国内電池関連学会動向

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[5] 仁科辰夫*・伊藤智博*・立花和宏* *山形大学大学院理工学研究科(工学系) 、「リチウムイオン二次電池系の過渡応答解析-充電開始時過渡応答の解析関数の導出」、Bull.Yamagata Univ.(Eng.)Vol.38 Mar. 2023

Lithium-ion secondary batteries (LIBs) are the most promising power source for electric vehicles (EVs), and electrolyte-solution-based batteries are the mainstream, but the development of all-solid electrolyte-based batteries is also progressing. In the life evaluation and battery management system (BMS), the overvoltage component of the battery is analyzed in order to know the remaining battery capacity and the degree of capacity deterioration. We proposed a piggyback stacked dual transmission line circuit as a model for analyzing the overvoltage transient response for electrolyte-solution-based LIBs and all-solid-electrolyte-based LIBs when current is interrupted, and succeeded in deriving the basic equations and the analytical solutions for these basic equations. We applied this to the transient response analysis of an electrolyte-solution-based commercially available LIBs, and the excellent fittings within 1 mV accuracy were obtained by using only two time-constant systems, one for the positive electrode and the other for the negative electrode. Only three parameters govern the transient response for each composite electrode. Based on these results, we succeeded in deriving an analytical solution to expresses the overvoltage transient response at the start of charging/discharging.

1. 序論
著者らは,リチウムイオン二次電池(LIB)の高性能化に資するために,活物質自体は 30 秒で急速充放電できる能力を有していること 1),これは電子伝導性が低い酸化物活物質でも成立し,炭素導電助材との点接触により Li+の移動と電子の移動がペアとなって同じ方向に移動することにより活物質内での電位勾配を生成せずに移動するためであること,炭素導電助材がアルミニウム集電体と接触することで不働態皮膜内に空乏層を生成しないために低抵抗で接触できることなどを提唱してきた 2).

  • 第一のポイントですよ。

電池では活物質粉体に炭素導電助材とバインダーを混練した合材電極を用い,本質的に多孔質電極となるが,多孔質電極のモデル的な扱いは Levie3)によって 1963 年に提唱されている.しかし,現在広く活用されている Newman 等 4-8)による取り扱いは化学工学的なアプローチで大量のパラメータを扱い,夫々のパラメータの寄与などに関しては少々疑問を持たざるを得ない.このような状況は全固体電池でも同様であり,いまだに固体活物質内部への Li+の拡散を議論している 9).このような状況は AC インピーダンスにより電池特性を解析しようとするアプローチ 10)も同様で,モデルに基づいた解析は殆どなく,定位相要素を使ってデータのフィッティングに明け暮れているのが実態である.
著者らが電流遮断法による解析を始めたのは,KRI の矢田等による電流休止法 11)との出会いがきっかけである.矢田等は電流遮断時の電圧変化を 1 秒程度までの時間に依存しない成分と,その後の時間に依存する成分の 2 つに分類し,それぞれが電池の劣化に伴ってどのように変化するのかを追いかけるものであるが,時間に依存して変化する成分を過渡応答として表現する関数を提示していない.この時間に依存して変化する成分を確固としたモデルのもとにシンプルな解析解を求めることで,電池内部の動作状態に対する情報を得られそうだとの感触を得たためである.そこで,まずはセパレータ部分の濃度勾配の緩和を求め,報告した 12).セパレータ部分の濃度変化は基本的には 1 段の単純な分布定数回路として数学的には取扱えるが,電池系を表現するためには,合材電極内に対して,活物質側の分布定数回路と電解液内の Li+濃度変化に由来する分布定数回路が 2 段に重なった2 段分布定数回路(Fig.1)を採用すべきあることはその時点で強く認識できた.

  • 第二のポイントですよ。

  • 俺が2014-2015年にカザフスタンに行ったときに連中がなんか要領を得ないことを言っていたので「で、お前ら、Warburg Impedanceってなんだと思ってんの?」って聞いたときに連中は(つっても現地人はまるっきりわかっていないので中国人研究者が答えたんだが)「わからん、固体内拡散?」つってた。で、俺はここの理解があるかないかが日本と日本以外の違いなんだなって思ったわけ。LinkedInで紹介したのは俺がカザフスタンで取ってやった補助金関連の研究が終わった2017年末の後、2018年の2月になってからだが(俺が使えてない補助金で俺の知識を利用されてもいかんからね(笑)):Electrochemical Impedance Analysis for Li-ion Batteries | LinkedIn

