【台風シーズン】【東京23区】江東区/防災ラジオ全戸に配布/リスナーの反響に可能性【コミュニティーFM】【無料公開】

※都政新報2020年9月1日号に掲載

 台風シーズンを前に、江東区は7月から防災ラジオの全戸配布を始めた。コミュニティーFM放送局が区内にある強みを生かして、区民に身近な災害情報を届けるねらいがある。一方、放送局は災害時にリスナーにきちんと情報を届けられるよう、日常の放送に工夫を凝らして発信を続けている。

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 「江東区には幸いなことにレインボータウンエフエムという放送局がありまして、全域にこれ(情報)が伝わる」。7月、江東区の山崎孝明区長は定例会見で、手のひらサイズの防災ラジオを見せながらこう話した。

 同区は7月から年末にかけて区内の約27万世帯へ防災ラジオの配布を始めている。充電機能と照明機能が付き、ハンドルを手で回すとスマートフォンなどの充電ができるのが特徴だ。

 昨年の台風19号では、テレビでは被害が大きかった多摩川の映像が流された反面、被害が少なかった地元の荒川の情報はほとんどなかった。山崎区長は「我々からすると荒川の情報を知りたかった」と話し、身近な情報を発信するコミュニティーラジオに着目した。

 また、昨年の台風15号では千葉県を中心に大規模停電が数日間続いたが、ラジオは停電時でも情報が届く媒体であり、全戸配布を決めた。

 江東区にあるレインボータウンエフエムは17年前に開局した民間のコミュニティーFM放送局で、区と隣接区の一部を放送区域とし、江東区以外では墨田区とも災害時の協力体制を結んでいる。大規模台風や地震などの災害時には、スポンサー枠の放送を中断して24時間災害情報を流すことになっている。

 「そもそもラジオの歴史は防災だったんです」と話すのは、レインボータウンエフエム放送の木下和則局長。1923年に関東大震災が発生し、情報伝達メディアとしてのラジオの必要性が認識されて、ラジオ放送の開局が急がれたという。

 とはいえ、災害情報ばかりを流すわけではなく、平時は江東区政や街の情報以外に「Go To キャンペーン」や新型コロナなどタイムリーな情報や音楽を盛りだくさんに届けて、リスナーを飽きさせないように工夫を凝らしている。

 「キノさん」として、ラジオパーソナリティーの顔も持つ木下局長は「いざという時にラジオをつけてもらえるようにするには、普段から聴いてもらうことが大切」と力を込める。 

 江東区とは災害時の協力体制のほかに、行政情報の番組制作で委託契約を結び、週に一度、広報広聴課の職員と打ち合わせを行っている。コロナ禍で打ち合わせは電話とメールになったが、それまでは対面で行っていた。

 緊急事態宣言中は区施設の休館や業務縮小などの区政情報のほか、区内の店舗に対してテイクアウトやデリバリーを行う補助金を区が新設したことや、区民にはテイクアウト店舗の関連情報を伝えるなど、地元密着ならではの媒体としても存在感を発揮している。

 昨年の台風19号では、同区が亀戸・大島・砂町の城東地区に避難勧告を出したことや、避難所を開設したことを発信し続けると、リスナーから「キノさん、〇〇通りが冠水しています」などの情報がメールで寄せられ、それを発信するとさらにリスナーから「雨の音が大きくなった」などの情報が寄せられたという。「リスナーさんがスタッフの一人になってくれるんです」と木下局長は振り返る。

 防災ラジオの全戸配布は、区からの情報発信だけでなく、区民からの情報をキャッチできる可能性も秘めているのかもしれない─。

 その日のために、キノさんたちラジオパーソナリティーは、今日もリスナーと心を込めて会話のキャッチボールを続けている。