霞ヶ関文学研究4 観光立国推進基本計画
久しぶりにnoteを更新します。
とあるイベントでnoteプロデューサーの徳力基彦さんの講演を間近で聞く機会があり「PVは気にするな、まずメモから始めよ」というブロガー界の神の一人の声を聴き、目が覚めました。
PVとか、反響気にして、レスポンスが少ない事にやる気を失っていた自分に気づくとともに、会場で私のnote読んでますという方とも偶然出会い、キーボードを叩く気力を取り戻しました。
さて今回取り上げたいのは「観光立国推進基本計画」です。
https://www.mlit.go.jp/common/001299664.pdf
私はたまたまですが親が公務員だったこともあり、仕様書を読みとき公共事業をずっとやってきたので、世間一般の人よりはこうした文章を読むのが得意です。
実際ホンマにそうなのかはわからないですけど、私がどうやって読んでいるかを解説していき、一人でも多く行政文章の読み方がわかる人が増えて、仕様書嫌いな人が減ったらいいなぁというのが霞ヶ関文学研究のテーマです。
私がよく仕事で出会う観光関係の民間事業者はこのあたりの序文をすっ飛ばして、「予算額の増減」と「自社に関係のある予算の実例」などを読んでいくというのが営業マンとしての読み方ですが、丁寧に背景理解をしていくところが文学の楽しみ方です。
とはいえ「楽しめません。」という方が多いと思います。
それは何故かというと、こうした文章が「誰から誰に書かれたものか」という点が取っ付きにくいからにほかなりません。
「あなたのことよく知る友人・家族から、あなたに向けられたチャット」と
「あなたの属するクラスターに向けて描かれた小説」と
「あなたのことなんてこれっぽっちもターゲットだとも思わずに
2000年後の君へ、じゃないですけど半永久的にこの文章が保存され
後世の人が見た時に、何故このような判断や予算割をしたのか
誤解が生じずらいように正確に書かれた文章」では、文章に対する向き合い方が違うのです。
なので文章を読むときは
・国から国民へ(こんな感じの考えで税金使うよ)
・観光庁から財務省および他の省庁へ(観光に投資した方が国の発展になるから予算頂戴ね)
という2つの視点が大事で、
観光を支援している会社の営業マンのために書かれたものでも、観光に携わる事業者の経営を良くするためにも、地方がどうすればよくなるかについて書かれたものではないというところがポイントです。
では、この序文を私なりに解釈していこうと思います。
⇒もはや人口増えて若い世代が多かった昭和じゃないから、地域を良くしていこうと思ったら地域外の人と交流して関係を増やさないとヤバいよ。
⇒旅行者を惹きつける4条件が日本にはそろってるし、伝染病が起きて一時的に止まったとしても、すぐに旅行者は復活するやん。
⇒伝染病があろうとなかろうと、観光で交流人口増やすのは大事やし、成長する上では大事な分野やし、地域活性化させるならこれしかなくね?
観光にどっぷりつかっている人からすると前提やんってことをあえて言葉にする理由は、私は反論する人がいることを見越して先にそれを制している機能もあるわけです。
(反論1)関係人口・交流人口とかいらなくね?
(反論1に対する反論)人口増えてる時代ならいいかも知らんけど今はそうじゃないよね
(反論2)コロナ的なものがまた来たら観光ダメになるやん。
(反論2に対する反論)いやいや観光の魅力は流行病とは関係なく存在するし、交流人口の大事さはコロナ関係ないやん
(提案)観光の他に「日本経済を伸ばせて」しかも「地域の交流人口を増やす方法がありますか?(だから予算ちょうだいね)
いいですか、こうしてこの文章を作った人(人達)は誰に対してコミュニケーションをしているのか想像をしながら読むと趣深さがグッと増してきます。
①旅のもたらす~の文は厚労省とか文科省を納得してもらう雰囲気がするし②観光を通じて住民が自らの~このあたりは総務省とか、全国の知事が好きそうな文章
③については、外務省や防衛省が好きそうなお言葉が並んでいるわけです。
つまり観光庁が勝手に観光だけのことで予算くれと吠えているわけではなく、霞ヶ関の各省庁が目指していることに合致していることだよと言っているわけです。
純粋に協力を求めているともいえるし、序文の2ブロック目の重要度でこれを言われると、この計画に反対をする省庁がいると自己矛盾を表明することにもなってしまうので上手なディフェンスになっているわけです。
これは私の父が文科省の役人と一緒に予算取りをする仕事をしてた時のことを聞いたお話しです。限られた予算で、国債を刷りまくることもできるけど、防衛省も厚労省も外務省もみんな予算が欲しい。そんな中でどうやって文科省に予算を引き寄せるのか?父は「初等教育にコストをかけるのが一番投資対効果が高いと案を出していたそうです。小学校で道徳教育が充実すれば犯罪が減り警官・裁判・刑務所のコストを抑えれるし、識字率が上がれば高等教育の進学率も増えて経済が伸びるし、外国と関わる人が増えれば公的な外交コストも減ると。その全ての起点は初等教育にあるので予算をちゃんとあてましょう」
