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既存の小規模サービスを広げるための広報戦略についての方法論

以前広報について具体的な手法についてまとめたのですが、意外と好評をいただけたので、今回は逆に観念的な部分をベースに認知からクロージングまでの設計についてまとめてみたいと思います。

他人が顧客に変わるまで

広報というとSNSで発信とか、チラシを撒くとか、看板を出すとか手法の話に行きがちですが、もちろん単発の何かを投げたところで期待した効果は得られません。
1発の動きで何かを得ようというのはギャンブルとおなじ。
たとえその時は偶然上手くいったとしても、それは確率論の話で再現性がありません。
本当に戦略として考えるなら単発の打ち手でどうこうしようというのではなく、具体的にクロージングまでの流れを考えておく必要があるわけです。

全く自分たちのプロダクトに関心がない状態から最終的な顧客になるまでの流れをざっくりまとめると次の様になります。

①認知→②習慣化→③ファン→(④相手側に需要が発生)→⑤顧客化

自分のサービスに対して需要のある層にアプローチするというのが一般的な広告手法だとは思うのですが、これだけ競合が溢れている現在でそれができるのは十分な資本かブランドがある場合だけ。
(ちなみにブランドがある個人の場合はSEO対策+ブランド力でピンポイントに顧客にアプローチするのが最も効果的でしょう)
小規模の事業で大手と比較すればブランドで勝てない場合、上記のステップを意識した広報戦略を立てておくのが有効というのが僕の持論です。

①認知〜そこに「ある」と気づいてもらう〜

どんなサービスでもまずは「そこにあるんだ」ということに気がついて貰えなければ何も起こりません。
言語学で「名付ける」というのは世界を文節化する事だなんていうのですが、広報における認知度はまさにこれに近い感じです。
僕たちは日常生活の中で大半の目にした光景を単なる風景として近くせずに流しています。
これはWEB空間でもチラシ織り込みなどでも同じで大半の情報を雑音としてスルーしている。
そんな風景やノイズとして流されている状態から、「そこにある」と文節化してもらう努力をするのが①の認知の段階と言えるでしょう。

ここの段階は店舗であるなら看板、のぼり、暖簾といったものかもしれません。
まずはとにかく認知をしてもらう。
そのためにはa生体レベルの反応、b導線の意識、c興味の刺激などの切り口があります。

生体レベルというのは無意識についつい反応してしまうという部分に注目する事です。
例えばロードサイドの店舗でのぼりが何本も風になびいていて、そこに「特性ラーメン」とデカデカと書かれていたら、車で日頃そこを通る人たちには「ラーメン屋ができたんだ」と認識されやすくなるでしょう。
同様の効果を徒歩の人たちに期待するならのれんが有効です。
某買取サービスのフランチャイズのお店では徒歩の高齢者に知ってもらうために必ず店舗の入り口をのれんにしているのだそう。
あるいはここにはライトなども含まれてきます。
夜にA型看板にライトが当たっていれば、僕たちは「やっている」と無意識に判断します。
ただ看板を出すのではなくライトを当てる事でその認知をとりに行くわけです。
そうやってまず「そこにあること」を認知してもらうのがaのおはなし。

bの動線の意識とはすでに認知されている物の間にそっと自分の存在を挟むやり方です。
例えば店舗の近くに自販機があるのなら、その横にチラシをせっちしてみるとか、信号機があるのならそこで止まる間だけは手持ち無沙汰になるわけなのでそのタイミングに見てもらえる様な場所に看板を設置するとかです。
SNSで言うのならトレンドのハッシュタグに載ったり、有名な方の引用リツイートの利用などがここになるでしょう。

cの興味の刺激とはサービスを直接売り込むのではなく、潜在的に顧客になりそうな層が間接的に興味関心のあるものを広報物として用意すると言う考え方です。
先の買い取りサービスのフランチャイズでは、折込チラシにクロスワードパズルを入れているのだそうです。
クロスワードパズルは脳トレ的な効果もあり、ターゲットとしている高齢層の関心を得るためには効果的な手段です。
そのクロスワードパズルでチラシを手に取ってもらい、その中で買取に興味がある人に内容を見てもらうというのがこのチラシの戦略です。
このように、将来的な顧客になりうる人々の関心を意識した仕組みづくりがcに該当します。

②習慣化〜「いつもそこにある」というポジションを獲得する〜

認知が得られた後に目指すのは習慣化です。
せっかく興味を持ってもらったとしても、それが不定期であったり単発のものであっては意味がありません。
偶然通りがかって興味を持ったけれどそれからしばらくそこに行かないということはザラ。
そんな時にふと思い出してふらりと寄ったらそこにある。
この「いつもそこにある」というのが次のステップで最も重要な要素です。
例えばライブ配信等でファンを作るにはいつも同じ時間にやり続けることが大事と言われますが、それは見る側にとっていつでもその時間にそこに行けばそこにあると言う安心感を与えられるからでしょう。
これは何気なく立ち寄ったお店が行きつけになるのと近い原理で、たとえ有名な人でなくとも暇な時間にフラッと立ち寄ったらいつもそこにあれば徐々に親近感を覚えます。
その状態を作るのに必要なのが「いつも決まってそこにある」という習慣化なわけです。
これはSNSの定期発信はもちろん、YouTube動画やブログの投稿でも同じです。
バラバラの投稿頻度のコンテンツを今か今かと待ち焦がれる人の数と、毎週決まった投稿日の人間のコンテンツを何気なくチェックしに行く人の数なら、後者の方が圧倒的に作りやすいわけです。
これを作るのが習慣化というわけです。
ちなみに折込チラシでもこれは同じことが言えます。
たとえば新聞のひと言コラムでもクロスワードパズルでも時事ニュースでもなんでもいいですが、毎回定期的に入っていてついつい読んでしまうというようなポジションが存在します。
そこを取りに行くためにも定期更新が必須になるわけです。

