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Aphex Twin - Richard D. James Album / 橋本孝弘的アルバムレビュー

Aphex Twin といえば顔。一度見たら離れない笑顔。それが幾多の人間の顔に増殖する恐怖。

僕が小学生のとき、ニコニコ動画で上のAphex Twinの顔と江頭2:50の笑い顔は似ている!という動画を見ました。当時は彼の顔をただのパンクとかのジャケットだろう...とスルーしていましたが、今考えるとあの頃からAphex Twinという存在を刷り込まれていたのかもしれません。

異様なまでに上がった口角やずっとにらみつける目(どうやらコンピュータで加工している模様)、初めて見たときはひえッ...となること間違いなし。泣いちゃう人もいるかもしれません。先頭に持ってきてごめんなさい。

アートワークのイメージ通り、アルバム全体を通して凶暴的なサウンドが続きます。ドラムのループを細かく刻んでバラバラにつなぎ合わせるブレイクビーツを多用したドラムンベースというジャンルがありますが、そのブレイクをさらに刻んで複雑怪奇にしたドリルンベースというジャンルでこのアルバムは語られることが多いです。バイオリンのストリングス、ピョンピョンしたシンセの音、やわらかな歌声とともに、まるで金切り声のようにドラムがわめき散らしています。しかし、それがなぜかマッチする。なんでかは知らないけど、それが気持ちいい...。

そしてこのアルバムを通して聴いてみると、どこか「子供っぽさ」を感じます。アルバムの音質があまりよくない(ローファイ気味)なのと、ブレイクビーツの音が安っぽくリズムがとりづらい。まるで、子供部屋で鍋の蓋やブリキの汽車をがめちゃくちゃに叩く子供のような。適当というよりも、無垢なイメージを持ちます。"To Cure A Weakling Child","Logon Rock Witch"はその子供っぽさが顕著になってると思います。

情景が具体的に思い浮かびやすい曲が多いのも魅力ですね。"4"は夕日が広場に差し込んでいて、"Fingerbib"でそんな夕日の家路を歩いて帰ってゆく。一方"Goon Gumpas"は雨上がりの午前のような湿っぽい芝の上。"Girl/Boy Song"は朝が始まり昼が過ぎて夜を迎え、また朝が始まる一日の忙しなさを感じます。どこか子供のような無邪気さ、人間的な温かさ、ノスタルジックな光景を思い浮かべます。こういった楽曲群のなか、"Yellow Calx"だけが異様に冷たく憂鬱でかなり浮いた存在になっています。大人っぽいというわけではなく、そもそも人間じゃないような無機質感。それでも美しい。このアルバムでは特に好きな曲です。

この子供っぽさはなんでだろう。という疑問は、様々なレビュアーが一定の見解を出しています。Aphex Twinの本名はリチャード D. ジェームズ。このアルバムのCDジャケットを開くと、Richard Jamesと書かれた墓石の写真が掲載されています。実は彼はもともと双子の弟だったのですが、先に生まれた兄がすぐに亡くなってしまい、それを悲しんだ両親が兄の名前であるリチャードを弟につけた。という逸話が存在します。

兄の名前を背負って生きてきたリチャードは、自分の名前が刻まれた墓石を見た時はどんな心情だったのでしょう。このRichard D. James Albumは彼に捧げる鎮魂歌なのかもしれない、と言われております。

アートワークやMV、ライブのVJで、映る人間すべてに自分の顔をコラージュするような彼ですが、インタビューやエピソードを読むと、意外にも人間臭いんだな、と思うことがよくあります。世間一般に見せるものとして自分の笑顔をとことん悪用する、そうすることでアーティストのAphex Twinと人間のリチャードを隔離しているのかなと僕は考えます。





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