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[Rによるデータ分析入門]変量効果モデルと相関変量効果モデル(2)

本コラムでは(1)に引き続き、Wooldridge (2010)によって紹介された変量効果モデルの問題に対処した相関変量効果モデルを紹介します。

相関変量効果モデルとは

相関変量効果モデルは、Wooldridge (2010), Econometric Analysis of Cross section data and Panel data, MIT Pressで紹介された変量効果モデルの問題点を克服するモデルです。以下ではその概要を簡単に説明します。

ここで次のようなパネルデータの回帰式を考えます。

$$
y_{it}=\beta X_{it}+\mu_i+\epsilon_{it}          (1)
$$

さらにμiを以下のようにXitの平均値と個体固有の誤差項$${\nu_i}$$で構成されると仮定します。

$$
\mu_i=\gamma\bar{X_i}+\nu_i     (2)
$$

この式ではμiのうちXと相関する部分は$${\gamma\bar{X_i}}$$で対処し、残りの$${\nu_i }$$はXと相関しない個体効果で構成されると仮定していることになります。つまり、このモデルは通常の変量効果モデルとは異なり、μiがXと相関することを許容しているしていることになります。

実際の推定は(1)に(2)を代入した以下の式を推定します。ここで$${\nu_i }$$はXと相関しない個体効果と仮定していますので、このモデルは変量効果モデルで推定できます。

$$
y_{it}=\beta X_{it}+\gamma \bar{X_i} +\nu_i+\epsilon_{it}          (3)
$$

ここで$${ \bar{X_i} }$$は時間に依存しないので、時間を通じて変化しない変数を導入すること可能となります。また、もし$${\gamma =0}$$であれば変量効果モデルが正しいことになるので、$${\gamma =0}$$の検定で変量効果モデルの妥当性を検証することもできます。

相関変量効果モデルに問題はないのか?

一見すると相関変量効果モデルは、変量効果モデルの非現実的な仮定を緩め、また時間を通じて変化しない変数を導入できないという固定効果の問題点もクリアしている素晴らしい推定方法に見えるかもしれません。以下、筆者の私見ですが、相関変量効果モデルにも問題があり万能選手ではないことについて指摘したいと思います。

問題というのは$${ \bar{X_i} }$$を計算する際に、ここにはt=1からt=Tまでの全期間のXitの値が入る、つまりyitのt時点よりも将来の時点Xが入ってくるという点です。

たとえばyitを売上、XitをR&D支出額とすると、$${ \bar{X_i} }$$には将来のR&D支出額も入ってきます。企業はt年において売上yitが増加した際に、翌年t+1年のR&DであるXit+1を増加させる可能性があります。この場合、被説明変数yitはXit+1に影響するわけですが、説明変数の$${\bar{X_i} }$$にはXit+1も含まれているので、yitは$${\bar{X_i} }$$に影響するという逆相関の問題が生じます。Xitがt=1からt=Tの全ての期間についてyitからの影響を受けない場合(たとえば気温のような気象条件)全く問題なさそうですが、Xitが企業や個人の意思決定で変動するような変数の場合には注意が必要です。

次回はRによる変量効果モデルと相関変量効果モデルの推定方法について説明します。

本コラムは「Rによるデータ分析入門」のWEBサポートページとして作成されました。WEBサポートの一覧は以下を参照してください。

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