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イメージ広告は悪か?

今回は、広告作りで大切な視点として構造地図(レイアウト)に関する内容を
2010年出版の「確実に販売につなげる 驚きのレスポンス広告作成術」(同文館出版)より、抜粋および再編集して記載します。

いったいどの広告の反応がよかったのか? 

【書道教室の広告のケース】

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上記の広告をご覧いただきたい。
この広告は書道教室のチラシで、体験講座の集客を目的にした3種類の広告である。この広告の配布方法は、ポスティング(※1)とDMの2種類。特筆すべきは、この広告は以下の7つの共通点を持っていたことである。

ポスティング
①同じ地域
②同じ日
③同じ数量(A、B、Cを各2,500枚)

DM広告
④同じコミュニティ向けのDMに同梱配布
⑤同じ日
⑥同じ数量(A、B、Cを各500枚)

ポスティングとDM共通
⑦チラシの裏面は、3種ともまったく同じ内容 ※以下の内容

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この試みは、ダイレクトマーケティングの専門用語で、「スプリットラン(※2)」と言われている。それは、「広告表現(クリエイティブ)を変えたスプリットラン=クリエイティブテスト」のことである。
それでは、どのような反応だったのか、結果を説明する。枚数はポスティングとDM、合わせて9000枚配布。反応の結果は、18人の集客。結果はあまりよくなかった。その要因は、特にポスティングについては、オファー(※3)である体験講座の曜日・時間の設定がよくなかったこと、そして配布地域の読みの甘さ。要するに「魚のいないところに、まずい餌を蒔いた」ということである。

だが、そもそもこの仕掛け自体はクリエイティブテストを行なうことが
主目的だったので、トータルの結果についてはいったん横に置き、次のこ
とに注目してもらいたいと思う。

ひとつ興味深い事実がある。それは、この18人が「どのチラシを見て反応したか?」ということだ。写真のチラシの表面(A、B、C)で、どれが一番反応がよかったのだろうか。まずは、よく考えてみてほしい。
では、答えを明かそう。

B > A > C


いかがだろうか? 意表をつかれただろうか? それとも、やっぱりと思っただろうか?
もし、あなたが男性で表面Cの「女性のうなじ」に目が行ったというならば、それは単に目が行っただけであって、「女性のうなじ」と「書道教室」とはまったく関係がないということに気づいてほしい。

このような反応となった、ビジュアル面でのメカニズムについて、この後紹介するが、この結果からひとつ言えることがある。それは、「広告の反応は、ビジュアル面に大きく影響される」ということである。

※1 ポスティング:広告関連で使用する時は、ポストに投函することを指す。特に、チラシなどを個人宅に投函する行為やその業務を言う
※2 スプリットランテスト:新聞や雑誌の広告の表現効果を測定するための一手法。表現内容が一部異なる2、3種の広告(クリエイティブ)を、同一発行日の新聞、雑誌に分割掲載し、後に具体的なレスポンス結果や広告の注目率など、2、3種の広告の表現効果を相対的にとらえようとすること
※3 オファー:本来は提案する、申し出るという意味。レスポンス広告の要素としては「特典」のことを指す

いったいどの広告の反応がよかったのか?

【美容室の広告のケース】

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上の広告をご覧になっていただきたい。この広告は、地域で7店舗経営している、ある美容室で実施されたミニコミ誌掲載の広告である。いずれも同じミニコミ誌に掲載し、発行部数は19万5000部。実際に消費者に届いている数はわからないが、この3種類は、それぞれ違う時期に打ち出した広告である。
この3種の広告は、タイミング、訴求ポイントがそれぞれ違うため、単純に見せ方だけで反応が変わったとは言い難いが、集客に約5倍の差が出たことから、「見せ方」が大きな影響を与えたと考えられる。
では、いったいどの広告が最も集客できたのだろうか?

