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P-E fitの先行研究まとめ

本記事では私の修士論文の先行研究パートを一部改変し、P-E fit(Person-Environment fit)という組織行動理論における概念を紹介します。あまり実務家の間では馴染みのない概念だと思いますが、一定の研究がなされている分野です。

P-E fitとは何か

 P-E fitはEdwards & Shipp (2007) によって個人と人と環境の間の一致・類似性であると定義されています。Lewin (1951 猪股訳1956) は、行動は個人と環境の関数であり、 個人と環境は相互依存する、という命題を提示しており、この命題がP-E fit概念に大きな影響を与えたとされています(e.g., Sekiguchi, 2004 ; 竹内, 2009)。
 近年のP-E fitのレビュー論文としては松井 (2021) があります。 松井 (2021) はP-E fitの先行要因を個人要因として (1)キャリアイニシアチブ (2) ワークエンゲージメント (3) キャリア適応性、 環境要因として (1)上司のサポート (2)変革型リーダーシップ、 として整理した。加えてP-E fitの持つ主効果として (1) 組織コミットメント (2) 職務満足度 (3) 離職意向を挙げています。
 P-E fitの適合の測定方法は竹内 (2009) が整理し、(1) 客観的適合 (2) 認知的適合 (3) 主観的適合、 の3つに分類しています。客観的適合は、個人と環境との適合の測定に際し、価値観などが記された質問紙を利用して、個人の特徴は自分で価値観の重要度を回答し、組織(会社)や職務などの環境の状況は、その状況を良く理解している組織を代表する人もしくは組織メンバーによって、価値観の重要度を聞くものです。認知的適合は、価値観などが記述された質問項目に対して、自分がどの程度それらの項目を重要視しているかを回答すると同時に、環境(例えば組織など)がどの程度それらの項目を重要視しているのかを個人による自己認知に基づき回答するものです。最後に主観的適合は個人に対して環境と適合しているかどうかについて、リッカート尺度で直接的に尋ねるものです。

P-E fitの下位概念

 またEdwards & Shipp (2007)はP-E fitの下位概念として個人─組織適合 (P-O fit)、 個人─グループ適合 (P-G fit)、個人─職務適合 (P-J fit)、個人─職業適合 (P-V fit)の4種類を提示している。この中でも着目され、 研究蓄積が進んでいるのはP-J fitとP-O fitです (e.g., Sekiguchi, 2004 ; 竹内, 2009)。国内の研究においても例えば碇 (2016) は採用活動における人材要件の共有が選抜指標と採用成果に与える影響を分析しており、選抜指標としてP-J fitとP-O fitを用いています。
 P-J fitとP-O fitのそれぞれの定義を確認します。Sekiguchi (2004) はP-J fitを人の能力と仕事の要求、 あるいは人の欲求と仕事の属性との適合であると定義しています。Chatman (1989) はP-O fitを個人と組織の規範や価値観の一致であると定義しています。服部 (2016) はP-O fitと組織同一化・組織コミットメントとの類似性に言及しつつも、P-O fitの場合は個人と組織の関わりが長期に及ぶことが、必ずしも前提とならず、 入社当初さらには入社前の採用活動の時点で一致しているということがあり得ると指摘しました。P-J fitとP-O fitの区別を分析した研究にはLauver & Kristof-Brown (2001) があります。この研究では運送会社の従業員231名を対象に実証分析を行い、 P-J fitよりもP-O fitの方が転職意思の予測因子として優れていることを明らかにしています。Lauver & Kristof-Brown (2001) は分析結果を踏まえ、従業員が自分の仕事に満足していない場合、現在の組織で別の仕事を見つけることができる一方、自分の仕事に満足しているが組織には満足していない場合、別の組織で同様の仕事を探す可能性が高いと論じています。この考察は実務家にとっても納得度の高いものであるように感じます。

参考文献

  • Cable, D. M. & Judge, T.A. (1996). Person-organization fit, job choice decisions, and organizational entry. Organizational Behavior and Human  Decision Processes, 67, 294-311.

  • Chatman, J. (1989). Improving interactional organizational research: A model  of Person organization fit. Academy of Management Review, 14, 333-349.

  • Edwards, J. R. & Shipp A. J. (2007). The relationship between person-  environment fit and outcomes: An integrative theoretical framework. In C.Ostroff & A. Judge (Eds.), Perspectives on Organizational Fit,

  • Lawrence Erlbaum Associates, 209-258.

  • 服部泰宏 (2016). 「人材管理の基底としての個人-組織関係: 欧米における研  究の系譜と日本型マネジメントへの示唆」『横浜経営研究』37 (1), 85-109.

  • 碇邦生 (2016). 「人材要件の共有が選抜指標と採用成果に及ぼす影響」  『Works Review』11, 68-81.

  • Kristof-Brown, A. L. (2000). Perceived applicant fit: Distinguishing between  recruiters' perceptions of person-job and person-organization fit. Personnel  Psychology, 53, 643-671.

  • Lauver, K. J. & Kristof-Brown, A. L. (2001). Distinguishing between employee's perceptions of person-job and person-organization fit. Journal of Vocational Behavior, 59, 454-470.

  • Lewin, K. (1951). Field Theory in Social Science, Harper & Row (猪股佐登留訳 (1956)『社会科学における場の理論』誠信書房).

  • 松井希望 (2021). 「P-E fitの先行要因と効果に関する研究のレビュー」『商学研究科紀要』96, 25-46.

  • Sekiguchi, T. (2004). Person-organization fit and person-job fit in employee selection: A review of the literature. Osaka Keidai Ronshu, 54, 179-196.

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