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霞ヶ関文学研究4 観光立国推進基本計画

久しぶりにnoteを更新します。
とあるイベントでnoteプロデューサーの徳力基彦さんの講演を間近で聞く機会があり「PVは気にするな、まずメモから始めよ」というブロガー界の神の一人の声を聴き、目が覚めました。

PVとか、反響気にして、レスポンスが少ない事にやる気を失っていた自分に気づくとともに、会場で私のnote読んでますという方とも偶然出会い、キーボードを叩く気力を取り戻しました。

さて今回取り上げたいのは「観光立国推進基本計画」です。

https://www.mlit.go.jp/common/001299664.pdf

私はたまたまですが親が公務員だったこともあり、仕様書を読みとき公共事業をずっとやってきたので、世間一般の人よりはこうした文章を読むのが得意です。

実際ホンマにそうなのかはわからないですけど、私がどうやって読んでいるかを解説していき、一人でも多く行政文章の読み方がわかる人が増えて、仕様書嫌いな人が減ったらいいなぁというのが霞ヶ関文学研究のテーマです。

観光立国推進基本計画
~持続可能な形での観光立国の復活に向けて~
第1 観光立国の実現に関する施策についての基本的な方針

1.はじめに 人口が減り、少子高齢化が進む中、交流人口・関係人口の拡大は地域の活力の維持・発展に不可欠である。我が国には、国内外の観光旅行者を魅了する素晴らしい 「自然、気候、文化、食」が揃っており、新型コロナウイルス感染症(以下「コロナ」という。)によってもこれらの魅力は失われていない。ウィズコロナ・ポストコ ロナにおいても、観光を通じた国内外との交流人口の拡大の重要性に変わりはなく、 観光は今後とも成長戦略の柱、地域活性化の切り札である。

2023年3月31日に閣議決定した「観光立国推進基本計画」

私がよく仕事で出会う観光関係の民間事業者はこのあたりの序文をすっ飛ばして、「予算額の増減」と「自社に関係のある予算の実例」などを読んでいくというのが営業マンとしての読み方ですが、丁寧に背景理解をしていくところが文学の楽しみ方です。

とはいえ「楽しめません。」という方が多いと思います。

それは何故かというと、こうした文章が「誰から誰に書かれたものか」という点が取っ付きにくいからにほかなりません。

「あなたのことよく知る友人・家族から、あなたに向けられたチャット」
「あなたの属するクラスターに向けて描かれた小説」
「あなたのことなんてこれっぽっちもターゲットだとも思わずに
 2000年後の君へ、じゃないですけど半永久的にこの文章が保存され
 後世の人が見た時に、何故このような判断や予算割をしたのか
 誤解が生じずらいように正確に書かれた文章」では、文章に対する向き合い方が違うのです。

なので文章を読むときは
・国から国民へ(こんな感じの考えで税金使うよ)
・観光庁から財務省および他の省庁へ(観光に投資した方が国の発展になるから予算頂戴ね)
という2つの視点が大事で、
観光を支援している会社の営業マンのために書かれたものでも、観光に携わる事業者の経営を良くするためにも、地方がどうすればよくなるかについて書かれたものではないというところがポイントです。

では、この序文を私なりに解釈していこうと思います。

はじめに 人口が減り、少子高齢化が進む中、交流人口・関係人口の拡大は地域の活力の維持・発展に不可欠である。

⇒もはや人口増えて若い世代が多かった昭和じゃないから、地域を良くしていこうと思ったら地域外の人と交流して関係を増やさないとヤバいよ。

我が国には、国内外の観光旅行者を魅了する素晴らしい 「自然、気候、文化、食」が揃っており、新型コロナウイルス感染症(以下「コロナ」という。)によってもこれらの魅力は失われていない。

⇒旅行者を惹きつける4条件が日本にはそろってるし、伝染病が起きて一時的に止まったとしても、すぐに旅行者は復活するやん。

ウィズコロナ・ポストコロナにおいても、観光を通じた国内外との交流人口の拡大の重要性に変わりはなく、 観光は今後とも成長戦略の柱、地域活性化の切り札である。

⇒伝染病があろうとなかろうと、観光で交流人口増やすのは大事やし、成長する上では大事な分野やし、地域活性化させるならこれしかなくね?