今回は、実際の数値(この広告で来店した人数)を明らかにしたいと思う。
では、答えを明かそう。

A=122人
B= 55人
C=270人


C、A、Bの順で、何とCはBの広告に対して約5倍の反応差という結果になった。ビジュアル面でのメカニズムについては、後ほど触れるが、いくつかこの要因を仮説として考えてみたいと思う。
まず、アイキャッチを見てみると、CはAと比べて目を引くようにしっかりと設計されていることがわかる。また、後日実際にインタビューをしてわかったことでもあるが、キャッチコピーである「第一印象をもっと『キレイ』に」というメッセージが目を引いた要因にもなっている。
Bも「第一印象」というキーワードを使い、「あなたは第一印象でずいぶん損をしています!」というキャッチコピーを取り入れているが、Bの場合、キーワードとして「第一印象」を使ったのはいいとしても、少し煽り気味になっているため、ビジュアルとの連動も今ひとつと言えるかもしれない。また、大きな違いは、Cの広告が左下にオファーを用意し、目立つように工夫していることだろう。

さらにほかの要因は、Cはアイキャッチに3人のモデルを比較できるように掲載したことである。モデルが3人並ぶというのは、自分が属するタイプがどれかと無意識に考えやすいということでもあるようだ。※この3人という人数に関する調査は、また別の機会で触れたいと思う。

イメージ広告は悪か?

ダイレクトマーケティングを学んできた人にとって、次の言葉が呪文のように耳に残っている人がいるかもしれない。「イメージ広告はお金をドブに捨てるようなものだ!!」。
しかし、よくご覧いただきたい。チラシAは、コピーライターとして著名なジョン・ケイプルスが音楽学校の集客のために作ったダイレクトメール広告で使われていた冒頭のコピー、「私がピアノの前に座った時、彼らは笑った。しかし、私が弾きはじめたら、どうだろう?」をまねたコピーだ。とても反響が高かったこともあり、今では伝説となっているダイレクトマーケティングの王道手法が、チラシBのビジュアル系広告に負けるなんて、いったい何が起こっているのだろうか?
以前から、あなたの身近でこんな出来事が起こっていないだろうか?
「コピー中心の広告を打っても、反応が少なくなってきている」「コピーで煽ると、なぜかクレームの多い客が増えてきている」
反応の結果を踏まえて、こうした事象を解明する手掛かりをお伝えしよう。

広告の構造地図とは?

広告の構造地図と聞いて、何やら難しく感じるかもしれない。簡単に言うと「レイアウト」のことである。私の尊敬する広告人であり、アートディレクターの故山田理英先生の著書『広告表現を科学する』(1998年/日経広告研究所)には、広告表現について興味深いことが記載されている。

―  広告では、「注目率」の獲得が何よりも肝心なことは第一の常識になっている。「注目率」に影響を与える要素としてレイアウトが考えられる。それにもかかわらず、広告の本でレイアウトを一番最初に解説したものがほとんどない。今までの広告表現研究といえば、「何を」「どう語るか」を第一のポイントとしてきた。
アムステルダム大学のフランツェン教授が調査データを示し、多くの人がひとつの広告の刺激に0.3秒間凝視し、1秒以内に「この広告は注意するに値するかどうか」を決めていると指摘している。新聞広告の「注目率」にスポットを当て、いろいろな解析を繰り返し行なったところ、結果的にフランツェン教授説をさらに具体化する糸口をつけるかのように、切りフダはレイアウトにあるということが浮きぼりになった。そして細かく見ていくと、「構造地図」に沿ったものが注目率を高めるうえで最も大きなカギを握っていることもわかってきた。(途中省略)

この著書には以上のような記述とともに、「広告を見た時に、最初に目にするものは、次の要素のうちのどれか?」ということで、構造地図、絵のスペース、カラー、ボディコピー数、絵の数、訴求内容、余白、字体、キャッチコピーの位置など、40項目以上の要素の調査報告もされている。その調査では、圧倒的に「構造地図」の注目率が高かったという結果が出ているのである。
このように、広告を見たときにまず最初に目にするのは、構造地図といわれる全体のレイアウトということがわかった。つまり、われわれも含めた消費者は初めに、広告の全体像を見るということのようだ。
そこで、「構造地図」について考察するにあたって、ひとつのフレーム
ワークを見ていきたいと思う。

