンタルモデルに大きく影響する。

メンタルモデルにはその人の思いが満ち溢れている。〜全国的に名の知れたブランドロゴがパッケージに明記されているターキーと、ノーブランドのターキーとでは、大抵の人は前者の方が美味しいと感じる。

高価なワインだと告げられた時に、参加者の快楽中枢のニューロンが活発に発火したという。安いワインと告げられた時は、ニューロンは発火しなかった。

このようなつながりを習得できるのは、脳にパターンを探さずにはいられない性質があるからだ。脳のそうした習得機能は「統計学習」と呼ばれる。

彼らは広告で消費者との心理的なつながりを手に入れて、消費者の意味ネットワークの中で広大な領地を占領しようとしている。
〜炭酸飲料を大衆に売るにはどうすれば良いか?大衆がものめているもの、すなわち「ハピネス」を商品にくっつければいい。

メンタルモデルを構築するプロセスを自覚することは絶対ない。客観的なデータを取り込んで主観的な体験を生み出す時に脳内で起きていることは、決して意識されない。この自覚の欠落は、体験と知覚の間にあるギャップと同じく、マーケッターにとってはチャンスとなる。消費者の感覚にひねりを加、思いを刷り込み、それらを脳に深く刻み込めば、消費者がメンタルモデルを構築するプロセスを乗っ取り、さらには現実に対する知覚を根本から変えることが可能になる。

第2章 アンカーを下ろす

人間は1つのものを評価することは難しい。あくまで複数の選択肢があった場合に相対的な評価を下す性質を持っている。

脳は対比の強いものに注意を向けやすい。
対比の強い領域では、人がどこに視線を送るかを85%の精度で予測できるとわかった。

興味深いことに、内因性の注意は外因性の注意を引こうとする競合ブランドを退ける役割も果たす。ダサニを好む感情が強いほど、他の選択肢に目が行かなくなる。文字通り、ダサニの競合は見えなくなり、ダサニが圧勝する。

顧客の脳は、短羅の買い物を正当化するために、基準となる偽りの高い価格を欲していたのだ。

第3章 瞬間を作る

優秀なブランドは、出来事そのものだけでなく、その結果として生まれる記憶をうまく活用するような体験を巧みに生み出す。

コンサートのようなイベントを録画すると、そのイベントに関する記憶は、ただ鑑賞しただけのときより大幅に損なわれるという。

実験によると、人は後ろ向きな気分の時は細部に目がいき、前向きな気分の時は全体に目がいくという。

しかし、何を学び、どのくらい正確にボールをドリブルできるようになったのかと尋ねられたら、具体的に説明できずに答えに窮するだろう。それは、学習を通じて行動を変える重要な痕跡は脳内に刻まれたが、その学習プロセスの細部については意識していなかったためだ。

第4章 記憶をリミックスする

エクステラを購入してイケているという思いを保ち続けるか、エクステラは購入せずに、自己評価を見直して、実はイケてないと思い直すかのどちらかになる。

だが、著名人を「非現実的な憧れの対象」と分類することは比較的容易でも、インフルエンサーとなると話は別だ。

機能的アリバイ
自分の選択を正当化する立派な言葉を並べる。
「テスラに乗る人は、買おうと思った最初の理由がなんであれ、その車の環境に配慮した特徴のことで頭がいっぱいだ」

サンクスコスト
やりとりが増えれば増えるほど、費やした間が増えるので、顧客は断りづらくなるのだ。
※メールアドレスを最後に求められるフォームなど。
「過去との関係を絶ったつもりでも、過去は追いかけてくる」

第5章 2つの意識

このような初期設定の影響力は大きい。というのは、安全で表面上はリスクがない現状が自然に継続されるからだ。自動再生機能があれば、試聴し続けることが初期設定となるので、視聴熱が高まり、視聴をやめるには意識的な行動が必要となる。

ニューヨーク市でタクシーに乗った時に払うチップは料金の10%が相場だった。だが、新たにクレジットカードでの支払いの際に初期設定が導入されてから、相場は22%に跳ね上がった。

物理環境で疲れさせる
グルーエン理論は半分正しい。ショッピングモールをはじめとする、近代的な買い物の場は、確かに消費を後押しするが、デザインの美しさには感心させようとはしていない。むしろ逆で、目まぐるしい、刺激が多すぎる。方向がわからなくなる、といった感覚をあえて利用者が抱くようにデザインされている。そうやって買い物環境をより疲れさせるものにすれば、モールをおとづれた客は衝動を抑えられなくなり、より多くのお金を使うようになるからだ。

感情
感情を伴う広告はとてつもなく多く、またとてつもなく高価的だ。
一番効果が高かった広告キャンペーンには、合理的な要素がほぼ皆無だった。

Kファクターが高い状態向けの販売戦略
Amazonが提供するプライム会員サービスは、当初は年会費制だったが、のちに2つの選択肢の提示に切り替えた。月額制(オートマチックモードですぐに決断する人向け)と年会費制(マニュアルモードで塾考して決断する人向け)だ。Amazonはすべての人に対して何かを用意している。

電話でじっくりと考えるように促すといった単純なことでも、お金の使い方が変わると判明した。その実験では、クレジットカード会社の電話による債権回収の仕組みを変更し、未払金を抱えた実験参加者にその金額を読み上げるだけでなく、返済予定日についても尋ねた。この単純な変更により、未払金が完納される確率が劇的に向上し、大多数が電話で明言した期日をきちんと守った。

