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写真と日常 #20【スナップ注意警報】

(スナップ注意警報)

 あまり書きたくない事を、あえて書かなければならない時もあります。
四年ほど前のことになりますが、季節と時刻を失念するほど思い出したくもない記憶を、スナップ写真を主に撮られている誰かの役に少しでもなれば良いなと思い紹介します。
 
 小さいコンデジ片手にいつもの散歩道で草花を撮っていると、公園に隣接する草野球場で親子がソフトボール遊びをしていました。
三十代半ばくらいのお父さんが大きめのゴムボールを投げて、それを小学二三年生くらいの女の子がヘルメットを被ってプラスチックのバットで打って遊んでいたのです。傍らにはお母さんとまだ小さい男の子が見守っているという構図です。
 これは何とも良い光景だなぁと思いつつ、近くにあったベンチに腰を掛け、二回だけコンデジのシャッターを切りました。

 すると急にその可愛らしいバッターの女の子がこちらに向かって指をさしたのです。私はバックネット裏にある遊歩道に設置されてあるベンチに座っていたので結構な距離があったため、何を言っているのか聞き取れなかったのですが、それを見たお父さんがいきなり怒鳴り声を上げてこちらに向かってまるで猛牛のような勢いで走って来たのです。

 事の次第をすぐに理解した私は、反射的に撮影した二枚を削除しました。
(今思えば削除せずにそのまま見せるべきだったと後悔しております)
その女の子のお父さんが鼻息を荒くして私のところに来るや、カメラを見せろと言うので見せました。もちろんその二枚は既に消えて残っていません。
 カメラにはその他の写真が数枚残っていましたので、まだ鼻息の荒い彼はその写真を繰り返し見ていました。
 そして既にいま撮影したものは削除済みであることを伝えると、何で勝手に撮ったのかと聞かれたので、休日のファミリーの絵になる光景が何とも素晴らしかったので撮らせてもらいましたと答えました。
 そして、申し訳ありませんでしたと素直に謝りました。
やがて彼は呼吸も整い、二度とこんな事はするなよと捨て台詞を残して立ち去り、グラウンドに戻ると、きつく言っといたからと奥さんに伝えているのでしょう、こちらを見ながら何やら話し込んでいました。私は一呼吸おいてからその場を後にしました。

 おそらく女の子の両親は、カメラを持って勝手に撮ってくる怪しい男には気を付けるよう常日頃から注意して言い聞かせていたのだと思います。
それが、あの人こっちを撮っているよ~、になったのだと思います。
 女の子を持つ親の立場になったら当然と言えば当然の怒りの行動なのだと理解出来ますし、自分が軽率だったなとも思います。

 カメラの小型化やスマホの登場が、皮肉なことに露骨な盗撮を誘発する原因となり頻繁にニュースになる時代。カメラを持っているだけで不審者扱いされるこの時代。田舎はまだしも都会ではそこら中に監視カメラがあるでしょうし。迷惑に留まらず犯罪にまでカメラを悪用し、カメラの価値観を地におとしめようとする輩の憎さよ。

 しかし、ハッキリしていることは、相手が嫌がっていたり、迷惑だと思っているのであれば、どんなに表現の自由や芸術性を持ち出そうが通用しないし、万が一にも撮る側に利は無いものと考えます。

 いつも不思議に思っていることに、テレビのニュースに映る気象情報の動画に、都会の街を行き交う人々の顔出しアップ画像の多いこと。汗を拭う女性やサラリーマン、水遊びをしてはしゃいでいる子供たち。結構な望遠レンズを使って撮影していることが分かる圧縮効果の効いた画像。
あれは、いちいちその人々を追いかけて全国に顔が出ることに対して了承を得ているのだろうか? 静止画はダメで動画は良いのだろうか?

 暫くの間、前述の後遺症でカメラを持ち出すことが出来なかったものの、元々鈍感力だけは人一倍強いと妻にも言われる私は、また性懲りもなくカメラ散歩をしています。
 スナップ写真を撮る頻度はそれ程でもないのですが、最低限のルールは守りつつ、今後も私はスナップ写真らしきものは撮り続けたいと思います。
 反省していないとか、不謹慎とか思われるかもしれないですが、スナップ写真のモラルやリスクにも増して、私にとってこの世の中からスナップ写真の文化が絶滅してしまうことが重大な問題だからです。 

 後日、スナップの注意点を息子から要点だけ訊きました。スナップのテクニックは色々あるようですが、私には出来そうもないテクニックが多過ぎて諦めようかと。でもその中で、頑張れば私にも何とか出来そうだなと腑に落ちたのが、シャッターを切った瞬間にその場を風のように立ち去ること、でした。
 私は歩くのが遅いほうですが、森山大道氏は歩くのが速いのかなぁ? と、ふと思いました…

 昭和の時代の事を持ち出すと回顧主義的と思われるでしょうが、昔は銀色に光るカメラを首からぶら下げている人がいると、撮ってくれるの⁉ みたいな感じで子供たちや大人たちまで物珍しそうに集まって来たりしていた、まだ自分も鼻たらし小僧だった頃の土門拳の時代がやはり懐かしい。
 長文失礼致しました(黄昏人)

 以下の写真は、女の子のお父さんが鼻息も荒くガン見していた四枚です。

(sony dsc w300)

(sony dsc w300)

(sony dsc w300)

(sony dsc w300)

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