高出力形の電解液系 LIB では過渡応答初期に電位停滞領域を示すものがあり,この現象を単純な分布定数回路では説明できなかったからである.2 段分布定数回路の基礎式を導出するには思考を深める必要があり,数学的能力の向上も必要であったため,𝑅am ≫ 𝑅elの場合と𝑅am ≪ 𝑅elの場合の極端の場合に単純化して取扱い,基本的な挙動の傾向を把握した 13).この経験を基に,2 段分布定数回路の基礎式を導出することに成功し,これを解くことにより,電解液系の電流遮断時の過電圧緩和の過渡応答を表現する解析解の導出に成功した 14).この成果を AC インピーダンス特性の解析に展開して成功し 15),全固体電池に対する解析解を求めることにも成功した 16).これらのスキル向上を受けて,電解液系 LIB のサイクル劣化のデータを解析し,iR ジャンプのコンダクタンスと容量劣化率に強い相関があることを報告した 17).これらの成果から,LIB の過渡応答は正極と負極に対して夫々3 つのパラメータ,及び接触抵抗などの直列抵抗成分の計 7 つのパラメータのみで 1mV 以内の精度で表現できることを明らかにしてきた.すなわち,電池の過渡応答に対しては基本的には電極毎に 3 つのパラメータのみが支配的で,それ以外は過渡応答に対する影響量は検出限界以下となっているほど小さい.

しかしながら,我が国の電池技術者は,大量のパラメータを使う Newman モデルを使い続けている.それは何故だろうか?その理由は基礎方程式の導出や,解析解の導出といった物理モデル構築や数学的能力が不足している可能性が高い.そこで本稿では,我が国の電池技術者・研究者の底上げを図るために,2 段分布定数回路の基礎方程式を求める手法を記述すると共に,電解液系及び全固体系 LIB の充放電開始時の電池電圧過渡応答を表現する解析解を求めた.これにより,電流遮断時,及びその後の充放電開始時の過渡応答をセットで解析することが可能となり,解析精度の向上に有効となろう.

2. 基礎方程式の導出

本稿で解析に使用するのは,Fig.1 に示した RC 分布定数回路が 2 段に重なっている 2 段分布定数回路を基本とする.ここで, Ram と Cam は活物質合材電極内部の電子抵抗と活物質の電極反応による等価容量であり,ともに単位長さあたりの値である. Rel と Celは電解液側のイオン抵抗と電解液のイオン濃度変化に伴う等価容量であり,ともに単位長さあたりの値である. Rsp はセパレータ部分のイオン抵抗であり,厳密には電極部分とセパレータ部分を連続として接続し,偏微分方程式をセパレータ部分まで拡張して解くべきであるが,ここでは解析を簡単にするために,単にRsp で終端されているとして扱った.

基礎方程式の導出は,この等価回路において,任意の微小区間における電位,電流,電荷を,キルヒホッフの法則,オームの法則,電荷バランス等を考慮することにより求める.その手法は,Fick の拡散第 2 方程式の導出と同様であり,Fig.2 に示した微小区間をモデルとして導出できる.

3. 全固体電池の過渡応答

全固体電池の場合は,固体電解質内のアニオンの空間配置が固定されており,Li+イオンの濃度変化は無い.したがって,Fig.1 の 2 段分布定数回路では𝐶elは存在せず,イオン伝導側は𝑅elのみが𝐶amに接続されている 1 段の分布定数回路となるが,(6)式,(7)式の基礎方程式は電解液系と比べてより厳密に成立する.

  • 第三のポイントですよ。

また,セパレータ部分も Li+イオンの濃度変化が無いため,純粋なイオン抵抗成分のみとなり,集電体との接触抵抗等の直列抵抗成分との切り分けができない.このため,電解液系電池の場合とは過渡応答の挙動に違いが表れる.特にセパレータ側(x=𝑙)の境界条件が明確に異なる.

1 段の分布定数回路では𝑅amと𝑅elをまとめて一つの抵抗要素として解を求めるのが通常であるが,電位分布や電流分布などは,𝑅amと𝑅elの比によって異なるため,ここでは2段分布定数回路の基礎式を用いて解析解を求める.