観光にどっぷりつかっている人からすると前提やんってことをあえて言葉にする理由は、私は反論する人がいることを見越して先にそれを制している機能もあるわけです。

(反論1)関係人口・交流人口とかいらなくね?
(反論1に対する反論)人口増えてる時代ならいいかも知らんけど今はそうじゃないよね

(反論2)コロナ的なものがまた来たら観光ダメになるやん。
(反論2に対する反論)いやいや観光の魅力は流行病とは関係なく存在するし、交流人口の大事さはコロナ関係ないやん

(提案)観光の他に「日本経済を伸ばせて」しかも「地域の交流人口を増やす方法がありますか?(だから予算ちょうだいね)

いいですか、こうしてこの文章を作った人(人達)は誰に対してコミュニケーションをしているのか想像をしながら読むと趣深さがグッと増してきます。

①旅のもたらす感動と満足感は、誰もが豊かな人生を生きるための活力を生み出す。 観光は学習・社会貢献・地域交流の機会でもあり、観光により地域の魅力を発見し、 楽しみ、家族の絆を育むことは、ワーク・ライフ・バランスの充実にもつながる。
②観光を通じて住民が自らの地域に誇りと愛着を感じることは、活力に満ちた地域社会の持続可能な発展を可能にする。
③加えて、観光を通じて異文化を尊重し、世界の人々と絆を深めることは、草の根から外交や安全保障を支え、国際社会の自由、平和、繁栄の基盤を築く国際相互理解を増進する。 こうした観光の多面的な意義は、コロナや気候変動をはじめ、広い意味での持続 可能性が地球規模で課題となる中でも変わることはなく、国際情勢の複雑化が顕著な今、双方向での人的国際交流は、むしろその重要さを増している。

2023年3月31日に閣議決定した「観光立国推進基本計画」

①旅のもたらす~の文は厚労省とか文科省を納得してもらう雰囲気がするし②観光を通じて住民が自らの~このあたりは総務省とか、全国の知事が好きそうな文章
③については、外務省や防衛省が好きそうなお言葉が並んでいるわけです。

つまり観光庁が勝手に観光だけのことで予算くれと吠えているわけではなく、霞ヶ関の各省庁が目指していることに合致していることだよと言っているわけです。

純粋に協力を求めているともいえるし、序文の2ブロック目の重要度でこれを言われると、この計画に反対をする省庁がいると自己矛盾を表明することにもなってしまうので上手なディフェンスになっているわけです。

これは私の父が文科省の役人と一緒に予算取りをする仕事をしてた時のことを聞いたお話しです。限られた予算で、国債を刷りまくることもできるけど、防衛省も厚労省も外務省もみんな予算が欲しい。そんな中でどうやって文科省に予算を引き寄せるのか?父は「初等教育にコストをかけるのが一番投資対効果が高いと案を出していたそうです。小学校で道徳教育が充実すれば犯罪が減り警官・裁判・刑務所のコストを抑えれるし、識字率が上がれば高等教育の進学率も増えて経済が伸びるし、外国と関わる人が増えれば公的な外交コストも減ると。その全ての起点は初等教育にあるので予算をちゃんとあてましょう」

どうしても行政機関の人たちは立場やメカニズムを自ら語ることは少なく、意見に対して反論せずに黙って受け流すところがあるように見える。私の周りで民間で観光している人でも「国、県、市」に対して文句言っている人と出会うことも少なくはないです。

私自身も「もっとこうしたら」と思う場面とはよく出くわすけど観光行政に関わる人間が「観光予算」を「観光以外の分野の方と調整をしている」そのプロセスはもうちょっと関心やリスペクトを持ってもいいのではないかと思います。

せてもうちょっと読み進めましょうか

国内旅行については、市場に大きな成長が見られない中でも、観光ビジョンの令和2年目標を令和元年までにほぼ達成した。今後も我が国の人口減少に影響を受け ることになるが、コロナ前に旅行消費全体の約8割を占め、コロナによる影響もイ ンバウンドより小さかった点で、今後とも観光政策の重要な柱であることが再認識 された。

