不動産IDで「おとり広告」が無くなる、というデタラメ

不動産IDについては、日経新聞を含め、いい加減な話しが出回っているようで、間違いなどを一々指摘していたらキリが無くなって文章が破綻してしまったので、今回は論点をひとつだけ取り上げて詳しく書いてみたいと思います。

国交省は、今回の不動産IDの仕様策定にあたり、不動産IDの「ユースケース・メリット」として「不動産情報サイトにおける物件のおとり広告排除」を挙げています

日経新聞も図表で「成約済みなのに掲載を続ける『おとり物件』を自動的に見つけてサイトから排除できる」と報道しています

この時点で既に、不動産IDの「ユースケース」として「諸々の前提条件がすべて実現したと仮定して、こういうケースで使えると想定してる」ぐらいの話しが、いつの間にか、不動産IDで「実現できる」という夢のような話しにすり替わってしまっていますね。

メディアマジック。

そんなこんなで、大元はどこの誰が言い出した事なのか知りませんが、ブログやSNS等、巷では「不動産IDで物件検索サイトに掲載された成約済みの『おとり物件』を自動的に判別して排除できる」という言説が広まっています

では実際の所、これ、本当なのでしょうか

ワタクシゴトを言わせていただきますと、自分は不動産屋で宅建士をやっていた頃、物件検索サイトへ物件登録や更新を毎日行っていたので、アットホーム、ホームズ、スーモ、レインズ、といったサイトは嫌になるほど使い倒しています。同時に、プログラミングはかれこれ20年以上前からやっていまして、かつて自分で物件検索システムも作ったことがあります。

なので、不動産屋の営業実務も分かるし、物件検索サイトの開発も分かるし、実際に代表的な物件検索サイトは全部ヘビーに使っていた、という立場だったりします。

で、結論から言うと、不動産IDで「物件検索サイトに掲載された成約済みの『おとり広告』を自動的に判別して排除できる」なんてありえません

なぜかって、実際のところ「成約済み」かどうかってのは、貸主・売主といった契約の当事者に直接確認するか、契約に関わった不動産会社に確認しないと分かり得ないことだから

つまり、不動産IDで物件情報が一意に識別できるようになったからといって、物件検索サイト側でその物件が「成約済み」かどうかなんて、どうやったら自動で分かるんだ、って話しです。

不動産IDだけでそんな事ができる方法があるのであれば、是非教えて頂きたい。

因みに、不動産会社は物件検索サイトにわざわざ「成約情報」「成約通知」なんて送りません(ただの広告サイトなんだから)。申し込みが入ったら即「取り下げ」を行うだけです。でないと「おとり広告」になりかねないから。審査が通って契約が済めばそのまま、そうでなかったら再度「公開」手続きをするだけ。物件検索サイト側では最初から最後まで、その物件が「成約」したのかどうかはわかりようがありません。

物件検索サイト側では物件が実際に「成約済み」かどうかは判別しようがないのですから、それが成約済みの「おとり広告」かどうかも判別出来ないということです。

なので、不動産IDで成約済みの『おとり広告』を自動的に判別して排除、なんてウソ、というのが結論なのですが、複数の条件が重なったくごく限定的な時にのみ、IDを利用して怪しいのをあぶり出す事は出来ます。

具体的にどういう条件が重なった場合にIDを使って怪しい物件を炙り出せるか、というと、元付会社が某物件サイトに取引態様を媒介で物件広告を出し、仲介会社が2次広告として同じ物件検索サイトに同じ物件(IDで同じと分かる)を取引態様を仲介で出していた場合、元付が「取り下げ」した段階で、仲介会社の方の物件広告は2次広告ですし媒介を結んでいないので、仲介会社の出している物件広告は、空室確認のタイミングが遅れていて掲載されたままになっている物件である可能性が高い、と判定出来ます。

同様に複数の会社が同じ物件検索サイトに同じ物件(IDで同じと分かる)をを媒介で出していて、その中の一社が「取り下げ」をした場合、「ひょっとしたら成約?」レベルで検知できるかもしれませんが、あくまで可能性がある、というだけ。たまたまその会社の媒介契約が切れた(切られたw)だけ、という可能性もありますから。

つまり、これ、あくまでも空室確認のタイミングが遅れていて掲載されたままになっている物件である可能性が高い、というだけですから、物件検索サイト側としては、広告出稿元に「確認をお願いします」とか「成約済みだったら取り下げてください」と管理画面にメッセージを表示したり、連絡を入れるくらいしか出来ません(疑わしきは罰せず)。

