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社会課題解決型企業によるブランドストーリー

前回でも触れたように、急速に注目が集まる社会課題解決型企業ですが、ビジネスとして成り立つ仕組みづくりは、簡単に出来上がるわけではありません。創業時から地道な努力を重ねて成果を積み上げて行く過程を踏むことが普通であり、なおかつ泥臭い交渉やトラブルも日常的におこります。
このような難しいビジネスを10年以上前から開始して、現在も活動を続けている企業があります。服飾・カバン等を製造販売する、マザーハウスという企業です。

マザーハウス ホームページ
https://www.mother-house.jp/

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(マザーハウス創業者 山口絵理子氏)

マザーハウスは、創業者の山口絵理子氏によって、2006年にバングラデシュで製品製造を開始しました。
慶応義塾大学を卒業してバングラデシュの大学院を修了した、25歳の女性起業家が発展途上国でビジネスを開始したということで話題となり、著書もベストセラーになります。

マザーハウスの成功はマスメディアにも大きく取り上げられ、成功者として脚光を浴びる機会も複数あり、社会問題解決に対する意識の強い、有能な企業家であるという評価も得られました。

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このような、一見、華やかな経歴を持つように見える山口氏ですが、その著書を読んでいくと、とても華麗とは言えない、危険や苦労が絶えない劣悪な環境を克服し、最前線で孤独な闘いや失敗を繰り返しながら、苦境でも踏ん張り続けていなければならなかったということが、よくわかります。

紆余曲折を経て企業として成長したマザーハウスは、現在、日本だけでなく、フランス、台湾、香港、シンガポールなどでも商品を販売し、40店舗以上で展開されています。

また、製造国も、インド、バングラデシュ、ミャンマー、スリランカ、インドネシア、ネパールと広がっており、現地従業員の雇用と技術獲得支援を続け、その国における固有の文化や自然を重視した商品開発を目指しています。

これらは、全て創業者の山口氏やその仲間たちが徒手空拳で挑み、培い、獲得してきたものです。大企業などと異なり、資本のチカラによる支援などが期待できない分、尋常ではない苦心惨憺な日々を過ごしてきたことがうかがえます。

だからこそ、大企業によるフェアトレードやCSRなどの綺麗な概念や、学者による用語の羅列とは異なり、残念ながら昨今では安易に用いられることも多い、汎用的な安っぽい「ブランド」という言葉で片付けられないような想いが、この会社の製品には込められています。

では、マザーハウスは、なぜこのように多くの顧客を獲得し、海外にまで支持を集めることが出来たのか?

それは、顧客と企業による共感の物語を作れたからです。しかも、顧客参加型で現在進行形の物語です。

それでは、これらの内容をフレームワークで整理してみましょう。
今回は、最近の流行であるデザイン思考によるフレームワークを用います。

デザイン思考は、問題解決型アプローチの思考法です。自社が提供するサービスや商品を利用する顧客に対して、仮説や代替案を検討し、自社の提供価値に対する新たな戦略や問題解決を模索するために用います。

そして、大事なのは「実行しながら考える」ということです。なぜならば、新しい可能性や方法を発見して解決に導くのがデザイン思考であり、そのためには行動することが必要なプロセスであるためです。だからこそ、デザイン思考では問題の再定義を繰り返し、更にその提供価値を磨き続けることで、顧客支持を拡大させていくことを目指していくことになります。

デザイン思考のフレームワークで有名なのは、アメリカのスタンフォード大学で開発された、「d.schoolモデル」です。これは、5つのプロセスを廻していくことで、デザイン思考になるという方法です。

d.schoolモデル 5つのプロセス

■共感(Empathize)
解決しようとしている問題に共感し、それを理解する

■定義(Define)
共感の段階で収集して、作り上げた情報をまとめる

■創造(Ideate)
共感の段階で顧客と彼らのニーズへの理解を深め、定義の段階で観察結果を分析し、更に体系化して顧客に注目した文章にまとめる

■プロトタイプ(Prototype)
製品や製品内の具体的な特徴を反映した、低コストで簡単な試作品をたくさん制作してみる。これらを用いて、ここまでの段階で判明した問題の解決策を検証する。

■テスト(Test)
試作品の段階で特定された、解決策に基づいて作られた完成品を厳格にテストする。場合によっては、ここで再修正が行われることや、問題が追加定義されることもある。

今回のマザーハウスと顧客の関係について、フレームワークに沿って下記のようにまとめてみました。

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ここから読み取れることは、企業と顧客は最初のきっかけが異なるにも関わらず、徐々に距離を縮めてゆき、最終的には融合していくということです。

問題意識を持った顧客は、マザーハウスの共感から作り出された商品を手に取ることで、自分の当初から意識にあった共感と、最終的に結ばれることになるのです。そして、この関係性は双方の意識が離れない限り、継続的な関係性が強く構築されていきます。なぜならば、自分が応援する企業が成長することで、より自分の共感できる問題解決が図られ、満足感を得られる結果が出せるためです。

企業としても、顧客からの共感による応援を受けることで、より企業努力によって売り上げが増加し、そのことで賃金や雇用に反映させることができるようになり、品質も向上するため、顧客からの共感を更に得ることが出来ます。

つまり、顧客エンゲージメントを高めるマザーハウスの企業活動が、結果としてその商品を購入する顧客の顧客ロイヤリティに繋がっていくという、理想的な相関関係が出来上がっているということです。

このことによって、企業と顧客の双方の共感から、現在進行形の企業のブランドストーリーが作られていくということが導き出されてくることでしょう。

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