【データ法】UK Automated Vehicle Act 2024 ー自動運転車両に関する包括的な法的枠組みー
こんにちは。
お読みいただきありがとうございます。
本日は、英国の自動運転車両についての法的枠組みを提供する法規であるる、Automated Vehchle Act 2024(以下「AV Act」といいます。)について紹介したいと思います。
実はAV Actは、2024年5月20日に国王の裁可を得た、出来立てほやほやの法律です。イギリス政府の説明によれば、世界で最も包括的な法的枠組みだそうです。
AV Actは制定されて間もない法律であるため、英語の文献でも詳しい解説がありません。というわけで、本日はかなり概略的なところに止まるものではありますが、皆さんにご紹介できればと思います。
なお、法律事務所のニューズレターとは異なり、分かりやすさを重視して、正確性を犠牲にしているところがありますので、ご了承ください。
Automated Vehicle Act 2024の概要
趣旨・目的
冒頭でも触れましたが、AV Actの目的は、自動運転車両に関する法的枠組みを提供することです。
どういう基準を満たした車両であれば自動運転車両として上市できるのか、自動運転車両が交通事故を起こしたときの責任が誰が負うのか、自動運転車両の利用を促進するために交通規則や公共交通機関の使用状況に関する情報をデジタル化する必要があるのではないか、など、自動運転車両の本格的な実用化に当たっては、様々な課題があります。
AV Actは、そのような諸問題についての英国の取り組みに関するフレームワークを定めるものです。
条文
国王裁可は5月末でしたが、もういつもサイトに掲載されていますね。
構成
AV Actは、次のような構成となっています。
以下では、AV Actのポイントと思われる事項を、いくつか絞ってみていきたいと思います。
自動運転車両の規制枠組み
自動運転車両の許可制
AV Actは、内閣大臣(Secretary of State)に対して、自動車を自動運転車両として使用することを認める権限を付与しており(s. 3)、自動運転車両が許可制となることを予定しています。
許可の要件については、内閣大臣が声明を作成することが求められており(s. 2)、詳しい内容は未確定であるものの、次のような観点から作成されなければならないとされています。
許可自動運転事業体
AV Actは、内閣大臣による自動運転車両の許可に際して、車両ごとに、その車両に対する許可自動運転事業体(authorised self-driving entity)として指定される者があることを確保することを求めています(s. 6)。
これにより、その車両の自動運転機能について責任を持つ者が特定されることとなります(s. 6(4)(a)参照)。ぼくが読んだ限り、AV Actには明記はされていませんが、政府のプレスリリースなどと併せ読むと、その車両の製造者が許可自動運転事業体となることを想定しているものと解されます。もっとも、車両のメカニックを製造する者と自動運転システムを製造する者が分かれることもあり得るところ、どのような整理になるのでしょうか。この辺りは、内閣大臣の声明が出てから確認することになりそうですね。
運転手不在車両運行者
内閣大臣は、自動運転システムにより車両が走行している際に、その運転ついて監督を行うオペレーターについての規定を設けることができます(s. 12 )。このオペレーターのことを、運転手不在車両運行者(no-user-in-charge operator)(*1) といい、AV Actは、これも許可制にすることを想定しています。
運転手不在車両運行者について許可制をとる場合には、次の目的が達成されるようにしなければなりません。
責任の取り合い
ここまで許可自動運転事業体と運転手不在車両運行者という2つの概念が出てきました。もし、自動運転車両が事故を起こしたときは、両者の責任はどのように定められるのでしょうか。
許可自動運転事業体が責任を持つのは「自動運転機能」が所定の基準を満たしていることであり、運転手不在車両運行者は、自動運転車両の走行の「監督」について責任を持ちます。
前者がシステムの話で、後者が個別具体的な事情の下での走行の話をしていると考えれば切り分けも出来るように思いますが、結局のところどうなんでしょう。実際は難しい場面もある気がします。
なお、AV Actは、許可自動運転事業体に対する民事制裁手続を定めています(ss. 34-37)。許可自動運転事業体は、、自動運転車両が交通法規に違反してその結果歩行者等に損害が生じたときは、民事制裁を受け得るものの、その違反が全面的に運転手不在車両運行者の責に帰するときは、免責されることが定められています(s. 35(3)など)。