しかも、数々の前提条件が重なった極一部のケースでのみ、の話しですからね。元付が客付けと同じ検索サイトに同じ物件の広告を出していなければ、分かりようがありません。

というわけで、「おとり広告」の排除自体、簡単な話しではないのですよ。ましてや不動産IDで自動判定排除なんて無理。「銀の弾丸」なんてものは存在しません

物件検索サイトのホームズが運営するコラムが不動産IDについて取り上げているので見てみると、「取引が終わった物件広告がすぐに排除される仕組みも整えば、消費者の誤認を未然に防げることも期待される」としていますね。日経のように「不動産IDで実現する」みたいなことは書いていません。つまり、なんらかの「仕組みが整えば」という前提がある。それは不動産IDではありません。他の何らかの仕組みが別途必要という事。

徹底的に取り締まるというのであれば、何らかのペナルティを設けて、物件検索サイト側がアクティブに取り締まりでも行わないと無理です。ところが検索サイト側としては大量に物件広告を出してくれる「お得意様」に対しては腰が引けるし、物件広告費で利益を得ているわけですから、広告を減らすような事には及び腰なわけです。

それよりか、別のアプローチで改善を計るべきです。不動産会社の営業なりが一々広告取り下げ云々をしたり、空き確認の電話をしょっちゅうしなければならない現状を解決すべきなのです。営業の負担を減らせばミスも減るし、情報の鮮度も質も上がるし、悪意の無い「掲載したまま」物件も減るでしょう。

具体的には、不動産会社の自社業務システムと物件検索サイトがAPIで繋がれば、自動的に申し込みが入った物件はAPI経由で物件検索サイトへの広告を取り下げ、といった処理も自動で行えますし、やりようによっては他社への空室確認(成約済みの確認)も自動化できます。そうすれば意図しないで掲載したままになってしまったというミスをそもそも無くすことが出来ます。

何度も言いますが、こういったシステム連携には、APIが必要なのです。で、APIでやるには当然IDが必要、ってなだけ

さらに言えば、レインズでの成約情報使うという「仕組み」について考えてみましょう。レインズには成約通知を出さなければならない決まりがあります。ですから、レインズが何らかのAPIを実装して、外部の物件検索サイトからのAPI経由の問い合わせに「そのIDの物件は成約済みか否か」を自動応答出来るようにすれば、物件検索サイト側で対処できるようになるでしょう。しかしながら、レインズに登録されるのは現状、売買のみのそれも専任の物件のみ。ごく一部でしかない。すべての物件を登録するよう業法を改正しないと変わりません。つまり、おとり物件は完全に無くすことは出来ません。

こういった現時点では非現実的な仮定の上に仮定を重ねていった上での「不動産IDでおとり広告排除」なんていうのは、空想であってフィクションの世界です。つまりデタラメ。

しかも、そもそもの話しレインズでAPIで物件の成約済み情報を取れるようにするくらいなら、APIでレインズから物件情報そのものを取れるようにすべきです。そしたら不動産会社はレインズに物件情報を登録するだけで済むようになり、非常に楽になります。ちょうど、米国ではMLSにさえ登録すれば済む、という感じであるのと同様に。(ま現状のレインズの体制でそういったことがまともに出来るとは到底思えませんが)

こういったシステムを事を実現するために、まずは標準化が必要だとずっと昔から提案しているのです。>「不動産情報デジタル標準化の覚書

余談ですが、私がやっていた頃は、露骨な「おとり広告」というより、他社の物件情報を許可もなく勝手に転載して検索サイトへ物件広告を出しまくるという(つまり無断掲載)どうしようもなく酷い仲介会社がありましてですね・・・そっちのほうが問題でした。アパマンショップって言うんですけどね。客付けしてくるならまだましですが、空き確認してこないから掲載されたままになって(結果「おとり広告」)、しかも無断でお客さんに消臭殺菌とかいう名目で契約費に上乗せしてボッタクっていたりしていて、いい加減目に余るのである時電話でそこの店長呼び出して説教食らわしたら、後日そこの会社の社長が詫びに来ましたけど。こういう酷い会社はカタカナ名のフランチャイズの仲介会社に多く、それも全体からしたら極一部で、地元密着系の駅前不動産会社みたいなのは信用第一なのでそこまで酷いのは見たことがないです。

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