【主張】SDGsを教える教育現場の矛盾/お笑いジャーナリスト たかまつなな【無料公開】

※都政新報2020年9月18日号に掲載

 今、地球が悲鳴を上げています。異常気象により災害が増え、世界から戦争は無くならず、貧富の差が広がり、海をプラスチックで汚しています。これらを解決し、「持続可能な社会を作ろう」というのがSDGs(持続可能な開発目標)の考え方です。SDGsは、あらゆる世界の課題に対して、皆で解決しようと17個の目標を作り、2015年に国連で採択しました。
 企業もSDGsをおろそかにすると、投資家からの評価が低くなったり、顧客からの信頼が下がったりするので、力を入れるところが増えています。一方、教育機関でも、小学校の教科書にSDGsが登場したり、中学校では副教材が配られたりと積極的に行われています。入試にSDGsが出題されることも出てきました。学校の先生も、どうSDGsを教えるか熱心に研究されています。

◆行動にどうつなげるか

 私たち(株)笑下村塾は、SDGsの出張授業や企業研修の教材を作り、全国に「笑って学ぶ SDGs」という講座を届けています。オリジナルのカードゲーム「SDGsババ抜きカードゲーム」は、ババ抜きを通して世界の課題やSDGsを体感できるゲームです。カードゲームの販売をインターネット上で行うことで、私たちが出張授業に行かなくても、全国の学校に届けられるようにしています。あまりにもSDGsが日本では普及していないからこそ、色んな手段を尽くしています=(1)参照。
 SDGsの大切なことは、「変える」というです。SDGsはあくまで、目標。つまり、目標は達成しないといけません。目標をどう達成するか、一人ひとりが考え、実行しなければなりません。私が書いた『お笑い芸人と学ぶ13歳からのSDGs』(くもん出版)=(2)参照=では、今日からできるSDGs100のアクションを紹介しています。いかに行動につなげるかを大切にしています。

◆持続可能でない教育現場

 では、教育現場ではどのようにSDGsを教えているのでしょうか。海洋プラスチックの問題を考えたり、リサイクルをどうやって進めるか実践したりするなど、エコに関するものが多いようです。これらも、消費者の意識を高める上ではもちろん大事なことです。しかしながら、教育現場が持続可能ではないという大きな矛盾を抱えています。
 それは、教育現場の先生の働き方に無理があるからです。小学校の先生の3割、中学校の先生の6割が過労死ラインを超えて働いています。これは、言い換えると、いつ死んでもおかしくない先生が小学校には3割、中学校には6割もいるということです。私は3年近く先生の過労問題を取材しました。そこで見えてきたのは、先生はいくら働いても残業代がもらえないという仕組みのため、管理者側に人件費というコスト意識がなく、子どものためといって際限なく仕事が増えてしまうのです。東京都では、2017年度の採用倍率が7・1倍だったのに、21年度の採用倍率は3・9倍に低下しました。
 あろうことが、それに対して「ブラックだと言われすぎだから、やりがいのある仕事だと訴えましょう」というのが、文科省のオープンな会議で委員の一人が平然と言ってしまうぐらい世間と認識がずれているのです。
 自分の部下が過労死ラインを超えている、だから自分の会社の人気が落ちた。そんな時に一番すべきことは、部下を守るために残業時間を削ることです。仕事の量を減らすなり、新しい人を採用したり、アウトソーシングできることはしたりなどということです。まるで、ブラック企業です。
 そして、過労死されたご遺族の方にお話をお伺いすると、地方紙に「美談」として取り上げられたり、生徒のことを思って労災を申請しにくいという声が聞こえ、実態が分かりにくくなっています。それでも、厚労省が出している『過労死白書』の中には、過労死が多い職業として教員が入っています。
 SDGsの中には、目標8に「働きがいも経済成長も」があります。SDGsを教える教育現場、教える先生の働き方に持続可能性がない。そんな矛盾を抱えています。私の会社は、18歳選挙権が導入された年に、主権者をお笑い芸人が楽しく伝える出張授業を展開するために作りました。現場に行って感じるのは、先生が忙しすぎて授業や子どもたちと向き合う時間がなくなり、本末転倒になっているということです。主権者教育も、SDGsも、英語やプログラミングなど教える内容が増えても、やることが減ることはない。先生が増えることがない。どんどん現場の先生に押し付けられていきます。

◆東京都からモデル発信を

 今回、私は自民党の総裁選挙を取材して痛感することがあります。それは、教育に関する質問がほぼ皆無だということです。世間が関心がないのでしょうか。票が取れないのでしょうか。今、子どもがいる世帯数自体が非常に少ないです。18歳未満の子どもがいる世帯は5分の1ほど。教育への優先順位は下がってしまうのも仕方ないのかもしれません。
 東京都は今、副知事にヤフーの元社長の宮坂学さんを据えています。ぜひIT化を図り、教育現場の生産性を上げるモデルを作ってほしいです。そして、それでも難しいから、やはり先生の残業代をつけようと国に働きかけることを願っています。

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 たかまつ・なな=1993年神奈川県生まれ。慶応大学大学院政策メディア研究科、東京大学大学院情報学環教育部修了。18歳選挙権導入を機に(株)笑下村塾を設立。政治を面白く伝えるため、全国の学校へ出張授業「笑える!政治教育ショー」を展開中。著書に『政治の絵本―学校で教えてくれない選挙の話』(弘文堂)など。

(1)笑下村塾オンラインストア

(2)『お笑い芸人と学ぶ13歳からのSDGs』