僕が初めて舞台に立った日

初めて舞台に立った日

僕の初舞台は今から8年前の2012年9月25日。
西荻窪駅にある劇場だった。

劇場とはいっても、普段はお笑いライブなどをやっていないような区民センターみたいなところで、そこを皆で借りてライブを開催していた。

どんなライブかというと、プロダクション人力舎の養成所「スクールJCA」の養成所生ライブだ。

2012年5月に大学を卒業したばっかりの僕は人力舎の養成所スクールJCAに入学した。
JCAのライブは9月からでそれまでは他のクラスの同期とはほとんど会えない。人力舎の養成所は大体「月水金クラス」と「火木土クラス」の2クラスなのだが、僕らの代は応募人数が多かったという理由で唯一の「阿佐谷クラス」というものが追加され3クラスの代になった。

他の2クラスの人達と初めて会うのが、この9月のライブをお互いに見学しにいく時なのだ。
なので初舞台の緊張プラス他のクラスの人達に見られる緊張もあった。

当時の僕のコンビは「カトリーヌ」というコンビ。一つ歳上の加藤小比呂という男と組んでいた。

加藤と鳥山で「カトリーヌ」最初のネタ見せでコンビ名を発表した時は相当笑われた。
僕らが選んだのは漫才。まずはライブの準備から始まった。JCAはライブの一週間前からそのライブのためのネタ見せや稽古が始まる。

まずは一週間前に各々が作ってきたネタを講師と同期の前で披露する。正直これが一番大変だった。ネタが終わった途端、全部作り直してこいと言われるコンビもいるし。30分以上ダメ出しされている人もいる。
基本的に褒められるなんてことはない。「まぁいいんじゃないかな」これくらいの言葉が最上級の褒めの言葉だ。

僕らのコンビもそのネタ見せ前からファミレスやマクドナルドや公園などを移動しながらずっとネタ作りとネタ合わせをしていた。それでも「ネタを変えたほうがいい」と言われたらどうしようと思っていた。

そしてなによりこのネタ見せはとてつもなく時間がかかる。昼の13時から開始されて終わるのは21時ごろ。8時間もの間、狭い稽古場に生徒がギュウギュウになってやっていた。

そんなネタ見せを2回繰り返してやっとライブのネタをやる順番が決められる。それからライブの最後にやるコーナーを決める会議をして、メンバーも決まり次第稽古に入る。
コーナーの稽古?と思った方もいるかもしれないが、養成所生のライブは全てやることを決めてからしか舞台に立てないのだ。

ネタの間に中MCトークといって、コンビが2組ほど出てただお喋りをするコーナーがあるのだが、そこも全て決められている。
皆で公園などに集まって稽古をする日々。そしてライブの前日に稽古場でライブの流れを最初から最後まで講師の人に見てもらい、ダメ出しをもらって調整をしてやっとライブ当日が迎えられる。

正直ここまで終わるので皆めちゃくちゃ疲れている。ライブの日まで忙しなく動いているから、初ライブが迫ってきている緊張などは感じる暇もなかった気がする。

クラスの皆との最後の調整が終わり、やっと家に帰ったのは夜中の2時ごろだった。明日はついに初舞台か。そのあたりからやっと緊張してきていた。その日はもちろんあまり寝ることができず、昼にはライブ会場に向かっていた。
ライブ開始は夜19時とかなのだが、その前に昼間にまたゲネといって本番同様でライブの流れを全てやるリハーサルがある。

それをまた講師の方に見てもらってギリギリまでダメ出しをしてもらうのだ。

ライブ会場についた僕はまず声が出るか確認した。狭い稽古場でしかネタをやったことがないので、自分が今ちゃんと声が出ているかわからなかった。なにを考えてもどんどん不安になってくる。周りの皆を見てもそうだった。皆普段と全然違くてフワフワしている。

そして14時ごろゲネが始まった。客席には講師の人が1人だけ座っている。舞台から客席を見ながらネタをするのは初めて。そして見ている人も講師の人なのでもちろん笑い声などはない。皆ことごとく噛み倒していた。
僕らコンビの出番は最後のほうだったので袖で見ていたのだが、そんな皆を見てどんどん緊張してきた。

そしてJCAのライブは受付から客席案内、音響、照明、場面転換、全ての裏方の仕事も生徒がやる。
なので出番ではない人達が皆走り回りながら裏方の仕事をやっていた。
初めてなことが一気にたくさんやってきて皆少しパニックになっていた。

ゲネの時のネタはどこを見ていいのか、どのくらいの声が出ているのか、そんなことを考えていたら終わっていた。
ゲネ終わりでダメ出しをされる。なにを言われたか覚えてないが、確か今のままじゃダメだ的なことを言われた気がする。
数時間後には本番だ。もう何を変えたらいいのかもわからない。相方と相談するがなんの案も出てこない。もうここまできたらやるしかないと言い聞かせ。本番が始まった。

ネタの前に中MCトークで舞台に立った。初めてがネタよりトークで一回立っといたほうが少しは緊張がほぐれるかなと思っていた。

だが元気よく舞台にでた瞬間、とんでもなく足が震えた。まず思った感想は「意外とお客さんの顔見えるじゃん…」だった。
高校の同級生の顔が見える。皆不安そうに見ている。声が震える。何を喋ったか覚えていない。ただ相方がものすごく頑張ってくれた記憶はある。
なんとか2組で乗り切りトークコーナー終了。袖に戻ると信じられないほどの汗をかいていた。

そのすぐ後にお客さんの前で初めての漫才。僕らの前のコンビがネタをやっている。笑い声が客席から聞こえてくる。「このまま前のコンビのネタが終わらなければいいのに」と思っていた。
前のコンビがオチのセリフをいって舞台が真っ暗になった。出囃子が鳴り始め、舞台にセンターマイクが置かれる。
「あぁ、もう無理だ。もう戻れない。数秒後にはあそこにいってネタを始めるんだ。一旦時間止まってくれないかな。無理か。だったらもうライブ後まで時間進んでくれないかな」などと考えていた。
舞台の電気がつき思い切り舞台に飛び出していった。

人生初めての漫才は、本当に楽しかった。

全くうけてないし技術もないしネタもひどいし声もしっかりでてないし間もぐちゃぐちゃだしひどいありさまだった思う。
でも終わって袖にはけた時に「楽しかった」と素直に思った。その後もクラスの皆で力を合わせて、なんとかライブを終えることができた。皆心底疲れ切っていた。

あれから8年。その時一緒のライブに出ていた人で今も芸人をやっているのは4人。だいぶ少なくなってしまったが、僕の初舞台はあのメンバーで本当に良かった。

初舞台のライブ後の写真。

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