つまり、原則として、自動運転システムを提供している許可自動運転事業体が責任を負うという建付けになっています。
自動運転車両の利用者の刑事責任
ここまで、自動運転車両の利用者の話は出てきていません。交通違反が起こった場合に、彼らの刑事責任はどうなるのでしょうか。
まず、AV Actは、使用者(user-in-charge)という定義を提示します(s. 46)。これは、(i)許可された自動運転車両がAV Actの定める運転手不在車両の機能を備えており、(ii)その機能が作動しており、かつ、(iii)個人が車両内にいて、車両を制御できる位置にいるが、実際に制御していないときの当該個人をいいます。
そして、s. 47(1)は、交通犯罪となる行為が、その個人が使用者であるときに行われたときは、当該個人は、その交通犯罪を犯したことにはならないと定めています(*3)。これには、いくつかの例外があり、s. 48がそれらを定めています。例えば、当該交通犯罪が、車両が駐車又はその他の方法で停止又は放置されている状態にあることに起因する場合などです(s. 48(3)(a))。
マーケティングの制限など
自動運転車両のみに利用が許される語句、記号、マークなど
AV Actは、許可を得た自動運転車両のみに使用が許される語句、記号、マークを指定することを内閣大臣に認めています(s. 78(1))。イギリスでは、日本の初心者マークのようなものは見たことが無いのですが、外から見て自動運転車両であるか否かが分かるようなマークを装着することを義務付けるような規則ができるかもしれません。
自動運転機能を誤認させる広告
また、許可を得ていない自動運転車両が、安全かつ合法的に自動運転できるかのように誤認させるような広告(厳密には、AV Actは"communication"と表現しています。)は、犯罪となります(s. 79)。
自動旅客サービス
ここでは詳しく述べませんが、自動運転機能を持った車両を用いた旅客サービスについて、定めが置かれています(Part 5)。
もっとも、該当する規定を見ても抽象的な定めが多く、今後、必要に応じて詳細な規定が詰められていくのではないかと思います。
交通規制情報のデジタル化
S. 93は、内閣大臣に対して、イングランド内の地域に関する交通規制について、交通局が所定の情報を提供することを義務付ける規定を定める権限を与えています。ウェールズの交通規制についても同様です。
交通規制情報とは、例えば、制限速度、道路の閉鎖、駐車場として使用されている場所(イギリスでは、家にガレージが無いなどの理由からか、許可された路上駐車がめちゃくちゃ多いです。)などの情報が含まれます。
これらをデジタル化し、事業者に提供することで、自動運転車両の安全な走行を支援しようとするのが趣旨です。
いつ施行されるのか?
Av Actの各部は、内閣大臣が制定する二次法で定める日から施行されます(s. 99(1))。現時点では、かかる二次法は制定されておらず、調べてみても、施行の予定日も特に公表されていません。
というわけで、施行日は、未定と言ってよいと思います。
全100条をざっと読みましたが、AV Act単体では、自動運転車両の実用に向けた法的枠組みは十分とは言えないように感じました。その意味で、まずは、二次法の制定を待つべきだろうと思います。
まとめ
いかがだったでしょうか。
本日は、英国の自動運転車両の法的枠組みを定めた(政府いわく、この種の法令の中では、世界でもっとも包括的な法律である)AV Actについてご紹介しました。
信頼できる解説もない中で書いたこともあり、条文の趣旨を捉え違えていたり、読み間違いもあるかもしれません。もし、何かご指摘等あれば、ご遠慮なくお願いします!
自動車産業は、日本が世界的に強みを持つ数少ない産業の一つであり、ぼくとしても無関心ではいられません。
引き続き動向に注目していきたいと思います。
このエントリーが皆さまの参考となっていれば嬉しいです。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
【注釈】
*1 ぼくが自動旅客サービスと訳した英語の原文は"automated passenger services"です。s. 82(2)の定義を読んで、このように訳しました。
*2 直訳すると「担当者不在運行者」となるかもしれませんが、意味を分かりやすくするために意訳しています。
*3 s. 47(2)は、使用者が交通犯罪を犯したことにならないもう一つの場面を規定していますが、少し細かいかなと思い、ここでは紹介していません。
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