広告の構造地図を確認するポジショニングチャート

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早速、上の図のチャートを見ていただきたい。このチャートを見て、勘が鋭
い人はすでに理解できたかもしれない。私は心理学や大脳生理学の専門家ではないので、右脳と左脳について詳しく述べるつもりはないが、広告屋として「右脳と左脳の違いを広告表現として置き換えてみると、どのような位置づけになるのか」を大ざっぱに定義付けてみたのが、このポジショニングチャートである。
右脳型広告と左脳型広告の違いは次の通りである。
右脳型広告とは感性的表現で、ビジュアル面を重視した広告である。目的は、イメージの主張、イメージの持続性。特徴としては、商品に対する“同調と共感”を得ることであり、ターゲット特性は女性中心で、取り扱い商品の傾向としては、日用・実用品、低額品となる。
一方、左脳型広告とは言語的表現で、機能面を重視した広告である。目的は、セールスマンシップ、説得。特徴としては、“商品差別化”ポイントの認知や理解を促進することであり、ターゲット特性は男性中心で、取り扱い商品の傾向としては、こだわりの商品、趣味嗜好型商品、無形商品、高額品となる。
以上のようなことは、今までクリエイティブテストを重ねてきた結果、見えてきたことでもある。
では、実際の事例を交えてもう少し具体的に見ていきたいと思う。

右脳型広告 VS 左脳型広告

先ほどのチャートに、冒頭で触れた書道教室の集客チラシをポジショニングしてみたのが、以下の図である。

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大雑把ではあるが、チラシAは左脳型広告、チラシBは両脳型広告、チラシCは右脳型広告と位置づけた。
また、無脳型広告に位置づけたチラシは、実際には使用していない。このような訴求ポイントが明確になっていない無脳型広告だけは避けたいところだ。

ここで、大前提を述べておく。冒頭に記載したチラシの裏面は、レスポンス広告の原則となる要素、「お客さまの声」「オファー」「レスポンスデバイス」から構成されていて、効果が上がる流れをとっている。レスポンス広告の知識はとても重要だが、チラシ広告のように、ほんの一瞬しか(特に折り込みチラシの場合は、0.2秒で判断されると言われている)消費者の意識が向かない媒体の場合は、第一印象で感じ取る構造地図(レイアウト)を絶対に疎かにできない。
構造地図(レイアウト)が左脳型である文章中心のものでは、ターゲットが女性の場合には適さない。だからと言って、顧客ベネフィットも好奇心も満たしていない表現である、右脳型のイメージ中心の広告では消費者は反応しにくい。
そこでチラシ系広告の理想的な構造地図(レイアウト)とは何かと考えると、両脳型広告のパターンに行き着く。
男女別の反応の結果でも、参加や問い合わせがあった人を確認すると、左脳型のチラシAでは圧倒的に男性が多く、右脳型のチラシCではやや女性が多かった。そして、両脳型のチラシBではほぼ男女同数で絶対数も多かったのである。

美容室の広告をポジショニング

次にこのポジショニングチャートに、先程紹介した美容室のミニコミ誌広告をポジショニングしてみたのが、以下の図である。

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あくまでも大雑把にしかプロットできないが、AとBは、Cと比べると文字が多いので、ビジュアル面よりも機能面を優先した広告と言える。
さらに、AとBを比べるとAのほうが若干煽るコピーを使っていることから、幾分機能面が高い左脳型広告と言える。また一番反応のよかったCは、
ビジュアル面やデザインのバランス等を勘案して、チラシ系広告の理想的な特徴を持つ両脳型広告に入ると言えるだろう。
このケースの場合、ターゲットは女性なので、構造地図として、やはり文字が多すぎるのは避けたいところである。だからと言って、単純にモデルを起用するなどのイメージ広告では、反応を取れないだろう。
以上のことからも、両脳型広告であるCに軍配が上がったのではないかと推測できる。

両脳型広告とは?

では、この両脳型広告の特徴とはどのようなものなのだろうか?
簡単に整理してみたのが、以下である。

1.ビジュアルが目を引くように工夫されている
2. アイキャッチを見ただけで、そのほかの要素を見たくなる流れになっている
3.顧客ベネフィットを表現している
4.決して煽らない
5.全体のデザインのバランスがよい

書道教室のチラシは、男性と女性の両方をターゲットとしているので、特に両脳型広告に軍配が上がったのではないかと推測される。また、美容室の広告の場合も両脳型広告に近づけたほうが理想的だろう。

