見出し画像

e-Japan戦略を評価する年がやってきた (2004年9月)ネット時評

 2001年1月に政府が公表したe-Japan戦略は「我が国が5年以内に世界最先端のIT国家になることを目指す」と宣言している。つまり目標とする年は今年だ。すでに、政府部内には評価に向けた動きがいくつもある。心配なのは、こうした動きが、評価のための評価になりはしないかという点である。評価は明日につながるものでなければいけない。
 

当初の目標の達成度

 e-Japan戦略は、4つの重点政策分野を挙げて、それぞれの分野で達成すべき目標を定めている。たとえば「超高速ネットワークインフラ整備及び競争政策」では、「5年以内に超高速アクセス(目安として30~100Mbps)が可能な世界最高水準のインターネット網の整備を促進することにより、必要とするすべての国民がこれを低廉な料金で利用できるようにする。(少なくとも3000万世帯が高速インターネット網に、また1000万世帯が超高速インターネットアクセス網に常時接続可能な環境を整備することを目指す)」ことが目標の一つになっている。

 周知のとおり、この「利用環境整備」の目標は2年程度であっさりと達成してしまった。そこで政府は2003年7月にe-Japan戦略Ⅱを発表し、「IT基盤整備」から「IT利活用」へと政策の重点を移すことを宣言した。具体的には、医療、食、生活、中小企業金融、知、就労・労働、行政サービスの7つ分野を選び、民を主役に官が支援する形でIT利活用を促進するというビジョンである。

 しかし、当初のe-Japan戦略には、ネットワークインフラの整備だけでなく、「電子政府の実現」や「人材育成の強化」が重点分野として挙げられており、それぞれ「ペーパーレス化のための業務改革」や「IT関連の修士、博士号取得者の増加」などが目標として設定されている。これらの目標の達成度はどうなっているのだろう。ネットワークインフラの整備目標だけを取り上げて、環境は整ったから次は利活用だというシナリオは分かりやすいが、どうもこの時点から騙されているような気がしないでもない。
 

たとえば電子政府は実現したのか

 たとえば、世界最先端の電子政府は実現したのだろうか。

 昨年、韓国電子政府・IT産業調査団に参加し、調達庁やソウル特別市の江南区を訪問した。この時の話は昨年、このネット時評に書いたので、それを参照していただきたいが、e-Japan戦略とほぼ同時期にスタートした韓国の電子政府関係のプロジェクトの成果は目を見張るものがある。

 たとえば、江南区では、住民登録謄本や土地台帳、課税証明書などの証明書類はインターネットにつながったパソコンで簡単に入手できるし、自動車登録も納税も自宅にいながら済ませることができる。企業は調達庁の電子調達システムに登録するだけで、地方政府も含め、ほとんど全ての政府調達に関する情報を入手し、入札に参加できる。

 情報化の経済効果も大きい。江南区の区役所職員数は、情報化事業推進以前の1600人から1300人に減少しており、こうした人件費の削減効果を含め年間の行政コスト削減効果は年間数十億円にも達している。調達庁では、電子調達システムの導入によって職員1人当たりの調達案件の処理件数が280件から489件へと75%上昇し、時間と移動に要するコストの削減効果を含めると3000億円のコスト削減効果があったと試算している。

 情報化の目的は、サービスの向上とコスト削減である。電子申請の仕組みをいくら整えても、サービス向上とコスト削減が実現できない情報投資は税金の無駄遣いでしかない。
 電子政府の構築を評価するなら、こうした視点が必要である。
 

評価のための評価は無意味である

 既に評価のための取組みがいくつもスタートしている。たとえばIT戦略推進本部には2003年に「評価専門調査会」が設けられているし、経済産業省は1億円をかけて「IT利用環境基盤の国際比較に関する調査」を実施している(http://www.meti.go.jp/information/data/c41110bj.html)。内閣官房IT担当室も2005年度に「世界最先端のIT国家の達成度に関する調査」を実施する(http://www8.cao.go.jp/chotatu/3_k02_20050217.html)。

 IT戦略推進本部の評価専門調査会が公表しているいくつかの中間報告を読むと、「IT利用環境指標」と「成果指標」によって達成度を評価しようとしていることがわかる。確かに指標を作成して世界の国や地域と比較することは悪いことではない。しかし、指標つくりに大きなコストと労力をかける必要はないだろう。日本に都合のよい指標を作成して、世界最先端のIT国家になったことを証明しても、世界の笑いものになるだけである。

 その手の指標はすでに数多く存在しているし、日本の情報化がおよそどのレベルにあるかは周知の事実である。そもそも、IT国家の達成度を単純に比較することは、国の広さや経済規模、制度や文化、国民性の違いなどを考えると意味があるのがどうか疑問である。

 評価は必要であるが、目標を達成したというお手盛りの評価でも困るし、役にたたない指標つくりのための評価にはして欲しくない。評価のための評価ではなく、明日につながる評価になることを願っている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?