中条あやみとおうちデート

久しぶりに美容院に行った。毎度のことだが髪を切られている間の振る舞いがよくわからない。カットとパーマの計2時間近くの施術時間の7割くらいは目の前に置かれたメンズノンノの表紙に印字された「中条あやみとおうちデート」の文字をじっと見つめて過ごした。雑誌、読めよと、それだけの話なのだが、席について担当の美容師と二言三言会話を交わして、それからどのタイミングで雑誌を読む体勢に移行すればいいのかわからず表紙をじっとみつめる奇怪な状態になってしまう。

何もわからないながら一人暮らしを始めて半年ほどたったので俺の家は俺一人だけが暮らすための歪な形に日々変形している。誰かを招くようなことは到底考えられない。当然中条あやみとおうちデートには適さないだろう。まず座る所が限られる。大まかな選択肢として床、ベッド、デスクチェアー、座椅子が挙げられるがどこに座っても気まずくなる未来が容易に想像できる。まず最初にベッドが選択肢から外れる。なぜなら俺のベッドにはシャワーを浴びて清潔な服に着替えた俺しか触れてはいけないという制限があるから。どちらかというとがさつなほうで、潔癖症とは無縁な人間なはずなのに、なぜかことベッドとなると「汚れ」に異様に反応してしまう。このルールにはほかでもない俺自身も逆らえないので中々ベッドに座ることができない。たとえ中条あやみであっても。

片方がデスクチェアー、もう片方が座椅子に座るというスタイルもなかなか難しいものがある。引っ越しに際して給付金の十万円と貯めたお金があったので多少なりとも家具をそろえる余裕があって、これがあまりよくなかった。新居でPCをつかって作業をすることもあるだろうと、デスクとデスクチェアーを買うところまではよかったがなぜか余計に座椅子まで購入してしまった。半年暮らしてわかったけど椅子があれば座椅子はいらない。椅子に座るから座椅子に座らない。こたつやちゃぶ台があるとかではなく、何もないフローリングにただただ座椅子があるだけなので、座椅子に腰かけてみたところで目線の先に何もない。ただ楽な姿勢で低い目線から汚い部屋を眺めることしかできない。楽な姿勢で虚空をみつめる俺をデスクチェアーに座った相手に高い目線から見せるのは気が引けるし、逆も然りである。

大小さまざまなゴミ箱が6個あるのも気持ち悪いかもしれない。分別を徹底しているのかといえば別にそうでもない。なんか増えただけだからそれぞれの役割も曖昧だし、小さいやつに関しては位置も定まらない。連携のとれていない6個のゴミ箱が100%のパフォーマンスを発揮できていない様をみるとサッカーの監督をしているような気分になる。悪いのは指導者の私で、選手たちに責任はありませんと、2週間近く空き缶一つしか入っていない一番大きいゴミ箱に思いを馳せていたら髪型がいい感じになっていた。

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