会社や商品に強力なブランド力がある場合は、右脳型広告としてビジュアルを全面に出してもそこそこ反応が取れるかもしれないが、そうでない場合、ある程度の左脳型広告的要素も必要となる。
例えば、商品・サービスの詳細情報や、商品・サービスの差別化ポイントの理解促進などがこれにあたる。
ただ、このポジショニングチャートを参考にする際に注意してほしいことは、両脳型広告が絶対ではないということ。業種、ターゲット(訴求対象)、商品特性、価格帯、広告媒体によってどのタイプの広告が有効なのか異なってくるので、よく検討した上での活用が必要である。

構造地図における右脳型と左脳型の使い分け

使い分けの例を挙げると、コンサルタントや士業の先生はもちろんのこと、
B to B(※1) の企業の場合は左脳型広告が望ましい。なぜなら、これらに該当する取引は、購買行動が合理的に行なわれる場合が多いからである。ただ、その場合であっても、目を引くための工夫が必要であることに変わりはない。

※1 B to B : Business to Businessの略で、会社組織間の取引関係を指す。例えば、事例のように、かつお節卸業が消費者に販売することはなく、そば店やラーメン店などに販売することは、B to Bのビジネスを行なっていると言える。B2Bと表されることもある。

次の事例をご覧いただきたい。

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この事例はそば店を顧客に持つ、かつお節卸業の会社が出したDMだ。ラーメン店を開拓する目的で、電話帳からまずは300件のリストをピックアップしてDMを送っている。その結果、なんとDMだけで15件の注文を受けることができ、その後の電話によるフォローで、さらに15件の注文を受けることができた。最終的にトータルで30件の注文を受けることができ、成約率は10%となった。通常のDMアプローチではあり得ないほどの高い成果を挙げたのである。
DMを送った先は見込み客や既存客ではなく、この会社のことをまったく知らない未認知客であるにもかかわらず、このような成果を挙げられたことは、特筆すべきことである。
封筒には、「業界初の本まぐろの厚削りをご紹介します」というように、封筒自体を開けやすいように工夫が施されている。内容については、2代目の社長が創業者である自分の父親を語りつつ会社のこだわりを伝える、ストーリー性のある挨拶文をはじめ、商品の訴求ポイントを絞ってわかりやすく伝えていること、そしてお客様の声を上手に活用するなど、随所にかなりの工夫を凝らしている。
とはいえ、このような高い反応が取れたのは、構造地図の観点から見て
もその理由がわかる。
この事例では、ターゲットであるキーマンはラーメン店の店主で、男性が圧倒的に多い。このようなターゲットが法人の場合は、コスト面や機能性などの論理的な解釈による判断が、購買の意志決定に重要な要素となってくる。
このDMの内容を見ればわかる通り、ビジュアル面を重視した右脳型ではなく左脳型広告によって、勝ちパターンを築いたと言えるだろう。
反対に、女性客をターゲットにした業種の場合は要注意である。なぜなら、多くの女性は長い文章を読むことを嫌うからだ。ましてや、0.2秒~1秒の間に判断される広告媒体の場合はなおさらである。
だが、いくらビジュアルが重要だからといって、派手なビジュアルを意味もなく使ったり、コンセプトと合わない色で目立たせたりすると逆効果になってしまう。
ダイレクトレスポンス広告を学んできた人にとっては、まだ納得できないことがあるかもしれないが、次のことを踏まえてほしい。もともとダイレクトレスポンス広告の表現は、歴史的に左脳寄りの傾向が強かった。なぜなら、対面せずに高額の商品を売るためには、コピー量の多い説得系の左脳訴求型にならざるを得なかったからである。こうした経緯があったので、ビジュアル面を軽視してしまう傾向が強くなったのも仕方がないことかもしれない。
だが、私が最も言いたいのは、いくらダイレクトレスポンス広告が有効な手法だからと言って「左脳型広告を安易に取り入れないでほしい」ということだ。
応用せずに、そのまま「店舗系の集客のチラシをまねる」「女性客がターゲットの業種で使う」「ブランド系商品であるのに取り入れてしまう」ということには注意が必要だ。
先ほどのチャートをただ「意識する」だけでも、広告表現に関して今まで「よくわからなかった霧の部分が晴れた人」が増えてきた。その人たちの中には、広告を自身で作成している人はもちろんのこと、印刷会社や広告代理店にほぼ丸投げしている人も含まれる。


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