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日本唯一のトロリーバス、ついに終焉

■ 時代のうねり

富山県の北アルプスの下に、長野に抜けるトンネルがある。

立山直下の立山トンネルを、立山黒部貫光のトロリーバスが運行してきた。
そのさらに長野寄りの関電 (関西電力) トンネルを、関電のトロリーバスが運行してきた。

だが関電のトロリーバスは2019年に電気バスに変わった。その結果、トロリーバスの運行は立山黒部貫光のみとなっていた。

立山トンネルを、立山黒部慣光のトロリーバスが走っている。

立山連峰の主峰である雄山と大汝山。この山の向う側に黒四ダムがある。
日本海に面する道府県の最高峰である。
また、日本の3,000 m級の山としては最北端・最西端に位置する。
バスは、立山黒部慣光のトロリーバス。


その日本国内唯一の立山黒部貫光のトロリーバス運行が、1年後の2024年12月で、ついに終了の時を迎える。時代に合わせてのEVバスへの運行と変わる。運行の変遷は次のようになる。

① 1971年に開通した立山黒部アルペンルートのトンネルを走るバスは、当初はディーゼルエンジンバスだった。

② しかし観光客の増大による増便で、排気ガスが滞留し、換気装置を設置しても大した効果が見られなかった。それで1996年に、排気ガスを全く出さないトロリーバスに転換した。当時はまだ電気バス(EV)が無かったから、トロリーバスが唯一の選択肢だった。

③ そして2025年からEVバス(電気バス)による運行へと変わる。
理由は、30年走ってきたトロリーバスの保安部品の調達が難しくなったことや、デッドマン装置(後述)の搭載が難しいこと、そして逆にEVバスが普及し始めてきたことからだ。

同じようなバスが走るだけじゃないか・・・と思われるかもしれないが、これが違うのである。トロリーバスは鉄道車両なのである。

それで、車両のこと、免許のこと、立山のこと、などについて記してみたい。
免許のことは、北陸信越運輸支局や運輸省(本省)への取材を行い、著した。


■トロリーバスは、鉄道車両


トロリーバスは実は「鉄道車両」なのである。


トロリーバスは鉄道車両だから、自動車のナンバープレート(標板)はついていない。
写真は、2018年まで走っていた関電のトロリーバス

鉄道車両にはデッドマン装置の搭載が基本的に義務付けられている。だがトロリーバスにそのデッドマン装置搭載が難しいことも加わったのである。これもトロリーからEVバスに変える要因の一つになったのである。

デッドマン装置 (デッドマンそうち)とは、 機械 の 安全装置 の一つで、人間の操作者が 死亡 ・ 意識不明 などの事態に陥ったときや、不用意に運転位置を離れた際に自動的に動作(あるいは停止)して事故を防止する装置である。

時代とともに、環境に対する考え方や、安全装備などが変わっていく。時代変化のうねりを感じますね。

■トロリーバスが廃れた理由は?

トロリーバスのトロリーとは集電装置のことで、このバスは電車のパンタグラフと同じ方法で、上部から電気を供給して走るバスである。

トロリーバスは、東京都心でも昔は多く走っていた。だがトロリーバスは架線のあるところから左右に動けるのは70センチ位なので、あまり他の車をよけて走ることが出来ず、交通の邪魔になった。それで徐々に廃止となっていった。路面電車が廃止になったのと同じである。

一般道を走るトロリーバス

■トロリーバスの免許は?


さてこのトロリーバスは、鉄道車両なので運転するには電車の免許証が要る。

電車の免許。正式には「動力車操縦者運転免許証」。
黒塗りのこの免許証には風格があり、いかにもこれが免許証! と云う感じがする。
中は蛇腹折れの紙になっており、そこに運転出来る区分等が記されている。

この免許は国土交通省が発行するもので、「動力車操縦者運転免許証」である。
その中に甲種、乙種などに別れ、さらに甲種の中には電気機関車と電車、内燃機関、蒸気、などに別れている。

その免許に、無軌条電車運転免許と書かれていれば、トロリーバスを運転することが出来る。
軌条とはレールのことだが、トロリーバスはレールが無いところを走るから無軌条となる。

ところが、自動車が走る道路をこのバスが走る場合、もう一つ免許が必要になる。
それは、自動車の大型2種免許証だ。
つまり、自動車道を走る場合は、電車の無軌条免許と自動車の大型2種の、2つの免許が必要となるのである。

しかし、普通の自動車が走る自動車道を走らず、「専用道路」だけを走るなら、電車の免許だけでよい。立山トンネルは「専用道路」なので、無軌条電車運転免許だけで運転できる。


専用道路を走る立山黒部慣光のトロリーバス。

その昔、自動車の大型2種免許を持っている人は、電車の無軌条免許が試験免除で発行されていた。だから、一部の免許マニアの人達で、それを申請し取得した人は居た。

しかし現在は無理である。

自動車の大型2種免許は、個人でも取得できるが、無軌条の電車免許は、現在ではそれを運行している会社に入らないと、現実は取得できない。
なぜなら現在は自動車の大型2種所持者は試験科目の一部は免除になるが、トロリーバスを使ってのテストがあるからだ。

私は免許マニアではないが、もしマニアだったら強く欲しいと思う。その気持ちはよく分かる。

■ トロリーバスを運転したい夢を、実現した女性

私の親友に、立山黒部慣光(株)に関係の深い写真家柳木君がいる。彼の知り合いの小柄な女性は、当初、同社の経営する立山ホテルでホテル業務をしていた。

でも彼女は、日本に唯一のそのトロリーバスを運転したかった。ある日、柳木君が立山へ行くと、彼女はトロリーバスを運転していた。 「えっ、どうしたの」と訊くと「私はトロリーバスを運転したかったのよ」と答えた。

夢は叶うものですね。


#立山 #トロリーバス #EV #大型2種免許  


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