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ゼロファイター世界を翔ける男 第6章 制服を着た自由人 


第6章 制服を着た自由人 


1・自衛隊割愛パイロット第1号


菅原は、こうして自衛隊割愛パイロットの第1号となった。
そのとき、自衛隊からの割愛パイロットは3人いた。鮎川という男もそのうちの一人だった。
全日空に入ってみると、副操縦士を含めてパイロットは100名近くいた。副操縦士のことをコ・パイロット、略してコ・パイという。ほとんどがどこかの民間航空から這い上がってきた連中だ。
自衛隊の飛行免許は、隊内のみ有効で、民間に出れば一から取らなければならない。しかし、菅原の目的であった免許を取るための技倆アップと、最新技術の習得は十分達成されていた。今度は、民間航空免許のためのトレーニングだ。

まず取得しなくてはならない資格は、事業用操縦士技能証明証、航空級無線従事者免許証、そして航空身体検査証明書の3つである。
操縦技能に関するものは操縦士技能証明証とよばれ、大きく分けて自家用、事業用、上級事業用、定期運送用の4つある。
事業用、上級事業用は事業としての写真撮影とか不定期運送の飛行機を操縦するもので、定期運送用はいわゆる定期便を飛ばすためのものである。おまけに定期便にような飛行機は機種限定である。
ただしコ・パイロット(副操縦士)は、例えばYS11のような旅客定期便でも、事業用にプラスして計器飛行証明と機種限定の資格があれば、定期運送用操縦士技能証明証がなくても務まる。

トレーニングに使う機は、イギリス製双発機のダブである。菅原が今まで飛ばしてきたのはジェット機も含めてすべて単発エンジン機であった。双発以上は多発と称するが、エンジンの数だけ、エンジン回転を上げたり下げたりするスロットルレバーや、ガソリンの混合比を調整するミックスチャーレバーがある。つまり複雑になるということだ。

双発機の場合、左右のエンジン回転を手動でピタリと合わせ、同調させる必要がある。同調させると、ウォーンときれいな音になる。それが同調しないと、ウォ~ン ウォ~ン と強弱のついた不調和音となる。
おまけに右のエンジンを止めれば、エンジンは左だけになるから、機は右に旋回を始め機首が下がる。それを真っ直ぐ飛ばすためには、機首が下がらないように操縦桿をわずかに引き、機を少し左に傾け、尾翼の方向蛇を使って微妙に力のバランスを取らなくてはならない。つまり、単発機から双発機に乗ると、少し勝手が違い、慣れが必要なのである。

訓練は東京の羽田で開始された。そのときは大きな問題もなくいったが、次ぎの訓練地、大阪が問題だった。飛行機は機械だから、慣れればいいのだが、問題はそこにいた訓練教員である。
見るからに人相の悪い伊藤竹林教員が、日々嫌味を言いながら、菅原や鮎川の訓練に当たった。デリカシーに欠けるのである。

菅原は持ち前の技倆と空中感覚の良さで、すでに多発機の操縦をすぐにものにしたが、同期の鮎川は少しもたついていた。菅原が地上にいた時に伊藤教員と鮎川が訓練飛行から降りてきた。デリカシーのない伊藤教員は鮎川に向かって言った。
「君は下手だな。空中における感覚が鈍いんじゃないか」
「なにしろ、今まで単発だったもので、ちょっと戸惑っています」。
伊藤教員が余りにもクソミソに鮎川をこなすものだから、かわいそうに思った菅原は、横から助け舟を出した。
「いゃ~伊藤さん、単発から双発に変れば、誰だってとまどいますよ」。
「いや、鮎川は単発に乗っても、双発に乗っても、どれに乗っても下手だよ」。
「まぁ、特別高度な技術を身に付けるのなら別ですが、一般的な飛行技術なら多少早いか遅いかの差だけでしょう」。
「君は理屈が多いぞ。黙ってワシの言う通りやっていればいいのだ」。
とばっちりが菅原の方にきた。

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