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バレンシアvsバルセロナ 〜IHというポジション〜

セティエンのバルサ

「選手をやってた時、ボールを脚で扱いプレーするのが好きだった。ただ3,4回しかボールを触れず、ずっと走り回ってる。そんな試合がたくさんあった。その時気付いたんだ。自分は本当は何が好きで、何を監督として表現したいのかって。」

キケ・セティエン。ボールを持ち続け、試合を進めることへ執念、野心を持つ。セビージャの地、レアル・ベティスで彼は選手時代の理想を体現させ、世界中に彼のフットボール像を知らしめさせた。

その彼がバルセロナの地にやってきた。2020年1月13日のことだ。そこから1週間後の1月20日。カンプノウの地で初陣を戦い、パス数1000本越え、ボールポゼッション80%以上という驚異的な数字を見せた。

基本的なシステムは433。しかしこのシステムのままプレーする時間は少なかった。

8割ほどの時間をボールを保持しながら費やしていたわけだから。上のシステムがボール保持時の形。アルバが高い位置を取り、逆SBのセルジロベルトはビルドアップ隊に入る。3142のシステム。

グラナダ戦では2トップ脇からCBが楔→IHやFWに入れ、一列下の選手へ落とし前進を図った。一度頂点の選手に当ててから落とすことでブスケッツのように背中で消されていた選手をまた使うことが出来る。またターンせずに前を向けるため、スムーズに前進することができる。

中央に人を集め楔→落としの形を何度も披露。失っても中央の密集からそのままプレッシャーをかけてすぐに奪い返す。これが80%越えのポゼッション、そしてその上の勝利を呼び寄せた。

そこからまた2週間。セティエンバルサ2度目のラ・リーガをバレンシア、メスタージャで迎える。

スターティングラインナップ

バルサは前節からIHの二人を変更。アルトゥール、フランキー・デヨングのクリエイティブな2人が入った。

前半

バルサボールでキックオフ。基本的には前節同様の形でビルドアップ時のシステムを形成する。しかし前節と異なったのは相手442のアプローチ。バレンシアは2トップが中央のスペースを背中で切り、バルサが2トップ脇に運んだところでブロック全体を片側3レーンにスライドさせる。また、3枚化したCBを経由し逆サイドに持っていこうとするとバレンシアも逆SHがプレスをかけビルドアップを断ち切ろうとする。

守備側人口が明らかに多く、敵の密度が高い同サイドをバルサはいかに崩し、ゴールへ迫るか。ここが今日の試合でセティエンに与えられたテーマだろう。

まず立ち上がりに見せた形がIHを大外レーンに立たせる形だ。メッシのいる右サイドを主戦場として選択したバルサだが、同サイドのIHフランキーデヨングは大外レーンの敵SHの手前に立ち位置を取った。

考えられる狙いとしては主に2つ。

1つは相手SHのCBへのプレッシングを牽制させるため。バレンシアの左サイドで言うとSHはカルロスソレールだったが、デヨングとセルジロベルトの2択を彼の視界に入れさせることで、前向きなプレッシングをさせない。無闇に寄せてしまえば、ボタンを掛け違えるごとく442の組織が崩壊してしまう。

もう1つの狙いとしては、メッシをハーフスペースでプレーさせるため。442のボックス内、狭いスペースでターンすることは並のプレイヤー、バルサの選手であっても容易ではない。しかしメッシはその次元にいない。与えられたスペースが狭くても彼はターンし、ゴールを視界に捉えることが出来る。

その彼のためにIHがハーフレーンから大外レーンに移動する。これによって敵のSHをピン留めすることが可能になる。また、デヨングのレーンがズレたと同時に、同3センターのブスケッツとアルトゥールも横列をズラす。彼らは基本的に敵左ボランチコクランの周囲でプレーし、彼をピン留めした。

3センターの横列移動により、ボールサイドのSHとボランチをピン留め。その敵2人の立ち位置をコントロールし、間のスペースを広げることで、2トップ脇のセルジロベルトからメッシへのパスコースが解放され、直接縦パスを入れることが可能になった。

