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第16講Mr.Children「未来」考察〜ヒッチハイクする車のメタファーを探る~

ミスチルの桜井さんの書く歌詞について、その韻の踏み方の凄さに注目して語られる記事をよく見かけます。
「ダーリン ダーリン」「半信半疑」「カレンダーに」(しるし)、「最高のGIFTを」「渡すとき時ふと」「胸に聞くと」(GIFT)をはじめ、確かに面白いなという言い回しがたくさんあり、実際に僕も旋律と意味と文字面の3方向からしっくりくる歌詞だと思いますが、そういったテクニック以上にメッセージ性が凄いと思うことが多くあります。
特に『未来』という曲では、この事を強く感じました。
僕は最初に買ったCDはポルノグラフィティの『ハネウマライダー』でした。
中学3年生のときにTVのライブを見て、カッコいいと思ったのがきっかけで、そこから音楽を聴くようになりました。
当時は単純にカッコいいと思っていた『ハネウマライダー』ですが、20代後半に差し掛かったあたりで聞きなおして、改めて歌詞の内容に気付いてすきになるという経験をしました。
こんな風に、歌の意味が理解できるようになって改めて曲が好きになったという経験は誰にでもあるように思います。
僕にとってミスチルの『未来』も同じ感覚でした。
僕はこの『未来』という曲を昔は単純に女の人と出会って分かれるという曲だと思っていました。
しかし、改めて聴いてみると、この曲は桜井さんが自分の人生を振り返った歌、というかアーティストを目指す男の足跡を綴ったものではないかと思うようになったのです。
ということで、「夢を追いかける男の気持ちを描いた曲」という視点から、『未来』について考察していきたいと思います(※あくまで僕の「読み方」なので、これが正しいと思っているわけでは御座いません)
この曲を聴くと、どうしても2番の「女」が印象に残りすぎて恋愛の曲のように思ってしまうのですが、改めて歌詞をみてみると、驚くほど「恋愛」的な描写が少ないことに気がつきます。
この歌を、整合性をもって理解しようとすると、「夢を持った男の生き様」として捉えたほうがいいと思うのです。
〈名前もない路上でヒッチハイクしている 膝を抱えて待ってる〉から始まるAメロには、当時ミュージシャンになろうと思った少年の桜井さんが投影されています。
〈名前もない路上〉というのは成功モデルが分からない夢のメタファー。
例えば学校の先生であったら大学に行って教員免許をとってといったようにはっきりとした成り方=道がありますが、ミュージシャンにはそんなものはありません。
そしてこの歌の主人公はそんな「路上」でヒッチハイクしながら車を待っているわけです。
車はそのまま「チャンス」のメタファーと考えるのが妥当です。
Aメロの冒頭で主人公の状態が述べられたあと、状況の説明が続きます。
主人公が〈ヒッチハイク〉している場所は〈荒れ果てて〉いて、〈誰も通らない〉ところだそう。
2番目のAメロに入ると今度の内面に目が向かいます。
〈進入禁止だってあらゆるもの拒絶して追い払ったのは僕だから 誰も迎えにこないちゃんと分かってるって だけどもう少し待っていたい〉
〈進入禁止〉といって主人公が〈追い払った〉のは周囲の「こうした方がいい」というアドバイスかと思います。
周囲の人がいろいろなアドバイスをくれたけれど自分を曲げたくないからそれらを拒んだ。
当然周りの人がもたらしてくれたかもしれないチャンスを自ら手放したわけなので、そんな所に〈車(チャンス)〉が来ないことなんて本人は十分に分かっているのですが、それでも自分の才能を信じたい。
〈だけどもう少し待っていたい〉にはそんな心情が投影されているように思います。
Bメロの〈生きてる理由なんて~〉と始まる部分には、自分のやり方を貫こうとしたけれど上手くいかない時に感じた心情が描かれています。
このままやったって結果が出ないのなら生きている意味がない。
そう思って漠然と毎日を過ごしているというのがここの場面でしょう。
そしてサビに入ります。
〈生まれたての僕らの前にはただ 果てしない未来があって〉
ここに描かれているのは夢をもって憧れていた幼少期の主人公の気持ちだと思います。
音楽の道を目指した時には絶対になってやると思っていた。
そんな夢に向かってひたむきに頑張っていたころを回想していると考えられます。
これに続くサビの歌詞では現在の自分の気持ちが描かれます。
〈そして今僕の目の前に横たわる先の知れた未来を信じたくなくて ~〉
絶対にミュージシャンになってやると思ってその道に入って、周りの助言も跳ね除けて自分のやり方を信じてきたのだけれど、その結果行き詰まりを感じて、それを受け入れたくて〈目を閉じて過ごしている〉というのがここの場面です。
2番になるとこんな主人公の下に「女」が現れます。
主人公が待っている「車」を「成功」のメタファーであるとすると、主人公を拾うこの「女」はチャンスを自分の前にもたらす「女神」の比喩のようなものになるのですが、どう考えても文字数が多くなりそうなので、後半は後日まとめようと思います。

