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NCニュースの読み方 #26 「ITを使いこなす組織能力を高め、積極的なIT投資を」 (2006年5月8日)

 5月1日、経済産業省から『これだけは知っておきたいIT経営』と『IT経営気づき事例集』が公表された。これは中堅・中小企業経営者向けに作成された「IT経営」の手引き書で、「IT経営応援隊」のWebサイトから無償でダウンロードできる(http://www.itouentai.jp/kyoukasyo/)。

 「IT経営」とは、情報技術(IT)を積極的に活用した経営のこと。今年1月にIT戦略本部が公表した「IT新改革戦略」の中でも「IT経営の確立による企業の競争力強化」が重点課題として取り上げられている。今回公開された二つの資料は、ITを経営にどう活かせばよいかに悩んでいたり、IT投資をしたけれど期待した効果が得られずに困っている経営者のために作成された。IT経営の必要性、経営戦略とIT経営企画の立案、IT投資/導入/活用の留意点などで構成されている。

 経済産業省は最近、IT経営の普及に大変熱心だ。「経営にとって情報システムは欠かせない存在である」ものの、「システムには戦略的な価値などなく、合理化にしか威力を発揮しない」、「ITで先行するのではなく、他社に追随すれば十分。リスクをとったり、巨額の投資をするのは無謀」という風潮を懸念しているようにみえる。

 ITの活用が生産性向上の鍵であり、今後の日本企業の国際競争力強化に必須の要素であることに異論を唱える人はいないだろう。が、現実をみれば、IT投資がなぜ業績向上につながらないケースが少なくない。

 かつて米国においても「膨大なIT投資をしても生産性の上昇が統計的に確認できない」と指摘されたことがあった。しかし現在では、その「生産性パラドックス」は解消されたという見方が一般的である。この数年の研究によれば、IT投資が生産性向上に結びつくには、業務プロセスの再設計やユーザー教育など企業会計上で資産として扱われないインタジブル・アセットへの投資が重要であることが明らかになっている。また、ITを活かす組織能力(ITケイパビリティ)が備わっていなければIT投資の効果が十分発揮されないことも明確になりつつある。つまり、単にITを導入するのではなく、社員の教育・訓練、業務プロセスの見直し、組織の改革によってITを使いこなして初めて、IT投資の効果が現れるのである。

 身近な例で言えば、ワープロソフトや表計算ソフトも同じだ。これらのソフトを導入しただけでは生産性は上がらない。教育や訓練なしで使えば、効率は逆に低下する可能すらある。ワープロや表計算ソフトですら、そのソフトが持つ機能を使いこなさなければ、その効果を得ることはできない。それは組織構造や企業文化にも共通する課題である。 

出典:大和総研推計

 マクロ的にみれば、日本のIT投資は米国に大きく見劣りする(図)。「導入する」、「利用する」というレベルを超えて「使いこなす」というレベルに達しないと、IT投資は効果を発揮しない。ITを使いこなす組織能力を高め、積極的なIT投資を行うことが求められているのではないだろうか。

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