さてメッシがハーフスペースでボールを収めることが可能になったバルセロナ。フィニッシュに向かいたい。前半の中で特にチャンスのように見える形を作れていたのは、逆IHアルトゥールを経由し逆サイド大外のアルバ、そこからダイレクトでキーパーとDFの間にグラウンダーのクロスを入れる形。またアルトゥールではなくグリーズマンが逆ハーフレーンで受けアルバへ渡すというシーンもあった。彼が巧みだったのは初めからそこにいないこと。DFラインと駆け引きをした後にライン間に入って受けることでより時間とスペースを得ることが出来る。まあいずれにせよ明確なチャンスとはなっていなかったのだが。

しかしメッシがハーフスペースで受けてからのコンビネーションは、上記したシーンの他にはあまり見られなかったように思う。周囲の寄り、離れなどポジション修正の動きが少なかっただろう。

ここで前半が終了する。

後半

後半に入るとバルセロナは前半のようにサイドでプレーするシーンが減った。メッシの初期位置が中央になったからだ。これによりデヨングが外に流れてメッシへのパスコースを解放させる必要はなくなり、サイドの菱形の頂点(脇CB+DM+WG+IH) としてプレーするようになった。

低い位置にボールがある場合、彼はじめIHにはビルドアップの出口になるプレーが求められる。脇CBやブスケッツからボールを受け、サイドや中央のメッシへつけることで前進とスピードアップを図る。
高い位置にボールがある場合、菱形の頂点の選手には、チャンネルへランニングし、ニアゾーンに入る、そしてボール失ってからすぐに奪還するためにバックラインの敵へプレスをかけて蹴らせるなど、相手ゴールや選手へ脅威を与えるプレーが求められる。アルトゥールやデヨングのキャラクターではない。

48分にバレンシアが先制したこともあり、点を取りに行かなくてはならないバルセロナは、アルトゥールに代わり、左IHに上記した「脅威を与えるプレー」が出来る選手、アルトゥーロ・ビダルを投入。

ブスケッツが基軸となり、サイドのファティやアルバ、そして中央浅い位置のメッシへボールが回る。するとビダルはライン間でボールを引き出し、またペナルティーエリア内へ猛然と侵入し、クロスを待ち構えるなどチャンスを伺った。

ただそれでも決定的なチャンスは訪れない。バレンシアのポジションリカバーも速い。立ち位置を整理し、時間とスペースを得ることで優位に立とうとするが、その優位性を真っ先に奪いに来る。

前がかりバルサ。心を占めるのは意地かプライドか、また緩みか諦めか。76分、バレンシアコートでボールアウト。歩くIH。バレンシアのスローインで再開。ボールはDFライン付近へ。画面はIHを捉えない。ノーガードのDFライン。ボールは逆サイドフリーのハウメ・コスタへ。冷静に流し込み2-0。フレームインIH。

残された時間は14分と少し。バルサはファティに替えてコジャードを投入し、大外から中に入り込む動きから反撃の狼煙をあげたい。しかし最後まで崩し切ることは出来ずタイムアップ。0-2。バレンシアが完封勝利を達成した。

雑感

インサイドハーフの様々なタスクを見ることが出来た試合だったように思える。ライン間でのプレー、ハーフターンして逆サイドに展開するプレー、一列前へのパスコースを開放するため外に出るプレー、DFラインの裏に飛び出すプレー、逆サイドのクロスを待ち構えるプレー。色々なタイプのインサイドハーフがバルセロナにはいて、それに応じた戦い方をしていた印象だ。ただ時にその縛りから解き放たれることも必要だった気がした。このような試合だったからなおさら。もちろんそれは全体がオーガナイズされた上で行うものであって、個人が好き勝手やれといった趣旨ではない。監督交代直後で、まだその組織を作る期間であると考えれば、その段階に行くのはまだ早いとも言えるだろう。

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