  • 分数式が文章の中に入っていてめんどくさかったのでそのまんまコピーしましたが、左側の最後のところが第4のポイントですよ。そのあとの電解液と比較してみてください。

この簡略化した(25)式を用いた高出力型電解液系LIB の電流遮断時の過渡応答解析結果を Fig.4~Fig.7,及び Table 2 に示した.Fig.4 は過電圧緩和の実測値とフィッティングによる計算値を示しており,縦軸は過電圧緩和量,横軸は√𝑡である.フィッティングでは,正極系(パラメータは 3 つ)と負極系(パラメータは 3 つ)の 2 つの電極系を想定し,その直列接続として過電圧緩和を表現している.接触抵抗などの直列接続の純抵抗成分による𝑖𝑅ジャンプが 53 mV ほどあり,電流遮断後 10 mS 以内で終了している.実測値では√𝑡= 2 [√s]までは√𝑡に比例して緩やかに緩和し,その後過電圧緩和の変化率が大きくなり√𝑡=5 [√𝑠]あたりで変化率が極大値を持ち,その後緩やかに過電圧緩和の変化率が小さくなっていく.(25)式を用いたフィッティング結果は良好で,10 分間の過電圧緩和を高精度に表現できている.Fig.5 は Fig.4 に示した高出力型電解液系 LIB の電流遮断による過渡応答の残差プロットを示しており,残差は√𝑡軸上で周期性を示しているが,残差は概ね0.5 mV 以内に収まっており,データロガーの電圧測定分解能からすれば,合理的にフィッティングできていると考えてよい.Fig.6 に示した残差のヒストグラムは概ね釣り鐘型の正規分布になっているようである.Fig.7 は,Fig.4 に示した高出力型電解液系 LIB の電流遮断による過電圧変化率を示しており,横軸は√𝑡であり,縦軸は𝛿√𝑡= 0.1 [√𝑠]毎の過電圧変化量𝛿𝑉としたプロットである.すなわち,縦軸は Fig.4 の過電圧変化の微分量に相当する.この変分量のプロットにより,√𝑡= 5 [√𝑠]あたりで変化率が極大値を持つという高出力型電池の特性が Fig.4 よりも明確に読み取れる.

x=lでの境界条件の違いに起因しており,電解質イオンの濃度変化により電流分布の急激な変化を吸収する効果がある電解液系の特徴と言える.ちなみに,高出力電池では電流遮断時初期に電位停滞領域が見られ,解析解の(25)式はこれを表現できたが,充電時のcoth関数系(実空間上では∑(1/n^2)fの項)はこのような電位停滞領域は示さないので,高出力電池用の電極設計になっているかどうかを充電時の過渡応答から知ることは不可能である.この点において,電流遮断法による解析のほうが優れていると言えよう.充電時の過渡応答解析からは時間に比例する成分から𝐶am𝑙を単独に知ることができるので,この両者の組み合わせから,解析の精度を上げるという使い方が良いだろう.

5. 結論

電解液系及び全固体系 LIB の電流遮断時における過電圧過渡応答を解析するためのモデルとして 2段分布定数回路を提案し,その基礎方程式の導出,並びに解析関数の導出に成功した.これを実電池の過渡応答解析に適用し,正極側と負極側の 2 つの時定数系のみで 1 mV 以内の精度でフィッティングできることを明らかにした.充放電開始時の過電圧変化は電解液系と全固体電池とでは異なる.全固体電池では,電流遮断時の過渡応答関数はそのまま充電時にも表れ,これに𝐶am𝑙への充電に伴う平均電圧の変化(時間 t に対して比例)を加算したものになるが,電解液系の電池では電流遮断時と充電時の過渡応答変化の関数は異なるものとなった.これは𝑥=𝑙での境界条件の違いに起因しており,電解質イオンの濃度変化により電流分布の急激な変化を吸収する効果がある電解液系の特徴と言える.電解液系では,高出力電池において電流遮断時初期に電位停滞領域が見られるが,充電時のcoth関数系(実空間上では∑(1/n^2)fの項)はこのような電位停滞領域は示さないので,高出力電池用の電極設計になっているかどうかを充電時の過渡応答から知ることは不可能である。

いずれの電池系でも,充電時には𝐶am𝑙への充電に伴う平均電圧の変化(時間 t に対して比例)がみられるから,電流遮断時と充放電開始時の結果を組み合わせて𝐶am𝑙の高精度な評価が可能となり,解析精度向上に寄与する.

以上,実用電池系の過渡応答解析には 2 段分布定数回路をモデルとすることが妥当であり,その有効性を確認することができた.

6. 謝辞

本研究の一部は文部科学省科学研究費補助金基盤研究(C)課題番号 15K06681,「電流遮断法によるリチウムイオン二次電池の劣化早期診断システムの開発」の補助により実施されたものであり,関係各位に謝意を表する.

参照文献

1) Kazuhiro TACHIBANA, Tomonori SUZUKI, Chihiro KANNO, Takashi ENDO, Tateaki OGATA, Tatsuo SHIMIZU, Satoshi KOHARA, and Tatsuo NISHINA, Electrochemistry, 71(12), 1226-1230 (2003)

2) 仁科辰夫,FBテクニカルニュース,64, 3-18 (2008)

3) R. de Levie, Electrochim. Acta, 8, 751-780 (1963)

4) M. Doyle, T. F. Fuller, and J. Newman, J. Electrochem. Soc., 140, 1526-1533 (1993).

