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Yard Act来日公演の感想:強度のあるユーモア

”welcome to the future, the paranoia fits ya"

Yard Act「Dream Job」より

 Yard Act来日公演の初日、大阪公演に行きました。フジで見てからずっと楽しみだったワンマン。ポストパンクを基調とした鋭利なギターとダンサブルなリズム隊に、表情の豊かなボーカルのスポークン・ワード。独特なリズムと繰り返されるリフが客をグッと掴んでフロアの温度も上昇していきました。熱狂にまみれました。

会場には「ストップ・メイキング・センス」のTシャツを着た方もいました。トーキング・ヘッズを連想せずにはいられないダンサブルなポストパンクかつ社会批評に富んだリリックを重ねるバンドをリアルタイムで体験できている喜びがありました。「The Trench Coat Museum」の終盤なんて、ホントにヤバかったです。脳が揺れる。ギター・Sammy Robinsonが「顔で弾く」タイプのギタリストで、対照的にベースのRyan Needhamはサングラスをかけて表情を変えずに飄々と弾き続けるアンバランスな雰囲気もつかみどころが無く、ずっと楽しかったです。

 一方、曲中で描かれる世界に着目すると、金に目がくらんであらぬ行動をしてしまい虚無感に襲われたり、「未来へようこそ、パラノイアはあなたに似合う」とサビで歌ったりと、非常に皮肉と示唆に富んでいます。そうしたフレーズを狂ったようなテンションと様々なポーズで歌い上げるボーカル・James Smithの姿は、ユーモアに溢れています。

すごい表情


 冒頭のフレーズが歌われる「Dream Job」は、1stアルバムが評価されて夢の音楽業界に入り込んだバンドが業界の姿に幻滅する様を歌ったものです。(私は大学4年ですが、就職してから聴くとまた違った印象を受けると思います)。脱力とノスタルジックなディスコ感、マイケル・ジャクソンの「スリラー」をオマージュしたMV。ライブでも披露されましたが、Jamesは酩酊状態のように踊っており、疲弊に疲弊を重ねていく逃げ場のない現在の社会と重ねてしまいました(←飛躍しすぎ?)。


 EP『Dark Days』のライナーノーツ(解説:村田タケル)によると、Jamesは「笑いに変換できなければ、物事を完全に理解しているとは言えない」と言っています。ここで言われるユーモアの重要性は、よく言われがちな「とにかく笑っとけばいい」という即物的な概念とはちょっと違う気がしていて、一度その事物を受け止めて考慮した上で笑うという姿勢は効能が長く、強さを獲得していくプロセスでもあると思います。

 肉体を貫く強度の高いリズムこそリアルそのものであり、最後はユーモアで刺す。いまの私が希求していたものなんじゃないかと思いました。踊らざるを得ないというか、身体の軸がバンドに引っ張られていく感覚がたまらなかったです。またぜひ来日を。来年のアルバムもとても楽しみにしています。


(シワの多いシャツにスラックスというスタンダードな服装で、直球のファストファッションのようでこれ皮肉?となりました。)



《参考》
・Yard Act『Dark Days』ライナーノーツ(解説:村田タケル、対訳:松村瑠璃)
・ヤード・アクト、2ndアルバムから新曲「Dream Job」のMV公開
https://www.billboard-japan.com/d_news/detail/131185/2
・DREAM JOB – YARD ACT / ヤード・アクト 和訳https://radictionary.site/dream-job-yard-act-japanese-translation/


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