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生徒の予想外の発言に対応するための方法論

先日学生バイトさんの方とご飯に行っていた時、生徒さんの言葉に対してどうやって言葉選びをしているのか?と言うようなことを聞かれました。
この辺、僕の中でかなり考えたことがあったので、今回は僕が返答について意識していることについて書いていきたいと思います。

ふと投げられた『走れメロス』の言い間違いについて

だいぶ昔のこと、とある生徒さんに何気なく学校で行っている学習範囲を聞いた時のこと、「えーと、、、あっ、ロメス!」っという言葉が返ってきました。
言うまでもなくこれは『走れメロス』の主人公、「メロス」を「ロメス」と言い間違えたわけですが、ここでの返し方について僕の頭の中に浮かんだのは次のようなパターンです。

①オッケー、走れメロスね
②ロメスちゃうわ!
③外国人野球選手みたいな名前やん
④助っ人外国人みたいな名前出てきた
⑤助っ人外国人は走らせたらあかん

このときは③を選んだのですが、こう言うシチュエーションで、どういう意図を持って、どの返答を選ぶのか。
その意図の部分と想定力が、いわゆる言葉選びの際の重要さなのかなと思います。

それぞれの返しの意図について

とっさに浮かんだそれぞれの返について、僕の頭には次のような想定がありました。
①は相手の間違いに対して訂正を入れるという普通に返答するパターンです。
通常の会話なら円滑に言葉のキャッチボールを行うことが大切なのでおそらくこれを選びます。

②はツッコミという形の返答です。
相手のクスッと笑えるミスに対して単なる訂正ではなくツッコミという形で返すことでひと笑い挟みたいならばこれでしょう。
ただし、純粋なツッコミは相手の発言を「ボケ」として周囲に認めさせてしまうので、繊細な生徒さんには「笑われた」と受け止められかねません。
②を選ぶのは比較的注目されたいタイプの子の場合かつ授業のテンポを崩したくない時というイメージです。

③は生徒さんのミスにボケ要素のある返しをしてミスに対する周囲の視線をこちらで巻き取るという意図で行ったものです。
僕はこのパターンをよく使うのですが、これは間違えた発問をした生徒さんが笑いの対象になるのを防ぎたいという場合に選んでいます。
「ロメス」を普通に訂正したり、ツッコミという形で笑いを大きくしてしまえば、その生徒さんが「笑われ」の対象になってしまうわけですが、そこに「外国人野球選手」というインパクトのある言葉を被せれば、注目がこちらに向くので、その後の「笑われ」は僕に向けることができます。
前に出るのが好きじゃない生徒さんやプライドの高い生徒さんの思わぬミスをカバーする場合に使うのが③という印象です。

④以降はそこから生徒さんとの興味の共有度合いで情報を削っていく作業のイメージです。
③の場合、「外国人」「野球選手」という二つの解説を入れることで、なんの話をしているのかのイメージが野球を知らない人の頭にも共有されるような話し方でした。
それに対して「助っ人外国人」というのは野球に興味がある人なら当然イメージが伝わる一方、野球を知らない人にとっては何のこと?となります。
だから通常はその言葉選びにはならないのですが、反対に野球を知っている人にとっては「野球」という言葉を削ったこの返しは「僕たちに向けて発信したものだ」という共犯関係を生むことができるのです。
そういう共犯意識から信頼感を構築したい場合に、あえて情報量を削る、そして知っている人にはより鮮明にイメージが湧くようにするのが④です。

最後の⑤に関しては、より相手の知識に依存する返しとなるので基本的に僕は個別指導の時にしか使わないのですが、一つの返しでツッコミの先に訂正も含めるという言い方になります。
野球が好きな人にとっては、助っ人外国人のバッターは豪快なヒットの反面足は遅いという印象は浮かびやすいはず。
加えて元のテーマは『走れメロス』でした。
「足が遅い」というイメージから「走ったらあかん」という言葉を入れれば、『走れメロス』という言葉を挟むことなくその作品だとこちらには伝わったということを相手に共有することができます。
そうやって言葉にせずに共有した情報量を増やせばその分だけ「理解している」という認識を伝えられます。

因みに先のシチュエーションではこの発言の子があまり前面で笑われるのを好むタイプではないということと、女の子が多いクラスであることから③を選択しました。

予想外の返しに対する反応を公式にしてみる

①〜⑤については、表現の仕方については異なりますが、根っこのところには次のような意識があります。

まず、発問とはAからCに向かって説明をしている中で、話の理解を円滑にすべくBを期待して行う行為というのが僕の定義。
その中でBという解答を期待しているわけですが、時に想定外のDという答えが返ってくるのが、上に挙げた例のような状態と言えるでしょう。

そんな時にBに軌道修正するのが発問に対する返答で、そのアレンジのパターンが先の①〜⑤なわけです。
その上で「Bに戻す」という時点で分類すると先の返しは①②|③④|⑤と大別されます。

生徒さんのDという発信をBに直接引き戻すのが①と②。

ストレートに戻すのが①に対して、「それはDという誤りだ」という印象づけをして戻すのが②なわけですが、どちらも他の要素を経由せずにDから Bに戻す点で共通しています。

対して③と④はDという誤りに対してよりインパクトの強いEを発信した後にBに戻る作業です。

それをする意図は様々ですが、いったん別要素を挟むことで注目をDから逸らすという点は共通します。

⑤に関しては①〜④とは少し違い、Dとは異なる要素Eを挟むことでBを経由せずにCへと進むことを目的としています。

Eの中にB'とでもいうべき内容を挟むことで、「Bに戻る」という工数を省略するのがここ。

僕はこの構成を頭の中に作ってあり、そのパターンに当てはめてその時々で選択をしている印象です。

言葉選びの根本は相手を思いやること

さて、これは冒頭の学生さんから「言葉の選び方」と聞かれたときにメモ帳を取り出して自分の方法論を言語化した時にまとめたものなのですが、大事なのはテクニックとして言葉選びができることではなく、何のために言葉選びをしているかという部分だと思います。

僕は上記の分類を、生徒たちを喜ばせる、あるいは傷つけないために作ってきました。
ちょっとお調子もので勉強ではあまり褒められたことがない生徒さんの思わぬ発言をツッコミという形で拾ってあげて笑いの中心にしてあげられたらその子にとって学びが楽しいものになるかもしれない。
反対に引っ込み事案の子が頑張ってした発言で傷つけたくないし、何なら自分の発言がクラスの笑いをアシストしたんだという安心に繋がって欲しい。
そういう想い(というと大袈裟ですが)ありきで考えたのが、これに限らず僕の方法論です。

様々なテクニックどうこうというよりも、何のためにそれを使うのかの部分が明確になっていることがまず大事なのかなあと。
そんな風に考えつつ、生徒さんの質問の拾い方に関してあれこれまとめてみました。

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