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工場長が見た職場の在り方(1)



人のせいにしない


今回は日本で15年以上ものづくり製造業の会社で工場長を務めた私から見た工場長として管理していた職場のあり方について少し。
管理される側の立場にたっての記事は沢山見受けられるのだが その反対の立場にいた人間の意見は殆ど見受けられないので気が付いた事を勝手に書いていくので 読んで頂けたらありがとうございます。

尚 私は完全な現場人間であり
コンサルティング業等は一切関係ない人間であることは最初に確認しておく。
要するに、口で生きてきた人間では無いと言う事をわかって欲しい。


在職中私が毎日セルフチェックしていた事は2つしかなかった。
「人のせいにしない。」
は そのうちの1つ。
これは
人のせい
物のせい
その他のせい

全てを含んで、自分の責任を他に転嫁しなかったか?と言う事である。

帰りの車の中で毎日
「今日は人のせいにした事は無かったか?」
と1日を振り返るのが20年以上日課になっていた。

ものづくりの中小企業であったが、同業各社と比較しても受注する仕事の種類が非常に多かった。
自社製品も無い企業の為、同じ仕事の繰り返しよりも、毎日が新しい仕事と言った方が良い位 初めての仕事が多い会社だった。

そんな中で工場長をしていた訳だが、仕事の種類が多すぎる為 難易度の高い いわゆる「造り手を選ぶ
仕事に関しては、適性も考慮して、個別に指示をしていたが
その他の
誰でも出来る簡単な仕事
は、難易度の高い仕事の合間に作業者が手分けして選択して消化する様な感じだった。
要するに作業職人達は全ての仕事が上からの指示では無く、何割かは自分の判断で選んだ仕事をしていた事になる。

レーザー加工品t=1.2

自分のせいでは無い

よく問題が発生するのは
「誰でも出来る簡単な仕事」
の方で、簡単ゆえのヒューマンエラー いわゆる「うっかりミス」と言うのが1番多かった様に思う。

作業者の技能レベルが足りなかったり、作業環境に問題があったり、教育体制に不備があったりでは無く 非常に単純な「うっかりミス」が1番多かったのだ。

大抵がちょっとの不注意が原因の失敗なのだが この失敗をした時に言い訳を始めてしまう人達が存在する。
「時間的に厳しかったので慌てた」
「この設計図面がわかりにくい」
「次工程でミスを発見出来なかった方が問題」
「言われた通りにやった」
等々
本来は自分がミスをした事はわかっているのだから認めれば問題無いのだが(本人も自分のミスである事はわかっている事が大半)どうしてもそこに言い訳を挟んで自らの失敗の責任を取らない方向にしたい人が出て来てしまう。
自分が失敗した原因は
自分以外の他の原因
か存在すると主張するのだ。

それが真実であれば原因究明に対してはとても有効で 「良い対策」 を取るための役にたつだろう。

しかし現実は
自分以外の他の原因
で失敗したのでは無く
自分が原因の失敗
の方が圧倒的に多く、本人も実は認識している事の方が多い。
要するに
単なる言い訳
をしているだけなのだ。

更に 自分の失敗だと本気で思っていない場合があるのが 前出の
「言われた通りにやった」
と言う人達の中に含まれている。

言われた通りにやった
と言うのだが、それは製品の状態を確認せずに
言われた工程だけやった
になっている事に気が付いていなかったりする。
ものづくりの現場では作られる製品と言う相手が必ずあるので、作業中は製品の状態を常に確認して作業をすすめる事が要求される。

わかりやすく言えば、
「これにペンキで色を塗りなさい。」
と指示された時に
あちこち塗り残しがあっても
「完成!」
にしてしまって
「塗り残しがあるよ」
と指摘された時に
「言われた通りにやったけど」
と言ってしまう様な感じだ。

言ってる本人は
言われた通りにやった
つもりなのだが 大抵の場合
言われた事はやった」
けど
「言われた通りには出来ていなかった」
事が殆どだ。

その事を指摘すると
言われた通りにやっても 出来ないのは仕事を教えた人が悪い!」
と言い始める。 教えた人に指摘すると
「教えた時は言われた通りにやって出来ていた。今回出来なかったのは、1人でやった時に言われた通りにやっていないからだ!」
となってしまい、作業中に張り付いて見ていない限り、どちらも証明出来ない事態になってしまう。
「失敗しなくなるまで張り付いて教えるべき」
とか
「実技のテストをして技量を判断すればいい」
等々言われた事もあるが、この場合
1人でもキチンと教わった通りにやれば出来るのだが、1人でやらせた時に不注意或いはボーンヘッドで教わった通りの作業が出来ていなかった場合が殆どなので、仕事に対する姿勢から始まる 色々な原因を探らなければならない。そしてそんな失敗は初心者ばかりでなくベテランと言われる人達もやってしまう事があるのだ。