第6章 快 - 不快 = 購入


快の奇妙な性質1: あっという間に消える
脳の生物学的な観点からすると、快は徐々に上昇し、何かを初めて体験する直前にピークに達する。
こういう理由から、脳は満足や快の体験をごく短いものにする。

性質2: 偶然性を好む
偶然性を愛する感情だ。快は、偶然という形で生まれるものが最高となるのだ。

性質3: 人が未来に得られる快を予測する能力はとても低い
こうした誤算が生まれた一因ははっきりしている。普段はたまのご褒美であるアイスクリームによる「快」が、予測できるものになってしまったからだ。

性質4: 選択肢が多い方が快が増えるとは限らない
結局のところ、自分の決断に従う他ない人の方が、逃げ道が用意された自らの決断に「幕引き」しない人に比べて遥かに自分の決断に満足しているのだ。

FOMO(Fear Of Missing Out)の威力
逃すことへの恐れを最大にする形で提示した時に売上は最高となり、何の刑事も受けなかったグループの購入がダントツで低かった。
マクドナルドは季節商品として宣伝しないように気をつけている。季節商品のレッテルを貼られてしまうと、機会を逃すことへの不快があまり生じなくなるからだ。だから、「マックリブが期間限定で帰ってきた!」という表現を使い、逃すことへの恐れをうまく煽っている。

第7章 依存2.0

快、予測、驚き
ところがザッポスは、あえて顧客に伝えずに2日で商品を届けることを選んだ。それはなぜか?顧客は注文したナイキのシューズが届くのは一週間後だと思い込んでいるからだ。そんな顧客の期待を裏切って2日で商品が届けば、新品のナイキを受け取る時の喜びは驚きによって増幅される。

偶然と行動の関係
フェイスブックは、ユーザー体験にドーパミンが作用することを目指していた。彼らによると、投稿いた写真や記事に、誰かが「いいね」を押したりコメントを書いたりすることで、時々ユーザーに少々のドーパミンを与える必要があったという。

2009年、ニュースフィードが時系列順に表示されなくなった。新たなアルゴリズムの魔法によって、ユーザーが閲覧したであろう投稿やタイミングが決められることになったのだ。この更新は偶然性の大勝利を意味した。

終わっていないという感覚
中断なく暗記を完了させることができたグループに比べて、中断させられたグループの方がしっかりと単語を覚えていた。

ツァイガルニク効果
一度始めたことを終わらせたいのが人間の性なので、それができないと不満に感じる。そのため、できるだけ早く完了させたいというニーズが生じる。消費者の注意で儲けるプラットフォームは、そうしたニーズを生み出すのに熱心で、完了させる機会を探したくなるように仕向けつつも、絶対に完了しないように仕組んでおく。なぜなら終わらせたい欲求を満たすことに時間を使えば使うほど、そのプラットフォームの儲けが大きくなるからだ。
例)「ある一人の住民は、なぜドローンと親友になったのか。詳細はCMの後でお伝えします」

「クリックベイド」と呼ばれる手法は、消費者をじらす(情報の一部を見せて残りを知りたくなるニーズを生み出す)形態を取っている。扇情的なタイトルを餌(ベイド)にして、サイトを訪問する消費者にクリックを促すのだ。

ピンタレストは、偶然性とツァイガルニク効果を見事に組み合わせて画像を表示している。

第8章 人はなぜ特定の何かを好きになるのか?

マーケティング業界の最古とも呼べる格言の1つに「7つの法則」というものがある。これは、顧客に商品の広告を7回みせないことには実際に買いたくはならない、という意味だ。

第9章 共感と人間同士のつながり

すると、二人ではなく、一人の子供の写真を見せられたグループの方が、はるかに多くの額を寄付した。

人を一つにするものは何か。軍隊?金?旗?いや違う。ストーリーだ。この世において、説得力のあるストーリーほど強力なものはない。それは何者にも止められない。どんな敵でも勝てない。

第10章 あらゆるものの本質

永続的な幸福の源となるのは、自分の人生について自分に言い聞かせるストーリーだ。このストーリーが個別の瞬間の間に生じる溝を埋め、それらがつながることで自分という人間が出来上がる。

物質や企業にまつわるストーリーは、人々の価値の置き方に影響を与える。それと同じように、自分で自分に言い聞かせるストーリーもまた、自分自身の人生にどんな価値を置くかに影響するのだ。

第11章 ミドリミナル

あらためて整理すると、サブリミナル・プライミングとは、消費者に意識させることのない何らかの刺激を通じて、その人地震やその行動に影響を生じさせることを意味する。

時計の針はきまって10時10分を指している。これは偶然ではない。
〜10時10分に針を合わせると、時計が「笑顔になっている」ように見えるのだ。

見た目
女性が赤いシャツを着てヒッチハイクをした場合、異性愛者の男性ドライバーが止まった数が2倍近くになったという。
赤という色は、愛や性に関連づけられることが多い。クリスチャン・ルブタンが、あの踵が細く尖ったハイヒールの靴底に独特の赤を使っているのは有名で、同社は実際にそうした色の使い方の特許権を取ろうと何度も試みている。


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