2023年3月31日に閣議決定した「観光立国推進基本計画」

この最後から3番目のブロックでは、国内旅行は大きな成長はないけど消費の8割を占めているから引き続き大事だよね。と国内旅行を持ち上げつつ

コロナ禍を経た旅行需要の変化に目を転じると、世界の旅行者の約71%がサステナブルな旅行に関心があるとのデータがあり、世界的に「持続可能な観光」への関心が高まっている。
自然・アクティビティに対する需要も高まりを見せ、世界のア ドベンチャーツーリズム市場は、平成 30 年の 62 兆円から令和8年には 173 兆円ま で大きく成長するとの予測がある。観光旅行者をより長期に滞在させ、地方へ分散させることのできるこうした市場を巡り、コロナ禍からの回復が早かった各国は熾烈な誘致競争を繰り広げており、この世界的潮流を捉える必要がある。

2023年3月31日に閣議決定した「観光立国推進基本計画

ここから急に世界のお話になります。サステナブルな旅行に関心があると
ただ最近とある知事のパーティに参加する機会があり、その県の名士と呼ばれてそうな方たちが1000人くらい集まる会がありました。周りを見渡すと比率的に言うと男性8-9割、女性1-2割。年齢層で行くと50代以上が普通で60代70代な集まりでした。

それ自体は地方でそうした政治家の集まりがあったらそんな感じになること自体は良いんですけど、みんな胸にやたらSDGsのバッジをつけてるわけですよ。それを見てたら思わず「ダイバーシティという観点で言うとこのパーティに集まっている人は偏りがあるように見えるけど、SDGs推進派のあなたはどうお考えですか?」と聞きたくなってしまいました。

ただそう思う一方で彼らは自分たちの会社や業界や地域を守るために行動をしていて、自分の世代や下の世代が時間と機会をつくりそういう場に出てないので、結果としてそうした偏りができているのかもしれないとも思う。

国内の観光地では、コロナ禍を通じ、特に地方部に疲弊が見られた。地方の経済や雇用の担い手となるべき観光産業では、デジタル化の遅れに象徴される生産性の低さや人材不足といった積年の構造的課題が、コロナ禍で一層顕在化した。宿泊業 は、労働生産性が全産業平均の約4割、宿泊業・飲食サービス業の欠員率は全産業 平均の約2倍となっており、旅行業とともに、新たな発展モデルの構築が喫緊の課題となっている。

2023年3月31日に閣議決定した「観光立国推進基本計画

2019年まではなんかガンガン旅行者呼ぶぜよ、というようなトーンだったように記憶しているが、ここにきてコロナで観光業を離れてしまった人の影響が大きくのしかかっている。

令和元年の旅行・観光消費は、生産波及効果 55.8 兆円、雇用誘発効果 456 万人に上った。観光産業は裾野が極めて広く、我が国の基幹産業へと成長するポテンシャルを有する総合産業である。観光産業の付加価値を示す観光 GDP は、同年において我が国 GDPの約2%であり、今後、官民一体となって観光産業の付加価値を更に高め、「稼げる」産業へと変革を進めていく必要がある。観光産業が収益力を高め、適正な対価を収受して収益を地域内で循環させ、従事者の待遇改善も図ることが、 観光産業に人材を惹きつけ、観光地の持続可能な発展を実現するために必要である。

2023年3月31日に閣議決定した「観光立国推進基本計画」

ここにわざわざ書いているということは「観光産業の収益性が低く」「適正な対価を収受しておらず」「収益が地域外に流出して」「従業員の待遇が悪い」と見えるような現実があるので、ここを改善していって、観光産業に人材を惹きつけて行かないと。観光地は持続可能なありえないよ。と言いたいんですかね

サステナブルとかいうとペットボトル減らそうよとか、ストローを紙にしましたとかそっちに気がいきがちですが、安値で販売して、労働者のお給料が安いとサステナブルではないっすよって論調はあまりきかない。