(元々、数年前に書いた時は分割していたためにこの終わりになっていますが続けます 笑)

だいぶ(というか1年以上 笑)空いてしまったのですが、Mr.Childrenさんの『未来』の考察の続きを書いていきたいと思います。  

ということで2番から。
<女が運転する 車が止まって 「乗せてあげる」と言った>
2番の出だしはこう始まります。
前半の考察で少し触れましたが、1番が周りの制止を振り切って無我夢中に夢を追いかけた主人公であるとしたら、目の前に現れた自動車に乗った「女」は幸運の女神のようなものと捉えることができます。
周囲のアドバイスも無視してがむしゃらに走り続けた結果行き先も分からなくなった(だけど引き返すこともできない)主人公の前に現れた女は、音楽業界で偶然プロデューサーのような誰かの目に止まった瞬間に重なります。
そして、主人公走り<感謝を告げて>、<助手席に座って また礼を言>います。
初めは偶然通りがかって目を止めてくれた「女」に感謝しきりの主人公。
しかし、慣れてくると次第に綻びが生じ始めます。  

<しばらく走ると僕は 硬いシートに居心地が悪くなって>
初めは何度も礼を言っていた主人公は、やがてこのような状態になります。
僕が面白いなと思ったのが「硬いシート」というフレーズです。
これって、いざプロとして売り出す段階になった時に生じた、様々な制約やしがらみのメタファーなんじゃないかと思うんです。
偶然にもとある業界の人の目に止まって、プロになる道は開けたけれど、現実は様々な障害があった。
そんな、「プロになる」という夢の「現実」に嫌気がさし始めたのがここ。  

続く歌詞にはこうあります。
<女の話に相槌打つのも嫌になって 眠ったふりした>
この時点で相手は話に耳を傾けなくなります。
そしてBメロへ。  

<僕らは予定通りの コースを走ってきた 少なくとも今日まで>
1番で色々な人を排除して我が道を突き進んできたことを踏まえれば、ここの「僕ら」は主人公と女と考えることができます。
そして、そんな2人が立てた「予定通りのコース」とは、おそらく2人が出会った時に考えたものでしょう。
しかし、その後の主人公の態度からも分かるよう、徐々に堅苦しい「女」の注文に嫌気がさして、摩擦が生じ始めている。
<少なくとも今日まで>という歌詞には、そんな主人公が自分を拾ってくれた幸運の女神であると同時に、自分のやりたいことに制約をかける足かせになってしまった「女」との決別の意志がうかがえます。
そして2番のサビ へ。  

<出会った日の僕らの前にはただ 美しい予感があって>
出会った時のワクワクはこのように示されています。
そして、それを信じていれば<甘い恋をしていた>と続く。
ここに「恋」という言葉が使われているため、この曲は恋愛の曲のように聞こえますが(そもそもこの歌詞考察は、「考察」という体で僕の主観を書き連ねるものなので、恐らく通説とは異なると思います。)それだと1番に出てきた主人公の態度と繋がりません。
だからこそ、僕はあえて「女」=「プロデューサーのような夢の案内人」という前提で書いています。  

そして2番のサビの後半では<そして今 音もたてず忍び寄る この別れの予感を 信じたくなくて 光を探している>となります。
これはすれ違いはあるけれど、なんとかやっていける道を模索する主人公の気持ちなのかなと思います。  

字数と著作権の関係から繰り返し部分は割愛して、最後の部分に。
<いつかこの僕の目の前に横たわる 先の知れた未来を 変えてみせると この胸に刻みつけるよ 自分を信じたなら ほら未来が動き出す>
今までは「未来を信じ」ていた主人公が、最後の場面では「自分を信じ」るように変わっています。
ここに来て主人公のスタンスが大きく変化しています。
それには1番のAメロの時にいたヒッチハイクを待っている主人公の姿はありません。
ここに描かれているのは自分を信じて歩き出そうとする主人公。
そして、最後に<ヒッチハイクをしてる 僕を迎えに行こう>のひと言。
将来の怖さに負けて、不安で待っている自分も運に頼る自分に「自分を信じたなら未来は変わる」と言いに行こうとする主人公。
これって、そう言い聞かせて一歩踏み出すということだと思うんですよね。  

歌を通して主人公が覚悟を決めていく姿が描かれているということで僕のお気に入りの一曲であるMr.Childrenの『未来』。
当然好きであるがゆえに、多分に妄想が入っていることは承知です。
(というか「考察」とか言っておいて、実際はほぼファンの妄想 笑)
ただ、あくまで1つの見方として「へえ」くらいに思ってもらえればと思い書きました。
どうか優しい気持ちでご覧いただけたらと思います。

リリックパネルという歌詞考察youtubeをやっています。
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https://youtube.com/@lyricspanel1002?si=ZTPdFWQ-uruO-ZlW

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