なぜなぜ分析の虚しさ


ものづくりの現場には
「なぜなぜ分析」
と言う不具合事例が発生した時に原因究明再発防止の為に行う分析表が存在する。

トヨタ自動車が始めたのかな?
私は中小協力会社を倉庫にする「トヨタ生産方式」が大嫌いな為、自動車関係のお客様の仕事でミスが出ると、この
「なぜなぜ分析表」
を提出しろ!と言われるので 心の中では
こんなの意味ねーけどな!
と思いながらも、下請けの悲しさで何回も作った経験がある。
「なぜなぜ分析」に関して意見すると
ものづくりはしないで「なぜなぜ分析」をする事が仕事になっている なぜなぜ信奉者の方達に怒られると思うが 現場の真実を
信じる信じないはあなた次第です!
と言う事で。


不具合に対して
「なぜ それが起きてしまったのか?」
と言う検証を積み重ねて原因を究明するシステムなのだが、実際に現場で作業に対して作るに当たって問題になる事は山積している。


この「なぜなぜ分析」
基本的に人間の性善説に基づいて考えられている事が問題なのだ。
何か作業で失敗してしまった時に
「作業指示のこの部分がわかりにくかった」
とか
「違う部品を入れても作業が出来てしまう構造になっていた」
とか もっともだと思える様な理由は皆さん書くのだが
本当の理由では無い事の方が多い。

「昨日嫌な事があって飲み過ぎて今日はボーっとしていた」
「この仕事嫌いだから来月辞めようと思っていた。今仕事に集中なんか出来ない。」
とかの 本音 があったとしても それは なぜなぜ分析 で登場する事は滅多に無い。

それはそうだろう。
「今日あいつに怒られたから面白くなくてとても仕事なんか集中できる状態じゃ無いゼ!」
「昨夜の合コンで気になる子が居て今日は頭が一杯だった。」
なんて本当の事でも書く訳はないのだ。

それでも そんな状態の人間がやっても失敗しない環境を作らなければいけない!と言われてしまうのだが、私が考えると 誰がどんな状態でやっても失敗しない仕事って
「それで仕事って言えるの?」
と言いたくなってしまう。

「外に出掛けるときは靴を履く事を忘れないための対策を立てなさい。」
みたいな事を いい大人がそれをするだけで給料をもらっている状況って正常なのかな?

極端な話「居眠りしてました」なんて原因が分析表に出て来る事は無い。
つまり皆さん「本当の事」は書かないで体裁を整える為に想像で作り出した「原因」を考え出して、言ってしまえば捏造してなぜなぜ分析表」を作ると言う仕事をしているのである。
本来の会社の目的を考えた時に仕事になんかにしてはいけない事(分析表を作ると言う作業)を仕事にしてしまって満足している様だ。

基本的に失敗に対して人的要素を考えずに、仕組みの欠陥とか、物の欠陥等の私に言わせれば
人のせいにする
人間のせいでは無い
事が大前提になっているシステムだと思う。

更に言えば 1年中同じ物を作り続ける会社にとっては有効な対策を策定する役にたつが、私の在籍していた会社の様に
「全ての仕事の中で75%が新規の仕事」
であった場合 対策そのものが飾り物になってしまう危険性も孕んでいると思う。

1回 自動車の会社から「なぜなぜ分析」の指導に2人の方が来社された事がある。
「ここ10年ずっと協力会社に なぜなぜ分析の指導をしている。」
様な方達だったが
「全ての仕事の中で75%が新規の仕事」
である弊社の状況を理解して頂いた途端に何も指示してくれなくなって困った事がある。
同じ物を作り続ける会社の経験しか無かったのだろう。
なぜなぜ分析表」を書く事を仕事にしてしまった人達には毎日初めての作業をする様な現場と言うのは理解出来なかった様だ。

「初めての仕事はミスが出て当たり前。作業を続けるうちにそのミスが起こらない様に構造改善して行くのが我々の仕事」
みたいな事を仰っしゃられて居たので
初めての仕事でもミスは出来ない」
職人の世界は想像の範疇を超えていた様だった。

続きます










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