どうしても行政機関の人たちは立場やメカニズムを自ら語ることは少なく、意見に対して反論せずに黙って受け流すところがあるように見える。私の周りで民間で観光している人でも「国、県、市」に対して文句言っている人と出会うことも少なくはないです。
私自身も「もっとこうしたら」と思う場面とはよく出くわすけど観光行政に関わる人間が「観光予算」を「観光以外の分野の方と調整をしている」そのプロセスはもうちょっと関心やリスペクトを持ってもいいのではないかと思います。
せてもうちょっと読み進めましょうか
この最後から3番目のブロックでは、国内旅行は大きな成長はないけど消費の8割を占めているから引き続き大事だよね。と国内旅行を持ち上げつつ
ここから急に世界のお話になります。サステナブルな旅行に関心があると
ただ最近とある知事のパーティに参加する機会があり、その県の名士と呼ばれてそうな方たちが1000人くらい集まる会がありました。周りを見渡すと比率的に言うと男性8-9割、女性1-2割。年齢層で行くと50代以上が普通で60代70代な集まりでした。
それ自体は地方でそうした政治家の集まりがあったらそんな感じになること自体は良いんですけど、みんな胸にやたらSDGsのバッジをつけてるわけですよ。それを見てたら思わず「ダイバーシティという観点で言うとこのパーティに集まっている人は偏りがあるように見えるけど、SDGs推進派のあなたはどうお考えですか?」と聞きたくなってしまいました。
ただそう思う一方で彼らは自分たちの会社や業界や地域を守るために行動をしていて、自分の世代や下の世代が時間と機会をつくりそういう場に出てないので、結果としてそうした偏りができているのかもしれないとも思う。
2019年まではなんかガンガン旅行者呼ぶぜよ、というようなトーンだったように記憶しているが、ここにきてコロナで観光業を離れてしまった人の影響が大きくのしかかっている。
ここにわざわざ書いているということは「観光産業の収益性が低く」「適正な対価を収受しておらず」「収益が地域外に流出して」「従業員の待遇が悪い」と見えるような現実があるので、ここを改善していって、観光産業に人材を惹きつけて行かないと。観光地は持続可能なありえないよ。と言いたいんですかね
サステナブルとかいうとペットボトル減らそうよとか、ストローを紙にしましたとかそっちに気がいきがちですが、安値で販売して、労働者のお給料が安いとサステナブルではないっすよって論調はあまりきかない。
安定的な財源確保といったところにまで言及があるのが興味深い。
ここでちゃんと「単に環境にやさしい旅行形態ではなく」と明記されているところが面白ろい。つまりそんなレベルで満足すんじゃねーよというメッセージなんだと思う。
このあたりでシビックプライド的なことも書かれているわけです。なので「○○って何もないじゃん」とか「某観光魅力度ランキングの下位だからいかない」的なマウント取りたくなる気持ちもわからんでもないけど、観光ってそういうものではないと思う。
と質の向上を重視した観光にしていこうよという流れで序文は終わります。
これ全部で78Pあるので全ては書けないし、本文を読むのも大変なのでこのあたりで終わろうと思います。
最後に、たまにセミナーで偉い方が綺麗なスライドで今の日本の観光の現状や、観光に取り組む意義を語っている方をお見掛けします。そして会場では「いや~そういうことだったんだ」という反応となり、そのたびに世の中の人は観光庁が出している資料なんてあんま読まんのだよなと痛感します。
まあ分量多いし、文字ばっかだし、ワクワクもしないですからね。
ただ観光の仕事をし出して8年ですが、着実に前には進んでいるし世界のトレンドや現実の課題と向き合っている計画にはなってます。
とはいえ現実で観光の公共事業していると「計画で描かれていることとのギャップ」とも多々出会います。最近、観光分野の超偉い方とお話をする機会がありました。私たちがセミナーで理想的な事例としていく海外のDMOのようなキラキラした状態になるには10年・20年単位の時間が必要というのがその方の予測です。
そしてキラキラしているように見える海外のDMOも日々財源を確保したり旅行者と向き合うために奮闘しているようで、自動でほっといても客が来て金が回るわけではないようです。この話は別の方もおっしゃってました。
現実を見渡してみると、まだまだなところもあれば、良くできてるところや確実に前進してる所もあるわけです。
それでも何かに許せなくなったり腹が立つのは、本人が真剣に仕事をしてるからそれができてない相手に腹が立ってみたり、嫌なことがあってから物事が嫌に見えてしまっていたり、ホンマに人間関係ガチャに恵まれてなかったり、エネルギーがまだまだ有り余っていたり、受け手の希望にも憤りにもただのビジネスチャンスにも見え方は様々です。
コントロール可能な事にエネルギーを注ぐ方が苛立ちは少ない。受け手の解釈は自由なので上手く楽しく解釈してくことが行政との仕事を続ける上で大事なポイント。
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