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BCN 視点 #54 「パスワード時代の終わりの始まり」 (2014年12月25日)

 12月3日、カナダ・トロントのベンチャー企業Bionymが社名をNymiに変更し、開発者向けにNymi Band Discovery Kitの販売を始めた。もしかすると、これがID、パスワードの時代の終焉の始まりになるかもしれない。

 Nymi Bandは心電図波形によって利用者本人を認識し、BLE(Bluetooth Low Energy)によって他のデバイスに利用者識別コードなどを送る機能をもつ腕輪型デバイスである。つまり、BLEがオンになっている(アクティベートされた)状態のNymi Bandを手首につけていれば、BLEが受信できる装置に本人であることを伝えることができる。

 例えば、自動車のスマートエントリー用の電子キーとしても利用できるだろうし、自宅の玄関の電子キーにすることもできる。Nymi Bandを装着していれば、パソコンを立ち上げた時にIDとパスワードを入力する必要もなくなるし、オンライン・バンキングやオンライン・トレードの本人認証にも利用可能だ。交通カードや電子マネーに利用されている非接触ICカードと同じ通信方式を組み込めば、交通機関の乗車券や、店舗やネットショップでの決済手段としても利用できる可能性がある。

 Nymi Bandの最大の特徴は、心電図波形によって利用者を識別しているため、手首から外してしまうと機能が停止するという点にある。心電図波形は個人によって異なり、他人が手首につけても機能をオンにすることはできない。つまり、本人が装着していなければ電子キーとしては機能しないので、盗難に遭っても、なりすましの心配はほとんどない。ちなみに、心拍数ではなく、心電図波形の特徴によって識別しているので、運動や興奮によって心拍が多少速くなっていても識別に問題はないそうだ。

 おそらく、これからNymi Bandに類似したウェアラブル・デバイスがいくつも実用化されるに違いない。コアとなるのは、生体認証によって近距離通信機能をアクティベートさせ、それを使って利用者識別をする仕組みである。例えば、iPhone 6に組み込まれているような小型の指紋認証デバイスを使った本人認証用ウェアラブル・デバイスも考えられる。どんなデバイスがデファクトになるかは予測できないが、パスワードを何種類も覚える必要のある時代が終焉を迎える日が近いのは確かだ。

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