日本のレコード産業界はどこへ行くつもりなのか (2004年6月)ネット時評
海の向こうでは音楽の有料配信サービスがビッグ・ビジネスに成長しつつある。日本でも同様のサービスが始まっているのだが、どうも順調とは言えないようだ。一方、6月3日には音楽CDの輸入規制を可能とする著作権法改正案が衆議院本会議で賛成多数で可決され、安い音楽CDの入手が危ぶまれている。おまけに、最近の音楽CDはコピー管理技術を施したものが増えており、消費者の不満は増すばかりである。いったい、日本のレコード産業界は音楽ビジネスをどうするつもりなのだろう。
iTuneは大ヒットしている
アップル・コンピュータは2004年4月、1年前にサービスを開始した音楽の有料ダウンロードサービス「iTune Music Store」で販売した音楽が、7000万曲を超えたと発表した。有料でダウンロードされる曲数は日が経つにつれて増加しており、5月の初めには1週間で330万曲に達している。このペースでいけば、2年目は2億曲に達するかもしれない。
音楽コンテンツを有料で販売しているサイトはiTune Music Storeだけではない。国際レコード産業連盟(IFPI)の2004年5月27日付のプレスリリースによれば、消費者が音楽をダウンロードできる合法的なサイトは、全世界で100を超えている。1年前はおよそ20サイトであったので、この1年間で5倍に増加したことになる。ダウンロードできる音楽の種類も増えており、1年前は平均して20万曲程度であったが、主なサイトは現在50万曲以上を提供している。
もちろん、日本にも音楽をダウンロードできる合法的な有料サイトはある。たとえば、国内主要レーベル各社が共同出資して設立した株式会社レーベルゲートが「Mora」というサービスを提供しているし、2004年5月20日には、オーディオ機器メーカー8社が共同出資したエニーミュージック株式会社が、オーディオ機器向けの有料ダウンロードサービスを開始している。しかし、日本では音楽のダウンロードサービスが花開く気配すら見えない。
ここにも日米格差が
なぜ、日本では音楽の有料ダウンロードサービスがビジネスとして成長しないのだろう。レーベルゲートのMoraとアップル・コンピュータのiTune Music Storeを比べてみよう。
まず、サービス価格についてみると、Moraは1曲158円から368円であり、実際には210円以上のものが多い。一方のiTune Music Storeの場合には1曲が99セント(110円で換算して109円)である。価格差は2倍程度であるが、Moraの場合には利用登録手数料として315円、利用料として毎月315円が必要となる。ヘビーユーザーでないと、Moraのサービスはかなり割高になってしまう。
次に品揃えを見ると、iTune Music Storeの場合、ダウンロード可能な曲数は4月末時点で70万曲以上ある。これに対して、Moraは「すべての音楽を網羅(モーラ)するという願い」が込められているにもかかわらず、5月時点で3万8000曲しかない。もし、ヘビーユーザーを対象としているのであれば、これでは不十分だろう。
角をためて牛を殺す
こうした音楽の有料ダウンロードサービスに関する日米のギャップに加え、気になることは、コピー管理技術をつかった音楽CDが増えていることと、音楽CDの輸入規制を可能とする著作権法の一部改正である。この二つの問題については5月14日のネット時評で仲俣さんが文化という視点から論じておられるが、ビジネス的に見ても間違った方向に進んでいるように見える。
(社)日本レコード協会は「『流通促進』あるいは『消費者の利便性』の名のもとに著作権者の権利を弱めることがあってはならない。それは角をためて牛を殺すことになる」(「日本のレコード産業からの提言」平成14年4月10日)と主張しているが、角をためて牛を殺そうとしているのは、実はレコード産業界自身ではないのか。
著作権を保護することは重要なことであるが、そのために使い勝手が犠牲になったり、消費者に余計な負担をかけることがあってはならない。にもかかわらず、著作権保護という錦の御旗を立てて、自分たちの目先の利益にこだわり、インターネット時代の音楽ビジネスのあり方を見誤っている。そもそも、消費者に支持されないサービスや産業に明るい未来があるわけがない。
1曲あたりの価格を100円以下にして、楽曲の種類を増やし、緩やかな著作権管理技術を用いて使いやすいサービスを提供すれば、音楽の有料ダウンロードサービスは一気に爆発するだろう。音楽CDの価格にしても、日本は明らかに高すぎる。安く手軽に好きな音楽が楽しめるようになれば、法を犯して不正コピーされた音楽を入手しようという消費者は減少し、音楽市場はむしろ拡大するのではないだろうか。
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