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サルスベリ

サルスベリを覚えたのは6歳の頃であった。

当時、さるかに合戦や、桃太郎の世界で、サルのズル賢い一面や愛らしい一面を知ったばかりの私にとって、サルが滑ってしまうほどにツルツルとした幹だから、と由来をもつサルスベリの語感は直感的に頭に残った。

小学校の校庭に生えているそのツルツルとした幹を見つけては、得意げにサルスベリの由来を友達に教え撫でていたものだ。そして撫でるにつれ、他の木では感じられない愛着がサルスベリに芽生えていたが、なにがきっかけということもなく撫でることは無くなり、傍目で見る程になっていた。

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サルスベリの花を覚えたのは24歳、2ヶ月前の出来事であった。

職場と家の往復をする毎日。通勤に使うバスの中では、心整うようなエッセイを読むことが習慣になっており、外の空気を吸う時間は捻出する必要が出てきていた。

とある休日、車の助手席で過ぎゆく風景を眺めていると、隣の運転席から「サルスベリの季節だね」と話しかける声が聞こえた。

私はその時に初めて知った。サルスベリがモリモリと華やぐこと、木によって違う色の花を咲かせること、それもとても長い期間咲かせること、漢字では百日紅と書くこと。ツルツルした幹に目をやることが無くなってからというもの、私は花を咲かせることすら知らなかった。

以来、サルスベリの幹を撫でては小学校の校庭と、車の助手席を思い出す。

6歳の私にとって特別だったサルスベリは、
18年経ち、再び特別になりつつある。

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