加えて、観光で持続的に「稼げる」地域となるためには、地方公共団体や観光地域づくり法人(DMO)が、「住んでよし、訪れてよし」の観光地域づくりを目指し、 観光旅行者と地域住民の双方に配慮した総合的な観光地マネジメントを行うことが重要である。観光地と観光産業が連携した面的な DX の推進に加え、観光地域づくり法人(DMO)の安定的な財源確保等の課題にも対処していく必要がある。

2023年3月31日に閣議決定した「観光立国推進基本計画」

安定的な財源確保といったところにまで言及があるのが興味深い。

世界的にも関心の高まっている「持続可能な観光」とは、単に環境にやさしい旅行形態ではなく、いわば「観光 SDGs」であり、「住んでよし、訪れてよし」の観光地域づくりに重要な、経済・社会・環境の正の循環の仕組みにつながる観光の基本的な在り方である。

2023年3月31日に閣議決定した「観光立国推進基本計画」

ここでちゃんと「単に環境にやさしい旅行形態ではなく」と明記されているところが面白ろい。つまりそんなレベルで満足すんじゃねーよというメッセージなんだと思う。

観光振興が地域経済への裨益と地域住民の誇りや愛着の醸成を通じて 地域社会に好循環を生む仕組みにより、地域と観光旅行者の双方が観光のメリット を実感できる観光地を持続可能な形で実現していくことが、従前にも増して重要と なっている。

2023年3月31日に閣議決定した「観光立国推進基本計画」

このあたりでシビックプライド的なことも書かれているわけです。なので「○○って何もないじゃん」とか「某観光魅力度ランキングの下位だからいかない」的なマウント取りたくなる気持ちもわからんでもないけど、観光ってそういうものではないと思う。

今後の我が国の観光の復活に向けては、以上のようなコロナによる変化やコロナ 前からの課題を踏まえ、単なるコロナ前への復旧ではなく、コロナ前とは少し違った、持続可能な形での復活を図ることが求められる。 そのためには、「持続可能な観光」、「消費額拡大」及び「地方誘客促進」をキーワ ードに、これまで以上に質の向上を重視した観光へと転換していくことが必要である。

2023年3月31日に閣議決定した「観光立国推進基本計画」

と質の向上を重視した観光にしていこうよという流れで序文は終わります。

これ全部で78Pあるので全ては書けないし、本文を読むのも大変なのでこのあたりで終わろうと思います。

最後に、たまにセミナーで偉い方が綺麗なスライドで今の日本の観光の現状や、観光に取り組む意義を語っている方をお見掛けします。そして会場では「いや~そういうことだったんだ」という反応となり、そのたびに世の中の人は観光庁が出している資料なんてあんま読まんのだよなと痛感します。

まあ分量多いし、文字ばっかだし、ワクワクもしないですからね。

ただ観光の仕事をし出して8年ですが、着実に前には進んでいるし世界のトレンドや現実の課題と向き合っている計画にはなってます。

とはいえ現実で観光の公共事業していると「計画で描かれていることとのギャップ」とも多々出会います。最近、観光分野の超偉い方とお話をする機会がありました。私たちがセミナーで理想的な事例としていく海外のDMOのようなキラキラした状態になるには10年・20年単位の時間が必要というのがその方の予測です。

そしてキラキラしているように見える海外のDMOも日々財源を確保したり旅行者と向き合うために奮闘しているようで、自動でほっといても客が来て金が回るわけではないようです。この話は別の方もおっしゃってました。

現実を見渡してみると、まだまだなところもあれば、良くできてるところや確実に前進してる所もあるわけです。

それでも何かに許せなくなったり腹が立つのは、本人が真剣に仕事をしてるからそれができてない相手に腹が立ってみたり、嫌なことがあってから物事が嫌に見えてしまっていたり、ホンマに人間関係ガチャに恵まれてなかったり、エネルギーがまだまだ有り余っていたり、受け手の希望にも憤りにもただのビジネスチャンスにも見え方は様々です。

コントロール可能な事にエネルギーを注ぐ方が苛立ちは少ない。受け手の解釈は自由なので上手く楽しく解釈してくことが行政との仕事を続ける上で大事なポイント。

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