グライダーで飛翔 その1 私が鳥になったとき
グライダーで大空を飛翔するとき、そこは無音の世界。静かだ。
あるのはせいぜい風切り音くらいで、まさに鳥になって、大空を自由に飛んでいる感覚になる。
今回は、そんなグライダーで大空を飛翔したことを書いてみたい。
■グライダーを始めたきっかけは、アメリカ・ロスアンゼルスにある飛行学校ジョー・ライトアビエーションの校長、ジョーからの一言だった。
30歳前半で、陸上小型単発機の飛行免許を取った私は、空を飛ぶ面白みにだんだんのめり込んでいった。
その上位免許ともいえる陸上多発飛行機の免許を取るには、実技訓練と実技試験だけで、筆記試験は免除されることが分かった。飛行機をコントロール(操縦)することに自信のあった私は、多発免許にも挑戦し、ジョーの指導を受け、一発で合格した。
するとジョーは、「トシ、今度は何にチャレンジするかね。 グライダーや水上飛行機も筆記試験は免除されるから、関心があったらやってみるかね」と言った。
聴けば、知り合いがグライダー訓練をしているから、紹介してやるよ、と言う。
その一言から、半年後に再びアメリカに飛んで、グライダーで飛び始めた。
■そのグライダーポート(滑空場)は、ロスアンゼルスから車で2時間ほど東に行った、ドライリバー(枯れ上がった川)の一角を使ったもので、簡単に言えば、何もないただの河原。あるのは事務所に使っているトレーラーハウスがポツンと置いてあるだけの荒野である。
最初は指導者とともに、練習機のコックピットにタンデム(前後に)なって乗り、飛行機に曳航され、大空へ飛び上がる。
事前に曳航機のパイロットに、曳航してもらう高度と地点を打ち合わせておいてあるので、そのポイントに達すると、グライダー側で曳航索(ロープ)を切り離す。すると飛行機は斜め左45度に急降下する。そうしないと曳航索が飛行機の機体に絡んだりするからだ。
さあ、そうなると急に静かになり、鳥のように飛翔する。これがまた何とも言えず心地よい。まさに「滑空」しているのだが、ベテランが操縦すると上手に上昇気流を捕まえて、さらに高度を上げる。
数日練習飛行をすると、コツが掴めてきた。
指導員が教えるのは、高度な技術よりも、とにかく安全にグライダーポートに戻ってこれるような基本を教えるのである。
飛行機の免許を持っている人間が、グライダー免許を取るには約1周間と言われていた。あっという間に1周間が経ち、最終試験日月か近づいてきた。私は調子に乗って飛んではいるが、どうも合格する自信が湧いてこない。
試験は実地のみで筆記試験はないが、代わりに実技試験に付帯した口頭試問(オーラルチェック)がある。
もちろん現地人が英語で試問してくるので、それを聞き取り、即時に英語で答えなくはならない。
そこで考えた。一応グライダーで飛べるようにはなったが、それは見様見真似に近いもので、本当のところの理解まで至っていない。
それに私の英語力は大したことは無いから、口頭試問で試験員が行っている意味が分からないと、上空を飛ぶ試験も実施してもらえない。
ならばここはひとつ日本に帰って日本語のテキスト等でじっくりグライダーのことを勉強して、半年後にもう一度この地へ来て試験を受けた方が賢明ではないか・・・という結論に至った。
その旨をインストラクターに伝えて、私はグライダーポートを後にした。
この段階では、「人の2倍、つまり通常1週間かかるところを、倍の2週間もやれば、受かるだろう」と軽く考えていた。
だが、それは甘かった。
それはまた次回以降に。
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