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グライダーで飛翔 その3 高い壁に感じた口頭試問

グライダーで30分以上滑空した証明の「Bバッジ」も貰った。それもあってか、フライトすることには不安はなかった。
だが、何故か口頭試問が高い壁のように感じた。

以前の飛行機の免許取得時、英語で口頭試問を受けたことがあるので、一応経験はある。飛行機の陸上単発のときも、陸上多発のときも、口頭試問は難なくパスした。

だが、まだグライダーに関する知識が浅いから、英語で難しいことを訊かれると、返答出来ないのではないか・・・という不安から、高い壁に感じたのであろう。

1週間のトレーニングも熟し、週末土曜日の試験日が近づいてきた。
木曜日には小さな不安だった。それが金曜日の午前中にはさらに大きな不安となった。
午後は、「さあ、どうしょうか?」と逡巡する始末。午後4時に遂に私は「受験せず」の結論を出した。

そして、インストラクターにその旨を伝えた。
すると「分かった。君が英語はネイティブではないから、その気持ちは分かる。でもだからと言って甘くすることはできない。安全にかかわることだからだ」と、言われた。
もっともな話だ。

やはり自分には無理なんだろう・・・と、肩を落としながら車を運転して、ホテルへ帰った。部屋のベッドに身体を放り出し、枕元にある電話機をとり、東京の妻に電話した。
「やっぱり無理だと思う。だから受験をしないことにした」と話すと、妻は間髪を入れずこう言った。
「あなた、そこへ何しに行ったの? 受験しにいったのでしょう! だったら0点でもいいから受けなさいよ。それで0点だったら諦めもつくでしょう!」

その言葉でハッと、我に返った。そうだ、その通りだ!
国政電話を切ってすぐに、グライダーポートの責任者に電話をしようとした。
時刻は午後4時40分だ。グライダーポートの営業時間は午後5時までだ。後20分しかない。だがこういう時に限って、なぜか何回トライしても電話が繋がらない。
時刻を刻む分針が、むなしく進んでいく。

もうダメだ。こんなことをしているより、行った方が早い!・・・ ここから車を飛ばせば15分で着く。
車に飛び乗った私は、時計を見ながら車を走らせた。頼む、間に合ってくれ・・・と祈りながら。

グライダーポートに着いたのは午後4時57分だった。間に合った!・・・と思いながら、事務所に駆け込んだ。幸いインストラクターは、そこに居た。

「すまん、前言をとり消す。明日受験させて欲しい!」と頼み込んだ。
一瞬の沈黙ののち、「分かった。明日試験を実施しましょう。午前10時に来てくれ」と返事してくれた。

翌日、試験は始まった。難関と思っていた口頭試問は3つ出されたが、実に簡単だった。
「このようになった時、貴方はどうするか」など、とても基本的な事ばかりだった。そしてその日は、英語も良く聞き取れた。

結果は3問全て正解。いわば100点である。時間はわずか10分ほどだった。
まさに日本の諺(ことわざ)にある「案ずるより産むが易し」である。
実は英語にも同じ諺「It is easier to give birth than to worry.」があったとは、その時は知らなかったが。

その後、グライダーに乗って、実技試験科目を次々とこなしていったが、何も難しいことはなく、全てを無事終了した。もちろん総合結果は「合格!」であった。

私は妻の一言で、救われた。
もし、あのまま受験せずに帰国したら、「自分には無理だったんだ」との負け犬の気持ちが、一生続いただろう。
でも、その一言で「やれば出来るんだ」との、小さな成功体験をすることができた。
この差は、大きい。

妻の一言は、「自分を信じてやりなさい」と言う、まさに「天の声」だと思った。

以下、次へ続く。
#グライダー #大空への挑戦 #スカイスポーツ

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