5) T. F. Fuller, M. Doyle, and J. Newman, J. Electrochem. Soc., 141, 1-10 (1994).

6) J. Newman, J. Electrochem. Soc., 142, 97-101 (1995).

7) M. Doyle and J. Newman, J. Power Sources, 54, 46–51 (1995).

8) Doyle, J. Newman, A. S. Gozdz, C. N. Schmutz, and J. M. Tarascon, J. Electrochem. Soc., 143, 1890-1903 (1996).

9) 長谷川源,桑田直明,電気化学,90(4), 346-350 (2022)

10) 例えば,T. Osaka, T. Momma, D. Mukoyama, and H. Nara, J. Power Sources, 205, 483-486 (2012) 12

11) S. Yata, H. Satake, M. Kuriyama, T. Endo, and H. Kinoshita, Electrochemistry , 78(5), 400-402 (2010)

12) 仁科辰夫,伊藤智博,立花和宏,川平孝雄,科学・技術研究,3(2), 137-144 (2014)

13) 仁科辰夫,伊藤智博,立花和宏,科学・技術研究,5(2), 217-223 (2016)

14) 仁科辰夫,伊藤智博,立花和宏,科学・技術研究,8(1), 53-59 (2019)

15) 仁科辰夫,伊藤智博,立花和宏,科学・技術研究,8(2), 119-122 (2019)

16) 仁科辰夫,伊藤智博,立花和宏,科学・技術研究,10(1), 57-60 (2021)

17) 仁科辰夫,伊藤智博,立花和宏,科学・技術研究,11(2), 101-108 (2022)

18) 森口繁一,宇田川銈久,一松 信,数学公式II-級数・フーリエ解析-,岩波全書229,p.39-41, p.68, p.73, p.205, p.223, p.226, p.284-290 (1957)

19) 早水紀久子, Electrochemistry, 81(12), 995–1000 (2013)

20) 早水紀久子,リチウム電池用電解液の自己拡散係数と関連するデータ集リチウム電池用有機電解液, https://www.jeol.co.jp/solutions/applications/details/NM131015.html, Jan. 31st, 2023

21) 早水紀久子,リチウム電池用電解液の自己拡散係数と関連するデータ集, リチウム電池用有機電解液, https://www.j-resonance.com/corporate/images/application/nmr/nm131015.pdf, Jan. 31st, 2023

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まあ、数式を自分で一つ一つ導出していくのはしんどいと思うので、要点だけわかりゃええって人はこれを参考に:Electrochemical Impedance Analysis for Li-ion Batteries | LinkedIn

  • 仁科さんは「みなNewman式なんか使いやがって!」とおっしゃっているが、まあ、俺はこれはこれでも構わんとは思っているものの、「本物の電池の「物理」ってどうなっとんねん?」って考えたいときは仁科さんの書いたものを読んでおくべきだと思うのだ。

ちなみに、俺は修士を取った後、最初は電子部品の会社で「まったりと」エレクトロニクスを勉強していたが、1997年に仁科らのグループの単一粒子測定の結果を見て電池をやろうと決めた。で、1年だけ電池メーカーに行って電池の勉強をした後、全固体電池をやるためにまたエレクトロニクスの会社に移った。ここでは「電池なんか日本でやっても儲からんで」ってことでまたエレクトロニクスに戻ったんだが(これはこれで正解だったんだが。次の会社でFermi Level | LinkedInとかVacuum Polarization, Polaron, and Polariton | LinkedInとか単独で好き勝手にやった。)、電池を勉強するにあたり参考にしていたのが仁科らの研究だった。理論的な裏打ちが有り、かつ、適度に単純化された分布定数回路モデルに基づくってのが仁科のアプローチの特徴だ。

  • 最初の会社(エレクトロニクスだったが)でも等価回路で考えることは多々有ったが、上司にも「要素増やしていけば精度なんてなんぼでも上がるがな。でもそれがホントの物理かどうかわからへん。」と言われていたので、「理論的な裏打ちが有り、かつ、適度に単純化された分布定数回路モデル」って大事だなと思っていたわけ。まあ、俺自身はLaplace変換使うようなもんが出てきたら「ソフトウエアにお任せします」ってタイプだが。

  • 別にエミュレートしたいだけなら「高周波回路・低周波回路」の二つでも実用的に十分だと思うけど。そこは使い分けだね。


by T. H.


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