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【おすすめの本】 21世紀の楕円幻想論/平川克美

この本を一言で言うと...

現代社会の行き詰まりの原因を「モラル」という視点で解き明かす本。

読むべき人は...

① 市場原理主義とか自己責任とか自業自得みたいな価値観に息苦しさや違和感を感じる人

② 血の通った温かみのあるモラル・道徳・規範を培っていきたい人

③ 貨幣や負債とは何かを概念的に理解したい人

読んで学んだことは...

① 貨幣の登場により「贈与のモラル」から「交換のモラル」へ変容した。

貨幣登場前は、限りある食物を集団全体に給付し互いに助け合っていた。
この時代は贈与は義務であり、贈与に返礼することはなかった(人が一人では生きられないことは当たり前で、贈与はごく当たり前だった)。

貨幣は非同期的に等価交換を行うツールであり、貨幣の登場によって交換の頻度が増加した。貨幣の流動性を高めるためには、絶えず清算する必要がある。
ここに「借りたものは返す・返礼を受けるのは当然」という交換のモラルが生まれた。

贈与のモラルでは返礼をしないことで関係を継続させる(相互扶助)。
一方、交換のモラルでは返礼によって関係(負債)を断ち切るという特性がある。

② 経済発展に伴って貧富格差・地域格差・環境破壊などが起きている。交換のモラルが限界にきているのではないか。

交換のモラルが支配する貨幣経済が進展し、経済が発展した。
しかし、交換のモラルに基づいた利己主義・市場主義によって様々な問題が引き起こされている。

③ 2つのモラルを内包する楕円的で柔軟な思考をするべき。

楕円的思考とは、2つの焦点を内包した考え方。これに対し、真円的思考は二項対立思考。多くの物事は相反する2つの焦点があり、どちらかを選択すれば解決する話ではない。どちらかに行き過ぎないように制御すること(楕円的思考)が、現実的な運用方法である。

モラルにおいても同じ。どちらか一方ではない。現在は交換のモラルに寄り過ぎ。

そして、相反する2つのモラル(全員が納得する答えがない解決不能な問題)を自分ごととして引き受ける責任感と柔軟性を持つべき。

読んで思ったことは...

① 貨幣などの便利な道具に適応するために、作為的にモラルが生まれるという考え方が興味深い。便利な道具は生まれ続けていて、これからもモラルは変容し続けるということ。※今後で言えば、ゲノム編集やシンギュラリティによるモラル変容が起こりそう。

② 自分には責任のないことや解決不能な問題を、自分の責任として(逡巡しながらも)引き受ける。このことが「偶然に過ぎない人生」を「必然」に変える。その態度が経営者に求められる。
という言葉が胸に刺さる。

③ 行き過ぎた市場原理主義によってたくさんのひずみが出ている。社会全体のモラルを丸ごと変える力は持っていないけど、自分のすぐ周りの小さな社会でこのひずみを自分ごととして引き受け、身の回りのモラルを変えていくことはできる。

④ そういえば「答えは二者択一じゃない」と尊敬する人がよく言っていた。問題を二項対立の構造で捉えて、どちらかを選択することは「幼稚」だし「逃げ」でもある。相反する2つの間には無限のグラデーションが広がっていることをまず認識することが、問題に正面から相対することだったりする。

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