③ファン〜習慣の積み重ねで意識の片隅に置いてもらう〜

ファンというのは応援したいという感情を持った人のことですが、それは頭の中にその存在が常にある状態と言うことができます。
僕たちは日常さまざまな情報に触れていますが、大切なものほど常に頭の中で思い出す様になっています。
広報戦略におけるファン作りとは対象者の頭のほんのコンマ数パーセントでもいいから、頭の片隅に自分の存在を置いてもらうという感覚です。

この段階にいくのは習慣化した上でその経験が積み上がっていくしかありません。
例えばブログやYouTubeで言うのなら「次の更新が楽しみ」という状態になっていれば、もうファンと呼べるでしょう。
「次の更新が楽しみ」ということは、そのコンテンツが常に頭の片隅にあるということです。
定期的にコンテンツを出し続けることの目標はここの部分にあります。
この段階を作った上で行うのが次のステップです。

④需要の発生〜選択肢の第一位のポジションを確保する〜

ここからはクロージングにかけての方法論となります。
人はそれぞれさまざまなニーズが発生するタイミングがあります。
失恋をした時なら話を聞いてほしいとか、デートでちょっと背伸びしたお店を探したいとか、我が子の成績がマズいとかetc...
こうしたニーズは生活の中でふと現れるものがほとんど。
僕が考える広報戦略とは、こうしたニーズがふと立ち現れたときにその人にとっての選択肢の第一位のポジションにいるというものです。

あるニーズAの解決策を考える際、顧客の頭には複数の選択肢が浮かぶわけですが、そこにはブランド、価格、サービス内容など様々な比較要因があるはずです。
で、普通に勝負するのであればこういった構成要素のなかで比較優位をとって自分のサービスを選んでもらうことになるのですが、もしここに①〜③までの流れで信頼関係を得られていたら、僕たちは他と比べて「ファン」という要素で優位性を持つことができるわけです。

例えば僕たちがある問題を解決したいと思ったとき、知人にその分野に関わる人がいたら、多少値段がかさんでも、サービスとして一流でなかったとしても、「身近である」「なんとなく話しやすい」「関係を続けたい」といった理由でその人を選ぶなんてことがよくあります。
ファン化という広報戦略はこれと同じ考え方で、選択の俎上に乗った時点で他よりも優位な立場にいることを狙うわけです。

悩みが発生したタイミングで、他よりも身近に感じているサービスがあって、それを調べてみたらドンピシャの解決策が提示されている。
この状況をつくるために、認知度は違ってWebページやSNSでは悩みにダイレクトに刺さる文言や体験談がある事が大切です。
最近のInstagramでよくある「うちのサービス利用者の声」みたいな投稿はここにダイレクトに刺さるのでしょう。

これはチラシでも看板でも同じです。
いきなり自分のサービスの内容を読んでもらおうという設計のチラシがそもそも間違っていて、ニーズができた時に読み込みたくなるように(そして悩みにささるように)設計すべきです。
それが④のフェーズです。

⑤顧客化〜導線を意識した広報という考え方〜

以上が僕が広報をする際に意識する考え方です。
中・長期的に優位な立ち回りをするためにと考えた時、これが僕の中では最もしっくりしているスキームです。
もちろんスタートアップや単発のイベントでは、この様な悠長なことはいっていられないので、その場合は①をひたすら回数とスピードを高めて行いつつ、営業力で一気にクロージングに繋げるという方法をとります。
(例えばクラウドファンディングとかであれば初めの数時間で注目のプロジェクトに乗せるために顧客の知人に片っ端から協力を頼みある程度の初動を確保するとか)
ただし、それはあくまで0→1の段階のお話。
火種を作るのと、火を安定して灯し続けるのとでは行う作業がまるで違います。

巷には0→1の手段が溢れていて、すぐに結果が現れそうに見えるのでそれに飛びつきがちなのですが、あくまでそれは新規事業というインパクトありきのもの。
すでにあるサービスの認知拡大やリブランディングという場合はそうは行きません。
荒れた肌のターンオーバーにだってひと月以上かかるわけで、すでに動いているサービスを広げようとするのなら、どうしたって時間がかかります。
0→1で認知を広めるより、すでにあるものの認知を改めて広める方がよっぽど工数はかかるわけです。

とはいえ漠然と「時間がかかる」と言われたところで、実際の感覚はピンとこないように思います。
なので今回は僕が考える「長期戦」の時間感覚を共有できるように、頭の中の戦略をフェーズ別にまとめてみました。
広報に奮闘している方の何かしらの参考になれば幸いです。

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